12
「スコット君て意外と逞しいカラダしてるんだねーっ」
「い、いい加減にっ!」
〈グオオオオオオオオオオオオオオオッ!〉
「はっ!?」
スコットが抱き着くドロシーを引き離そうと四苦八苦している内に怪物の接近を許す。
「あっ」
「あ、あいつまだ生きてっ……」
だが、怪物の身体を緑色に発光する風のロープが拘束した。
〈グルオオオッ!〉
「おい、スコット! 早く距離を取れ!!」
「じぇ、ジェームズさん!? どうして此処に」
「俺の台詞だ馬鹿野郎! それと俺はジェイムスだ!!」
スコットはドロシーを抱えてその場を離れる。
悪魔の腕は動けない怪物の顎に右フックを食らわせ、中指を立てて挑発するような素振りを見せる。
〈グルルルルッ!〉
「余計なことすんな、悪魔!」
「大丈夫? 僕って重くない??」
「重くないですよ!」
〈グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!〉
怪物は自分を縛る風のロープを力任せに引きちぎる。
「わー、凄い。キッド君の魔法は拘束に関しては超一級品なのに……」
「しゃ、社長も何か魔法撃ってくださいよ!」
「それがねー」
キキイイイーッ
息を切らせて走るスコットの前にワイルドなオープンカーに成り果てた黒塗りの車が停まる。
「お乗りください、お嬢様。スコット様も早く」
そして妙に上機嫌な老執事が窓から顔を出す。
「ナイスタイミングよ、アーサー。でも社長って呼んで?」
「え、ええと車についてはその……」
「はっはっ、お気になさらず。替えの車がありますので」
〈グオオオオオオオオオッ!〉
「うおっ、来たっ!」
「はいはい、スコッツ君も乗ってー」
ドロシーがスコットを車内に引きずり込んだのを見てから老執事は車を猛スピードでバックさせる。
「うーん、あんなのが出てくるのがわかってたら長杖も持ってきたのにね。魔法耐性に耐久力も備えてる相手に護身用の短杖じゃ火力不足だわ」
「で、でも、とりあえず撃つだけ撃てばそのうち」
「それがね、もう弾切れなの」
持ってきた魔法杖から焼き切れた術包杖を排莢し、ドロシーはあははと困ったような笑顔になる。
「魔法に弾切れとかあるんですか!?」
「魔法使いは杖がないと魔法が使えないの。他所の世界の魔法使いも同じかは知らないけどね」
「はぁ!?」
〈グオオオオオオオオッ!〉
怪物は執念で車に追いつき、車ごとスコット達を叩き潰そうと拳を振り上げた。
「おい、悪魔! まだ全然元気だぞ! 本気で殴ったのか!?」
「その子の名前は悪魔でいいの? もっとちゃんとした名前考えてあげようよ」
「そんなのどうでもいいじゃないですか! 今は」
「あーっはっはっはーっ!」
怪物を迎撃しようとした悪魔の拳が相手に届く前に、笑い声を上げる黒い何かが怪物の腕を切り裂いた。
「あははははっ! 待たせたな、ドリーちゃーん!!」
赤い瞳を煌めかせ、まるで黒い疾風のような速さで駆けつけた少女は怪物を踏み台にして跳躍し、構え直した黒い日本刀を硬い鱗に覆われた背中に深々と突き刺す。
〈グギャアアアアアアアアアアアアアッ!〉
「あはは、何だお前! トゲトゲして硬いな! ブッサイクだな! あははははっ!!」
〈グオオオオオオッ!〉
「声も汚えなぁ! あはは、最悪だ! 死ね!!」
黒い兎の耳をピンと立て、アルマは笑いながら怪物を滅多刺しにする。
「おや、ようやくご到着ですか。アルマ様」
アルマの姿を確認した老執事はブレーキを踏んで停車する。
「わー、凄い。僕があんなに頑張ってもノーダメージだったのに……やっぱりアルマ先生は強いなぁ」
「……社長、あれは」
「ああ、あの人はアルマ。ルナの双子の姉妹で、僕の先生よ」
「双子!? 先生!?」
笑いながらザクザクと怪物を突き刺しまくるアルマがあの可憐なルナの双子だと聞かされたスコットは目を見開いて困惑した。
「え、全然似てませんよ!?」
「顔はそっくりだよ? 中身はまぁ見てのとおりだけど」
「実にいい笑顔で楽しそうですな。アルマ様が戦う姿はいつ見てもお美しい」
「……」
「お嬢様には敵いませんがね」
「気を使わなくてもいいよ、アーサー。それに社長って呼びなさい?」
一方的に怪物を蹂躙するアルマの姿を 美しい と表現する老執事にスコットは真顔でドン引きする。
〈グオオオオオオオッ!〉
怪物は苦し紛れに身体を激しく揺らしてアルマを振り落とそうとする。
「わははははーいっ! そんなに暴れるなよー!!」
〈グルァアアアアアアアアアアアアアアアアーッ!!〉
「あはははっ!」
アルマは怪物から日本刀を引き抜き、背中を蹴って距離を取る。
そして乱暴に扱いすぎてボロボロになった刀身を見てニヤリと笑う。
「本当に硬いなー、お前! あたしのエモノが台無しじゃねーか!」
〈グルルルルルルルルルルッ!〉
「それにまだまだ元気だ、タフな奴だなぁ!」
使い物にならなくなった刀をポイッと捨て、アルマは足元に転がっていた細い鉄骨を拾いあげる。
「いいね、顔はブサイクだけど気に入った!」
彼女の瞳が不気味に輝く。
すると鉄骨は赤色の燐光を放ちながら姿を変え、一瞬で唯の鉄骨が鞘付きの黒い日本刀に変化した。
「かかって来な! もしあたしに勝てたら、お前の好きなようにされてやんよ!!」
鞘から刀を抜き放ち、獰猛な笑みを浮かべてアルマは心底楽しそうに言った。
女の子×日本刀は実に紅茶薫る組み合わせだと思います。素敵ですよね。