14
「やれやれ……また派手に暴れたな」
13番街区に到着したジェイムスは頭を抱えた。
目の前には横転した乗用車の山、飛び散った赤青の血液、そして頭を粉砕されたフラオ・コレクターの亡骸……
「はは……す、すみません」
怪物に引導を渡したスコットは満身創痍の困り顔で謝罪した。
「謝られても困るけどな……大丈夫か? その傷」
「ははは……な、何とか」
「……そうは見えないんだが」
スコットに抱かれて気を失っているドロシーを見て、ジェイムスはフラオ・コレクターに冷ややかな視線を向ける。
(あの女を狙ったのか……馬鹿なヤツだ)
一瞬で状況を把握したジェイムスは鼻で笑う。
よりにもよってドロシーを狙うなんて本当に愚かな怪物だ。
隙を突いて攫ったところで目を覚ました彼女に返り討ちにされていただろう。
そうでなくてもこのスコットのように怒り狂ったファミリー達に殺されて終わりだ。
……今のドロシーは魔法が使えず、本当に貞操の危機に瀕していたとは夢にも思わないジェイムスはそんな呑気な事を考えていた。
「……ぐっ」
「おい、しっかりしろ。すぐに救護班を呼ぶからな」
「はは、お気遣い、どうも……」
緊張が解けたスコットはドロシーを抱きしめながら気を失う。
「おい、スコット! おい!!」
「あら、ジェイムス君じゃない。今日もお疲れ様」
「はっ!」
気絶したスコットに声を掛ける彼の背後にはいつの間にかルナと老執事が立っていた。
「おやおや、スコット様。これはまた酷いお姿に」
「ふふっ、本当に……無茶をする子ね」
「おい、下手に動かすなよ? 救護班が来るまでこのまま安静に……」
「ドリーちゃぁぁぁぁ────ん!!!」
そこにマリアの運転するバイクに乗ったアルマが到着する。
「ああああっ! ドリーちゃぁーん!!」
アルマは急いでバイクを降りてドロシーの所に駆け寄り……
「おや、アルマ様」
「あら、アルマ。貴女も来たのね」
「邪魔だぁー!!」
ドロシーを抱き締める血まみれのスコットを蹴り飛ばした。
「あぁぁん! ドリーちゃん! もう大丈夫だぞ、お姉ちゃんが来たぞぉー! あぁぁーん!!」
「おい、蹴るなよ! スコットが死んだらどうすんだよ!?」
「あぁん!?」
心配するジェイムスの声でアルマはようやく蹴り飛ばした相手がスコットだと気付いた。
「はぁ?! 何で死にかけてんだよ、非童貞! 血だらけじゃねぇか!!」
「今、気づいたの!?」
「あーあー、ボロボロになっちまってさー。だらしねー、ちょっとルナ頼むわ」
「ふふふ、言われなくてもそうするわ。アーサー、彼を車まで運んで」
「かしこまりました」
老執事は倒れるスコットを担ぎ上げ、ジェイムスに頭を下げてから黒塗りの高級車に向かった。
「お、おい……」
「彼の事は私に任せて。ちゃんと助けるわ」
「いや、流石にあの傷は医者に見せたほうがいいだろ。いくらアンタの異能力でも」
「大丈夫よ、彼とは身体の相性がいいから。下手なお医者さんよりも私の方が綺麗に治せるわ」
「……」
「それじゃ、またねジェイムス君」
ルナはうふふと笑いながら車に戻っていく。
ジェイムスは何とも言えない気持ちになりながらドロシーを愛しげにギュッと抱きしめるアルマに目をやる。
「あーん、気絶したドリーちゃんも可愛いー。チューしちゃろー」
「……君は帰らないのか?」
「ん、そうだな。ドリーちゃん攫った悪い奴は死んだみたいだし、あたしも帰るかー」
「暇だったら後片付け手伝ってほしいんだけど?」
「ううん、忙しいから帰る。またなー」
アルマはドロシーを抱えてマリアの所に戻る。
うふふと素敵な笑顔で此方に手を振るメイドに寒気を覚え、ジェイムスは思わず目を逸らした。
「……はぁ、とりあえず念には念を……だ」
徐に杖を取り出してジェイムスはフラオ・コレクターに数発の魔法を撃ち込む。
そして今度こそ確実に死んだと確認してから重い溜息を吐いた。
「あーあ、せっかくの休暇がこれで台無しだ。やっぱりアイツらに関わると」
「遅くなってすまないー!!」
何処かで見たシルバーのBMWの屋根にしがみつきながら奥ゆかしい着物姿のブリジットが今更馳せ参じる。
「……」
「マスターを攫った不埒者は何処だ! 私が成敗してやる!!」
「ああ、うん。もう成敗されてるよ」
「何だって!?」
「そこの頭が潰れた奴がその不埒者だ。酷い顔してるだろ? 確実に死んでるぜ、それ」
「うぬぬぬ……!」
「ほら、君は早くバイトに戻りなさい。今ならまだクビにされないだろ」
「折角、動きにくく息苦しいこの服で急いで来たというのに!!」
ブリジットは物凄く苦しそうに胸を張る。
彼女にとってこの美しく華やかな着物はとても窮屈で息苦しい衣装であるようだ。
「そんなに苦しいなら脱げばいいだろ。君はもう少し働く場所を」
「それもそうだな」
ジェイムスのアドバイスを受けてブリジットは帯を剣で切って着物をはだけさせた。
「おい、待て! 此処で脱ぐな、馬鹿!!」
「む、脱げばいいと言ったのはお前ではないか」
「君には女としての自覚がないのか!?」
やはりコイツらと関わると碌な事がない……人前で堂々と豊満なボディを晒すブリジットを見てジェイムスは改めてそう思った。