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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.12「天使と悪魔とエイリアン」
261/542

5

「ち、血が?」

「勿論、アルマ……そしてドロシーとも繋がっているわ。詳しくは教えられないけれど」


 大賢者はソファーに腰掛け、ルナのように透き通った瞳でスコットを見る。


「座りなさい、スコット・オーランド君」

「あ、はい……失礼します」


 スコットは彼女の美貌にドギマギしながらソファーに座る。

 サチコは無言で大賢者の隣に立ち、彼に鋭い視線を向ける。


「この部屋に貴方を呼んだ理由は三つあるわ。一つ目は、彼女(インレ)の討伐に協力してくれた事への感謝を伝えたかったの」

「えっ?」

「貴方の力なければ彼女は倒せなかったわ。ありがとう、この街を救ってくれて」


 大賢者はスコットの目を見つめながらお礼を述べる。


 スコットは困惑した。


 もしかしたら……と思っていた事が本当に起きたからだ。

 階級が上がり、脅威度が上がった事など一瞬で吹き飛んだ。


「そ、そんな……俺なんてただ頑丈でブン殴るしか能がなくて。結局、あの化け物を倒したのは……」

「あの子が彼女を倒す切っ掛けを生み出せた。それだけでも十分な戦果よ」


 あまり褒められる機会がなく顔を赤くして照れるスコットに大賢者は微笑みながら言った。


「二つ目は貴方の異能力についてよ」

「え、あっ……」

「正直に言うと貴方の能力は異常よ。あのヒュプノシアを物理攻撃で討伐したのは貴方が初。しかも魂魄体封殺呪文(ソウル・ブレイカー)込みとは言え、インレにあれだけ食い下がったのも驚嘆に値するわ」

「……」

「……本当ならこのまま貴方の身柄を確保したい所よ」


 先程までの優しげな顔から一変、真剣な表情で手を組みながらスコットを見つめる。


「そ、それは……」

「でも今回は特別よ。貴方の確保は保留、引き続き民間人として街で生活することを許可します」

「……」

「ただしあまり派手に暴れないようにね? ()()()()()を見る限り、貴方はとても危険な存在だから」

「!」


 大賢者が口にした言葉でスコットは目を見開く。


「……俺の過去を、調べたんですか?」

「ええ、全て調べさせてもらったわ。だから此処に呼んだの」

「……」


 サチコはスコットの顔を見て眉をひそめる。

 そっと右腕をコートの中に忍ばせ、魔法杖(スタッフ)に手を付ける……


「やめなさい、サチコ」


 だが、大賢者はサチコを制止した。


「……失礼しました」

「最後の三つ目を話す前に彼に暴れられると困るわ」

「……俺が暴れる事前提ですか」

「ええ、そうね。杞憂に終わってくれればそれでいいけど」

「……」

「それじゃあ三つ目を話すわね」


 過去について触れられて目つきを変えたスコットを顔色一つ変えずに見つめながら大賢者は言う。


「貴方とドロシーはどういった関係なの?」


 大賢者の言葉に、スコットは呆気にとられる。


「えっ?」

「貴方がドロシーとあの屋敷で生活している事はもう知っているわ」

「え、いえ……どういった関係と言われても」

「正直に言いなさい」


 大賢者は真剣な表情でスコットを睨む。


 突き刺すどころかブチ抜かんばかりの鋭い視線には明らかに殺意じみたドス黒い波動が宿り、彼を思いっきり威圧する



(え、何? いきなり何を言い出すの、この人!? コワイ!!)



 スコットは震え上がった。


「え、ええと……社長と社員の関係です」

「ふざけるのはやめなさい」

「ふざけてませんよ!?」

「あの子が貴方の部屋に毎日通っている事もわかっているのよ」

「はぁっ!?」


 大賢者はスコットをドンドン追い詰める。


 サチコは無表情で大賢者を見つめ、スコットは大組織のトップにドロシーとの関係を問い詰められるという意味不明な状況に困惑するしかなかった。


「……え、ええとあの、社長とはその」

「正直に言えば開放するわ。嘘をついたら 抹殺 よ、欠片も残さないわ」

「ひえっ!?」

「言いなさい、スコット・オーランド」


 まさかの抹殺宣言。後がないと悟ったスコットはぐぬぬと苦悩しながら正直に話す……


「しゃ、社長とは毎晩、同じベッドで寝てます……その、何度言っても忍び込んでくるんです」

「……」

「あ、あの! 誤解しないでくださいね!? 俺にもよくわからないんだから! 社長とは恋人とかそういう……」


 ここでスコットの脳裏を今朝の光景が駆け抜ける……



『僕を()()()()()()責任は……ちゃんと取ってもらうよ?』



 頬を染めながらドロシーが言い放った呪詛がスコットに死を覚悟させた。


「……すみません、彼女とは恋人って程じゃないですけど親密な関係になってます」


 スコットは正直に答えた。


 言い逃れしたところで大賢者は逃さないだろう。

 正直に言って死ぬか、嘘をついて死ぬかのどちらしか無かったのだから。


「……そう」


 スコットの決意の告白を受けて大賢者は目を閉じた。



「スコッツ君まだかなー?」

「まだ出てくる気配がありませんな」

「そろそろお昼の時間なのにねー」


 総本部の建物前で紅茶を飲みながらドロシーと老執事がスコットの帰りを待っていた。


「んむむー……」


 ドロシーは足をブラブラと揺らす。ひたすらいじらしく愛らしい彼女の仕草に老執事は終始ニッコニコだった。



(ああ、神よ。感謝いたします。ここまで愛らしいお嬢様が拝めるとは……このアーサー、至福の極みでございます)



 老執事は神に心からの感謝を述べ、スコットの帰りを待ち侘びる乙女モード全開のお嬢様のお姿を目に焼き付けていた。


「……よーし、決めたわ」

「お嬢様?」

「行くわよ、アーサー。これから本部に乗り込むわ」

「おやおや、よろしいのですか? お嬢様は招待が無ければ立入禁止を言い渡されているのでは」

「いいのよ、もう何回も破ってるし。ロザリー叔母様も僕に会いたがってるだろうしね」

「わかりました、お嬢様。このアーサー、喜んでお供致します」


 痺れを切らしたドロシーは建物に足を踏み入れ、老執事も満面の笑みで彼女についていった。


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