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リンボ・シティ1番街区 異常管理局セフィロト総本部
「ど、どうもお久しぶりです」
その建物の1階にある取り調べ室にスコットは再び連れてこられた。
「はい、お久しぶりです」
額に角が生えた女性職員は相変わらず事務的で素っ気ない対応で彼を迎える。
「その……俺がここに呼ばれた理由って……」
「ジェイムス様にお聞きになられたのでは?」
「まぁ、はい……」
事務的を通り越してもはや機械的とも言える彼女の対応にスコットは何とも言えぬ顔で目を細める……
「まぁ、実は俺も詳しくは知らされてないんだ。急に大賢者様からお前を呼ぶように言われてな」
少し時は遡り、スコットを乗せた車が本部に向かう途中にジェイムスが言った。
「だ、大賢者様?」
「異常管理局の代表。俺の組織で一番偉い人だ」
「はあっ!?」
スコットは驚愕する。リンボ・シティの治安維持を担う大組織のトップに呼ばれたのだから。
「な、何でそんな人が俺を?」
「いや、俺も詳しい事はわからん。ただ君が宿した異能力について少し認識を改める必要があるとか……」
「……」
「詳しくは本部で聞いてくれ。俺は立ち会えないが、君のこれからに関わる重要な話になることは間違いないだろうな」
「……でも詳しくは教えてもらえませんでしたよ」
「そうですか。失礼致しました、ジェイムス様には知らされていないのですね」
時は戻って取調室。角の生えた女性職員は感情が読み取れない瞳にスコットの顔を映しながら淡々と話し出す。
「先日の天使戦における貴方の活躍から、大賢者様直々に貴方の異能力の階級及び脅威度の見直しが決定されました」
「えっ?」
「大賢者様からの指示で階級が見直されるのは異例です」
スコットは目を丸める。
階級や脅威度の見直し、それも異常管理局代表である大賢者からの指示だという。
スコットは少しだけ期待で胸が膨らんだ。
(な、なるほど。確かにあの戦いで俺は頑張ったもんな……褒美として脅威度が下がったりするのか?)
天使達との熾烈な戦いを思い出す。
スコットの力がインレ討伐に大きく貢献し、リンボ・シティを救う一手になったのは事実。
本人は特に意識していなかったが、彼はこの街を救った英雄の一人なのだ。
(そういえば天使を倒したのに街の人に褒められたり、管理局からお礼を言われたりもしなかったけど……この機会にお褒めの言葉とか貰えるのかな?)
スコットは『そんな偉い人に褒められるなんて光栄だなぁ』とでも言いたげな感慨深い顔で腕を組む。
「では大賢者様の指示により、今日から貴方の特異能力の階級をBクラスから Aクラス に変更。それに伴い脅威レベルは【5】に固定されます」
「は!?」
職員はそんなスコットに無表情で言い放った。
「えっ、あっ!?」
「Aクラス特異能力者のペナルティは一桁区の居住禁止、一桁区の宿泊施設の利用を禁止及び店舗への入店制限、一桁区在住の民間人との結婚を禁止、担当の監視役は個人の判断で対象の無力化が許可されます」
「何で上がってるんだよ!?」
流石のスコットも納得できずに席を立って職員に突っかかる。
「上位存在にも有効打を与える上にSクラス規格外生物種を単独で討伐可能。それに加えてウォルターズ・ストレンジハウスの構成員であるという点で妥当な判断かと思われます」
彼女は表情一つ変えずに言い放った。
「……っ!」
「私からは以上です。ここからは直接、大賢者様からお聞きください」
「……え?」
「お疲れさまです、メアリーさん。ここからは私が代わります」
「!?」
薄暗い取調室の壁がドアのように開き、中から大賢者専属秘書官のサチコが現れる。
「お願いします、秘書官」
「そ、そこドアだったんですか!? 貴女は一体……」
「申し訳ありません。貴方との会話は控えるよう大賢者様より言われておりますので、何も言わずに着いてきて頂けると助かります」
「アッハイ……」
角の生えた女性職員メアリーに負けず劣らずの冷たい態度を取るサチコにスコットはたじろぐ。
(……あれ? この人、何処かで見たことあるような)
だがスコットは初対面である筈のサチコの姿に既視感を覚えた。
艷のある黒い髪に整った顔立ち、淡い水色の瞳。
そして洒落た制服が様になる抜群のスタイル……
「……」
「此方へ来てください、スコット・オーランド。あまり大賢者様を待たせたくないので」
「……あ、すみません」
サチコの姿に少し見惚れてしまったスコットは我に返り、頭をペコペコと下げてドアをくぐる。
「……な、何だここは」
「ここは総本部の特別待合室よ」
「えっ?」
壁のドアの先に広がっていたのは真っ白な壁に覆われた部屋。
お洒落なクラシック調のテーブルに年代物のソファーと絨毯。
窓や照明も無いのに明るい不思議な部屋で一人の女性がスコットを待っていた。
「はじめまして、スコット・オーランド。私が異常管理局セフィロト代表の大賢者……ロザリンド・セオドーラよ」
スコットは大賢者の姿を見て硬直した。
その人間離れした美しさに、そしてその美貌から感じられる強烈な既視感に。
「……ルナさん?」
大賢者の姿は髪を伸ばしたルナとそっくりだったのだから。
「……ふふ、貴方から見ても私と彼女は似ているのね」
「あっ、す、すみません……」
「気にしないで。似ているのは事実だから……彼女とは血が繋がっているもの」
「えっ!?」
大賢者は驚くスコットを見てくすりと笑った。