18
「……」
時刻は深夜0時、スコットはベッドの上で悶々としていた。
「……眠れん」
レンが別れ際に言い放った一言が原因だ。
「何でああいう事言うかなぁ……くそぉー……嫌ってくれたら良かったのに」
何度も寝返りを打つが一向に眠くならない。このままでは眠れないと悟った彼は起き上がり……
「よし、悪魔出てこい」
背中から青い悪魔の腕を呼び出す。
「俺の頭を思いっきり殴れ!」
迫真の表情で悪魔に殴れと頼み込んだ。
だが、悪魔はスコットの頭を突いて『何を言ってるんだ?』『頭は大丈夫か?』とでも言いたげなジェスチャーを取る。
「いや、寝れないんだよ! レンさんの言葉が気になって……」
スコットは正直に打ち明ける。
悪魔はそんな彼の肩をポンと叩くと玄関の方を指差し、左手でOKサインを作って右手の人差し指をピンと立てる。
そして左手で作った丸に人差し指を差し入れて『やっちまえ』のジェスチャーを取った。
「ふざけんな、コラ! おい、悪魔! おいっ! 悪魔ぁぁぁーっ!!?」
冒涜的ハンドサインでスコットを煽り立てながら悪魔は背中に戻っていった。
「くっ、くそう!」
余計に眠れなくなったスコットは行き場のない苛立ちをベッドにぶつける。
「こ、こうなったら……」
スコットはベッドを出てベッド下からあるものを取り出す。
「コイツの力を借りるしかない……」
それはあの店の一件以降、決して触れるまいと誓っていた禁断のアイテム。
お酒だ。
「このまま一気飲みしたら……多分寝れるよな」
ドロシーから引越し祝いとしてプレゼントされた高級ブランデー。
あの時は嫌がらせにしか思えなかったが、まさかその嫌がらせに縋る事になるとは。
スコットは涙しながらボトルを開けた……
「……」
深夜1時、寝間着姿のドロシーがスコットの部屋にこっそりやって来る。
「……ちゃんと寝てるよね。疲れてるって言ってたもの、流石にまだ起きてたりしないよね……?」
ドロシーは物音を立てないように気をつけながらスコットのベッドに向かう。
今日はルナとニックをお供につけずに彼女一人だ。
「……ッ!?」
そして部屋に入ったドロシーは驚愕した。
スコットがベッドではなく部屋のど真ん中で大の字になって寝ていたからだ。
「ちょっとスコット君、寝相悪過ぎ!」
「ぐがー……」
「もー、仕方ないわね……」
記憶にはないスコットのだらしない姿に困惑しつつ、ドロシーは彼を起こそうとした。
「こら、スコット君。ここで寝ないのー、寝るならちゃんとベッドで」
「……んがぅ」
「ふやぁっ!?」
寝ぼけたスコットがドロシーをギュッと抱き締める。
「ちょ、ちょっと放して! 放してー!」
「んぐー……」
「ちょっ! スコット君、お酒臭い! お酒飲んだの!? あれだけ飲まないって言って……ふやあああっ!」
スコットはドロシーの身体を更に強く抱きしめる。
彼女はジタバタともがいて何とか逃げ出そうとするが、彼は決して放そうとしない。
「ふぎゅううっ!」
「んがー……」
「こ、このっ! いい加減に……っ!」
「……ぐー」
「……っ!」
観念したドロシーは顔を赤くしながらスコットに身を任せる。
酒気を帯びた彼の寝息が鼻を突くが、温かく逞しい腕に抱き締められるのが不思議と心地良い。
「……もう、スコット君たら」
そう言えばスコットの寝相は悪かった。
昨日のドロシーから受け継いだ記憶を回想し、ドロシーもギュッと彼に抱き着く。
「……お酒を飲んじゃったなら、仕方ないよね」
「ぐかー……」
「少しくらい悪戯したくらいじゃ……起きないよね」
ドロシーは眠るスコットにキスをする。
一度目のキスは迷いと躊躇が拭えない不器用なキスだったが、スウッと息を吸って臨んだ二度目のキスは濃厚に彼の唇を捉えた。
「んはっ……」
「……うー、ん」
「……ふふっ、もう一回っ」
もう一回、もう一回とドロシーは眠る彼にキスを繰り返す。
キスをする度にスコットが目を覚まさないようにお祈りしつつ、彼女は愛しい彼の寝顔に口づけをした。
「はふうっ……」
口づけをする度に生意気な胸が熱く切なくなる。
何度か胸を締め付ける寝間着を脱ぎ去ろうとしたが、今のドロシーに胸元のボタンを外す勇気は無かった。
「……何が『僕のスコッツ君をよろしく』よ。そんな事、僕に言われても……」
「……ぐー……」
「僕には……何も出来ないよ」
スコットの身体に高鳴る胸を押し当て、ドロシーは頬を染めて切なげな声で言った。
「僕はまだ、この人が好きになったばかりなんだから……」
まるで言い訳をするようにもう一度だけキスをして、ドロシーはスコットの胸の中で目を閉じる。
どうか、このまま朝が来ませんように……
どうか、このまま二人だけの夜が続きますように……
心の中で、そんなワガママな願い事を繰り返しながら。
chapter.11 「明けない夜なんてあるわけない」end....