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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.11 「明けない夜なんてあるわけない」
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8

久々にMONSTERキメたらこのようなお話になりました。

 カラン、カラーン。


「んあーい、いらっしゃーい」


 場所は変わってウィーリー魔法具店。散らかるカウンターで頬杖をつくメイスの前に新しいお客様が訪れる。


「……げっ」

「お久しぶりね、ウィーリー」


 店に訪れたのは白いファーコートに身を包んだルナだった。


「ど、どうしたんだい。アンタが店に来るなんて珍しいじゃないー!」

「ふふふ、そうね。私はあまり杖に興味がないもの」


 ルナの顔を見た途端にメイスの表情が変わる。


 杖を折ったドロシーに意地悪な仕返しをしてご機嫌だった先程までとは一変、ギョッと目を見開いて額に汗を浮かばせた情けない顔になる。


「それじゃ、何しに来たのー? 久々にお喋りでも」

「この店にドリーが来なかったかしら?」

「き、来てないよー??」


 メイスは思い切り目を泳がせながら言った。


「あら、そうなの」

「うんうん、来てないよ。今日はドロシーちゃんウチに来てないの」

「ふふっ、ウィーリー?」

「な、何かなー?」

「嘘は駄目よ?」


 ルナはうふふと微笑みながらカウンターに手を置き、メイスの口元をジッと見つめながら言う。


「口にお菓子の食べ滓が付いてるわ。ドリーのお土産かしら?」

「……ぷぇっ?」


 メイスは思わず口に触る。正直な彼女の反応を見てルナはニコッと笑った。


「嘘よ、綺麗で素敵な口元だわ」

「はっ!?」

「でもやっぱりドリーは来てたのね? 貴女が杖と男以外にお金を使う訳ないもの」

「うううっ……!」


 ドロシーを手玉に取ったのとは一転、今度はメイスがルナに遊ばれる。

 最初から彼女はドロシーがこの店に来ていると知っているのだ。


「私は今ドリーを探しているの。あの子が次に何処に行ったのか知ってる?」

「そ、それは知らないよ! お菓子食べて楽しくお喋りしたら出ていったのよー!!」

「ウィーリー? 今日のあの子はいつものドリーじゃないの。貴女にもわかるでしょう?」

「ま、まぁね……昨日に天使が来たから……」

「そう。今日のドリーは目覚めたばかりよ。今までと違って、純粋で感受性の高い雛鳥のような子なの」


 ルナは人差し指でメイスの鼻をツンとつつく。


「意地悪な貴女が何もしない訳ないでしょう?」

「うぐぅ……」


 観念したメイスは大きな溜息を吐いてガックリする。


「あの子は何処に行ったの?」

「多分、あの素敵な坊やの家ー……って大体予想付いてるでしょ? わざわざ聞く必要ある??」

「うふふ、あるわ。直接、貴女の口から聞きたかったから」

「ぬぐぅー……」

「私もたまには貴女とお喋りしたいのよ、ウィーリー」


 膨れっ面のメイスに笑いかけてルナは店を出ていく。


「……やっぱりあの人嫌い」


 500年を生きてきた魔女のメイス・ウィーリー。


 時にはドロシーも言葉巧みに乗せてしまう老獪な彼女だが、そんなメイスすら敬遠する程の魔女がこの街には存在する。



「アーサー、次はスコット君のマンションに向かって」

「かしこまりました、ルナ様」


 それがルナ。戸籍上の名前はルナ・バーキンス。


 ウォルターズ・ストレンジハウス先代社長の妻でドロシーの義母。お淑やかで儚げな雰囲気とは裏腹に、実は義娘以上の曲者である魔性の白兎だ。



 ◇◇◇◇



「ま、まぁ、そこまで言うなら……」


 一方、スコットの部屋ではドロシーがアンテナを揺らしながら了承した。



(あうううっ! も、もう! こうなったら僕も覚悟を決めるしかないよ……! スコット君が受け入れてくれるなら、僕も受け入れなきゃ……!!)



 辛うじて表情には出ていないが今のドロシーはスコットの言葉で気が動転しており、既に彼の顔を見れなくなっている程に追い詰められていた。



(よし、問題の焼き菓子からは気を逸らせた! 問題は……)



 スコットは自分から目を逸らすドロシーを見ながらグッと息を飲む。



(問題は、ここからだ……)



 老執事やジェイムスの話によれば今の彼女は前のドロシーの記憶を受け継いでいる。


 だがそれ以外は別物だ。


 記憶を受け継いでいても、その記憶に映る場面を見て()()()()()()()は今日の彼女次第なのだ。

 例え同じ場所で同じ経験をしてもそれに対してどんな感情を抱くかは人によって異なる。

 

 彼女もその例に漏れない。


 例え記憶を頼りに昨日までのドロシーの真似をしても、それはもう彼女ではない。スコットのように違和感を覚え、拒絶される結果に終わるだけだ。



(……彼女はあの社長じゃない。彼女はもういない……)



 スコットが今のドロシーを受け入れる為にはその事実を認めるしかなかった。


 別れの挨拶も告げられないまま、彼女がいなくなった現実だけを飲み込むしかないのだ。



(ははっ、畜生……何だよ。今頃になって……)



 締め付けられるような胸の痛みを堪えながらスコットはドロシーに目を向ける。


「ドロシーさん」

「……何かしら」

「何かその、正直に言うと……俺も受け入れられてないんです。いきなりあんな事教えられちゃったから……」

「そう、だよね。それが普通だと思うよ、君は少し前まで外の世界(アウトサイド)に居たんだから」

「それでも……努力はしますよ。昨日の社長も、きっと最初の頃は貴女と同じだったと思うから」

「……」

「だから……これから宜しくお願いします。ドロシーさん」


 今のスコットにはそんな台詞しか言えなかった。


 もう少し気の利いた言葉を言うべきだった……と後に彼は後悔した。

 それでも今の彼に言えるのはそれだけだった。


「ふふっ、そうだね。()()()()……ね」


 だがそんなスコットの不器用な言葉が、今日のドロシーにとっての最大の救いとなった。


「ねぇ、スコット君」

「はい、ドロシーさん」

「どうして今朝の僕が裸だったのか知りたくない?」

「えっ?」


 ドロシーは紅茶に一口つけてそんな事を言うと、静かに席を立った。


「目覚めたばかりの時はわからなかったけど……今はわかるよ」

「え、ドロシーさん?」

「……きっと、昨日の僕は……」


「君と結ばれたかったんだよ」


 そしてドロシーは呆気にとられるスコットの頬に軽くキスをする……


 そのキスには昨日のドロシーとは違う、今日のドロシーに新しく芽生えた特別な想いが込められていた。


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