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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.12「天使と悪魔とエイリアン」
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8

「だ、大賢者様……!」


 建物内で魔法を放ち、壁と床に大穴を開ける大賢者の姿に流石のサチコも引いていた。


「……ごめんなさい、サチコ。ついカッとなってしまったわ」


 正気を取り戻した大賢者は頭を抱えていた。


 一般人相手に魔法を斉射、それも一発でも当たれば即死する威力の魔法を。

 いくらスコットの言葉が彼女の逆鱗に触れたとは言えやり過ぎだ……


「さて、どうしようかしら……せめて死体が残っていれば良いのだけど」

「あ、あの魔法の直撃を受けては死体どころか……」

「う、うぐぐ……っ!」


 立ち籠める白い硝煙の中から聞こえた男の声。


 沈黙する二人の目の前に、大きな青い羽根を盾代わりにして一斉放射を凌ぎ切ったスコットの姿が現れる。


「な、何てことするんですか! マジで死ぬかと思いましたよ!?」


 サチコの表情にハッキリと驚愕の感情が浮かび上がる。



(……大賢者様の魔法を、耐え切った……?)



 大賢者の魔法を受けてこの男は死んでいない……それどころか大したダメージを受けていないのだ。


 衣服はボロボロでところどころに怪我をしているが、()()()()()()()()()で済んでいるのは異常としか言い様がない。


「……驚いたわね」

「流石にやり過ぎですよ、アンタ! 俺じゃなかったら欠片も残ってませんよ、コレ!?」


 怒り心頭のスコットに呼応しているかのように悪魔は翼を腕に変化させ、不機嫌そうに床をバンバンと叩く。


「あの魔法を受けて倒せない特異能力者……危険すぎるわ」


 大賢者は指をパチンと鳴らす。


 するとスコットの周囲に白い魔法陣が発生、ついに説得は無理だと悟ったスコットも彼女を敵と認識し、その瞳に青い光を宿す。


「……本気で俺を殺す気ですか?」

「そうね、ここで貴方を処理しておいた方が良いでしょうね」

「ッ!!」


 スコットは咄嗟に防御体勢を取る。


 しかし気が付けば穴だらけになった白い床や壁は元通りに修復され、大賢者は溜め息を吐いてソファーに腰掛ける。

 彼女が使った魔法は攻撃ではなく、破壊した部屋を修復する為のものだった。


「なっ……!」

「……でも、今日は見逃してあげるわ」

「はぁ!?」

「早くここから立ち去りなさい。私の気が変わる前に」

「ちょっ、ふざけんなよ!? 殺しかけておいて何だその言い方は!」


 スコットは激怒した。


 本気で殺しかけておいてこの態度は何だ。

 大賢者の勝手すぎる物言いに怒り心頭の彼は、彼女を指さしながら物申す。


「せめて一発くらい殴らせろ! もしくは本気で謝れ!!」

「ごめんなさい」

「えっ、あっ!?」

「謝ったわ、これでいいかしら? さぁ、帰りなさい。出口はあのドアよ」


 大賢者が指を鳴らすと白い壁に大きなドアが現れた。


「……」


 スコットは反応に困った。


 大賢者の姿はルナに酷似しており喋り方や物腰柔らかで儚げな雰囲気も彼女とよく似ているが、ドロシーの事になると熱くなって人の話を聞かなくなる点や情け容赦ない攻撃性がアルマにそっくりだ。

 そして自分が満足すればケロッと態度を変える所はドロシーを連想させる……


 あの三人の魔女の性格を一つの肉体に押し固めた大魔女(ラスボス)、それが大賢者なのだ。



(……あんまり関わり合いにならないほうがいいタイプの人だな)


「早く帰った方がいいわよ。今の私は機嫌が悪いから」


(ああくそっ、言われなくても!)



 ────バゴォォォォン!



 しかしスコットがドアノブに手をかける直前にドアは白い壁ごと破壊された。


「はっ!?」

「迎えに来たわよ、スコッツ君」

「しゃ、社長!?」


 ドアごと壁を破壊して現れたのは、不機嫌そうな顔で杖を構えたドロシーだった。


「……」

「……」


 大賢者とサチコは再び沈黙した。


「ハーイ、ロザリー叔母様。久しぶりね」

「……これはどういうつもりかしら? ドロシー」

「こっちの台詞よ」


 ドロシーはトレードマークの丸眼鏡をギラりと輝かせ、大賢者に杖を向けて言う。


「大事なパートナーに何してくれてるのよ! いくら()でも我慢の限界はあるのよ、叔母様!!」


 ドロシーは一切躊躇せずに魔法を放った。敬愛する義母そっくりの叔母に向かって……


「誤解よ、ドロシー」


 だが放たれた魔法は小さな障壁に阻まれる。


「ちょっ、社長ォォォー!?」

「何が誤解よ! 本気で彼を殺す気だったでしょ!!」

「誤解なのよ、ドロシー。私は彼を殺すつもりなんてなかったわ」


 怒ったドロシーは魔法を連射する。

 大賢者はドロシーの魔法を障壁で防御し、殺すつもりはなかったと宣う。


「殺すつもりが無いならどうしてこの部屋に彼を呼んだの!? あの爆発音はどう説明する気!!?」

「……あの爆発に関しては確かに私に非があるわ。でもね、ドロシー」

「っ!!」


 大賢者が指を鳴らすとドロシーの持っている魔法杖が白い床に吸い込まれるように勢いよく落下。

 まるで床が強力な磁石に変化しているかの如くガッチリと固定される。


「少し落ち着きなさい」

「落ち着けるもんですか! 貴女は私のパートナーを殺そうとしたのよ!?」


 ドロシーは衣服がボロボロになって頭から血を流しているスコットをビシッと指差す。


「あ、いや……もういいですよ、社長。大した怪我じゃないですし」

「何言ってるの、ボロボロじゃないの!」

「み、見た目ほど酷い怪我じゃないですから……」

「絶対に許さないよ、叔母様! 覚悟しなさい、その白いドレスを真っ黒にしてやる!!」


 どういう訳か自分よりも激怒して大賢者に魔法を連射し、杖を失って尚も敵意を剥き出しにするドロシーにスコットは引いた。


「やめなさい、ドロシー。もう彼に手を出さないから、機嫌を直してちょうだい? アレは不慮の事故だったのよ」


 そしてドロシーが現れてからあからさまに態度が変わった大賢者にもドン引きした……


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