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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.12「天使と悪魔とエイリアン」
259/542

3

暇を持て余した畜生のお遊び。

 場所は変わってリンボ・シティ4番街区。喫茶店 YAMADA COFFEE前。


「おう、来たか。すまないな、いきなり呼び出して」


 待ち合わせによく利用する店の前で待つジェイムスの所にスコットがやって来る。


「ど、どうも ジェイムスさん。あの話があるって一体……」

「ああ、その事については本部に向かう途中で話すよ」

「えっ?」

「あの車に乗ってくれ」


 ジェイムスは道路脇に停められた見覚えのある白い高級車(ロールス・ロイス)を指差す。


「え、あの……」

「人前じゃ出来ない大事な話なんだ。直接、本部に来てもらう必要がある」

「……」

「乗ってくれ、スコット」


 いつもの気さくな雰囲気とは違い、最初に出会った時のような真剣な顔で乗車を迫られる。

 スコットは困惑しつつも素直に指示に従った。



(……ああ、またこの車に乗るのか。嫌だなぁ)



 移住初日に経験した嫌な思い出を回想しつつ、スコットは車に乗った。


「今日は何か予定でもあったのか?」


 後から乗車したジェイムスが隣に座って言う。


「……一応は」

「それはすまなかった。出来るだけ早く終わるようにお願いしてみるよ」

「あ、あの……それで話というのは?」

「ああ、君の異能力についてだ」


 スコット達を乗せて白い高級車(ロールス・ロイス)が走り出す。



「あらら、スコッツ君が連れて行かれちゃったね」

「そうですな」


 後方で様子を見守っていたドロシーと老執事は目を丸くしながら互いの目を見合わす。


「アーサー、後を追って」

「今から追いつけますかな」

「どうせ到着するのは総本部よ。スコッツ君が出てくるまで本部前で待っててあげましょう」

「かしこまりました、社長」


 二人はそぐ傍に停めていた黒塗りの高級車(エクステリア)に乗ってスコット達を追う。


「どうして彼を連れて行くのかな」

「さぁ、大賢者様がスコット様に興味が出たのかもしれませんな」

「アーサー、冗談はやめなさい?」


 老執事の冗談にドロシーは真剣な顔で釘を刺す。


「申し訳ございません」

「叔母様が男に興味を持つ筈がないでしょ。あの人は死ぬまで独身を貫くつもりなんだから」

「死ぬまでですか、それはそれは……」

「そうじゃないと未だに恋人が居ないのがおかしいもの」


 自分の事は棚に上げて大賢者に失礼な事を言うドロシー。

 その表情は真剣そのもので老執事の冗談が実はかなり効いているようだ。


「大賢者様は今年でいくつになりましたかな」

「うーん、知らない。お義母様より100歳は年上だと思うよ、流石にメイスちゃんほどじゃないだろうけど」

「はっはっ、結構なお年頃でございますな」

「その歳でスコッツ君が気になるわけないでしょ」


 確証もないのに不機嫌そうに窓の外を睨むドロシーが映るバックミラーを満足気に見つめ、老執事は車のスピードを上げた。



 ◇◇◇◇



「だらーん」

「あらあら、アル様。そんな格好で転がるなんて端ないですわよ」

「いーんだよ、ドリーちゃんも非童貞も居ないしー」


 場所は変わってウォルターズ・ストレンジハウス。ソファーの上で下着姿のアルマが退屈そうに寝転がっていた。


「お歳がお歳なので女を捨てたくなるのもわかりますが、もう少し気になさってくださいませ」

「喧嘩売ってんのか、テメー!」

「だって、本当に見苦しいんですものー。少しは奥様を見習ってくださいー」


 ニックを膝に乗せて優雅に紅茶を飲むルナを指差してマリアは言う。


「ぐぬぬぬーっ!」

「あら、気にしないで。私はそんなアルマも好きよ?」

「うるせーっ! ルナは裸で寝るだろぉ! 下着を着てる分、あたしの方がマシだぁー!!」

「奥様は起きたらちゃんとしたお姿になられるじゃありませんか」

「ぐぐぐっ……! わかったよ、ちゃんと服を着たらいいんだろ!?」

「うふふ、それだけでは足りませんわ」


 マリアはアルマに怪しげな視線を向けながら頬に手を当てる。


「な、何だよ……」

「アル様はもう少しご自分の美しさに自覚を持つべきです。いつも同じような服装ですし、女性らしさの欠片もないラフな格好がデフォルト。それではいけませんわ」

「い、いや、別にいいじゃん……何だよ今更」

「いいえ、今だからこそちゃんと直してもらわないと困るのです」


 マリアは目をギラリと輝かせ、珍しく興奮した様子で言う。


「もうすぐお嬢様が 新しい旦那様 をこの家に迎えるのですから、アル様にはもっと女らしく振る舞っていただかないと面白くありませんわ!」


 アルマは困惑した。

 あのマリアから活き活きとした表情でそんな事を言われるとは思わなかったからだ。


「え、いや……急に何言い出すの? 別にいいじゃん」

「いいえ、困ります」

「誰が困るんだよ!」

「私がですわ」

「マリアが!?」


 おかしなテンションで畳み掛けてくるメイドにアルマはたじろぐ。

 ルナは気まずそうに黙り込むニックを撫でながら二人の様子を見守っていた。


「急に女らしくなったアル様を見てスコット君は貴女に興味が出るでしょう。もしかしたら奥様のような関係になれるかも……」

「うっ……!」

「そしてそんなアル様を見て対抗意識を燃やすお嬢様。唯でさえ可愛らしいお嬢様が更に可愛らしくなるのは必然……それはそれはもう素敵なお顔を見せてくれるでしょう」

「な、なるほど……」

「見たくありませんか? 子供らしいお嬢様が頑張って女らしくなろうとするあざとい姿を」

「見たい!!」


 アルマは勢いよく立ち上がり、マリアとガシッと握手する。


「そうと決まれば早速、お洒落ですわよー」

「おおぅ!あたしはお洒落とか知らねえからお前に任せる」

「うふふ、お任せを!」


 すっかりその気になったアルマの背中を押してマリアはリビングを出ていく。


「……止めなくていいのか?」

「ええ、いいのよ」

「君はドロシーの義母(ははおや)だろう? あんな企みを聞かされて黙っていられるのか?」

「ああでも言われないとアルマはお洒落をしないもの」


 ルナはうふふと笑いながら呆気にとられるニックの頭を撫でる。


「マリアはただアルマにお洒落をさせたいだけなのよ」

「そ、そうなのか?」

「ええ、ただお洒落したアルマを見たいだけよ。色々とお洋服を着せ替えて楽しみたいんでしょうね」

「……どうしてそんな事を」

「最近、ドリーが家にいない日が多いからその退屈凌ぎよ」


 ニックは戦慄した。


 今日の退屈凌ぎの為だけに、ドロシーを餌にアルマを玩具に変えたマリアの恐ろしさに……


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