13
「ふふふっ、お待たせしました! 特製たまごサンドです!」
ドロシー達の来店に喜ぶアトリが嬉しそうに料理を運んできた。
「ありがとう、アトリちゃん。今日も美味しそうー!」
「ふふふ、おいしいですよ! 私達の愛情がたっぷり篭ってますから」
アトリはタクロウを見てうふふと笑う。
「いーや、俺の愛情はアトリさんと他の客にしか注がれないから。お前の皿に俺の愛は無い」
タクロウはそっぽを向きながら言った。
「おら、さっさと食って帰れよ」
「やだよ。じっくり時間をかけて味わって食べるー」
「やめて?」
「やめない」
「殺すよ?」
「殺さないでー」
ドロシーはタクロウと楽しげに会話しながらたまごサンドを頬張る。
「んー、おいしー!」
彼女の幸せそうな顔に背を向けてタクロウは厨房に戻って行った。
「相変わらずですな」
「はむはむ、本当ね。素直になれない子」
「うふふ、私もそう思います」
「……」
スコットは複雑怪奇な二人の関係に目を細める。
仲が良いとは決して言えない、一見すれば険悪にしか見えないのに続くドロシーとタクロウの交流。
どうして彼女はあそこまで拒絶されて尚も彼を慕うのか。
スコットには理解出来なかった。
(……俺だったら『クソヤロー』とか『殺すぞ』とか『出ていけ』と言われたらすぐ嫌いになるのになぁ)
自分には理解出来ない信頼関係があの二人にはあるのかもしれない。
そう思ってスコットはたまごサンドを口元に運んだ。
「ヤ、ヤモッ! ヤモッ!」
「ん? 何だ、食いたいのか?」
「ヤモッ!」
「ほらよ、食え。美味いぞ、このサンドイッチは」
肩の上でヤモヤモと鳴くヤリヤモちゃんにサンドイッチをちぎって与える。
(ち、違うぞ! 私はありがとうって言ってるんだ! お腹は空いてない!!)
ヤリヤモちゃんことデモスの感謝の言葉はスコットには届かず、ただお腹を空かせているのだとしか受け取られなかった。
与えられたサンドイッチの欠片を持ちながら彼女は何とか想いを伝えようとするが……
「ヤモー! ヤモーッ!」
「わー、可愛い。凄く喜んでるよ、スコッツ君」
「そうみたいですね」
「あっ! ひょっとしてその子はヤリヤモちゃんですか!?」
「ヤモヤモォー!」
「そうだよ、ヤリヤモちゃん。ぬいぐるみじゃなくて本物よ、ちょっと記念に管理局からレンタルしてきたの」
サンドイッチを掲げ、スコットの肩で体を上下左右に揺らしながらヘンテコな動きをするマスコットにアトリは目を輝かせる。
「きゃー、可愛い! ちょっと触っても良いですか?」
「ヤモーッ!」
自分に触れようとするアトリをサンドイッチの欠片を振り回して威嚇する。
どうやら身体に触られるのは嫌のようだ。
「お、おい。サンドイッチ振り回すなよ、それは玩具じゃなくて食べ物だぞ?」
「ヤモーッ!!」
「あらら、ひょっとして嫌がられてます……?」
「そうみたいね」
ヤリヤモちゃんにお触りNGを出されてアトリはしゅんとする。
「ところでサンドイッチ食べないのか? 美味いぞ?」
「ひょっとしたら食べ物いらないのかもね」
「ヤモッ!?」
「そっか、残念だな」
スコットはヤリヤモちゃんからサンドイッチの欠片を取ろうとするが、彼女はガシッと掴んで離さない。
「な、何だ?」
「ヤモー!」
「食うのか食わないのかどっちだよ? 食うならさっさと食べろよ」
ヤリヤモちゃんは悩んだ。空腹ではないが、与えてくれた食べ物は手放せない。
彼女には スコットからの贈り物 という事に大きな意味があったからだ。
(ええい、こうなったら……っ!)
意を決したヤリヤモちゃんは口をグワッと大きく開いてサンドイッチを頬張った……
◇◇◇◇
場所は変わって異常管理局セフィロト総本部 賢者室。
「同志は楽しんでいるかな」
賢者室の執務机の上でヤリヤモ達がお茶を飲んでいた。
「きっとたのしんでいるー」
「うん、同志が彼処まで身体を張ったのだからな。このまま上手くいって貰わないと困る」
「ちゃんとあの異種族にお礼を言えるといいな」
ヤリヤモは呑気にお菓子を食べながらデモスのちょっとした計画が成功するのを祈る。
\ペーッ、ペーッ、プェーッ/
「あっ、交代の時間だ」
「次はわたしたちの番かー」
「そうだな、今日も頑張るか」
机に設置されたタイマーが鳴り響く。
すると賢者室のドアが開いてフライングデスカーに乗った数体のヤリヤモちゃんがふよふよと帰還した。
「おかえりー」
「ヤモー」
「ヤモー!」
「ヤモッ!」
「ヤモー!!」
ヤリヤモちゃんを乗せたフライングデスカーが執務机に着陸。
着ぐるみに身を包んだヤリヤモ族が彼女達に近づく。
「ヤモヤモ……はふー。今日も頑張ったぞ」
着ぐるみを ぬぽんっ と脱いでアンダーウェア姿のヤリヤモが姿を現す。
彼女に続いて他のヤリヤモも着ぐるみを脱ぎ、ほふぅと一息ついた。
「あとはまかせろー!」
「任せるー!」
「同志が抜けた分は仕方ない、有り合わせで用意したアストラル模倣体で埋めよう」
「うむ、同志には楽しんでもらわないとな」
「はふー、疲れたー」
頭頂部の触覚をピコピコと揺らしてヤリヤモ達は役目を交代する。
このように彼女達は交代ごうたいでヤリヤモちゃんに扮しているのだ。
デモスと異なり、交信器が健在の彼女達は意思疎通や情報交換が瞬時に出来る。
まだデモスが統率者であるので彼女達が目立った行動を起こすことは少ないが……
「同志の為にー!」
「私達は頑張るぞー!」
「「「ヤモーッ!!」」」
……もしもデモスが死亡するか何らかの事情で統率者ではなくなった場合、彼女達から新しいデモスが選ばれる。
それはつまり全ヤリヤモと意思疎通出来る新たな脅威がこの異常管理局総本部で発生するという事だ。