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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.11 「明けない夜なんてあるわけない」
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6

忘れられているかも知れませんが、彼は結構なクソヤローです

「……」

「誰か来たみたいね」


 スコットは無言で立ち上がる。


「レンさん、お願いがあります」

「ん? なぁに?」

「絶対に部屋から顔を出さないでください」


 レンにそう伝えてスコットは玄関に急ぐ。

 彼の予感が正しければ、このインターホンを鳴らしているのは……


「……」

「あ、スコット君」


 ドアの向こうに居たのはやはりドロシーだった。


「あ、どうも。どうしたんですか? 社長」

「別に? 用事で近くを通りかかったから寄ってみただけー」

「タクローさんの店ですか?」

「残念、違うよー」


 スコットはドアから部屋が覗けない程度のスペースを維持しながらドロシーと会話する。

 一見、平然としているように見えるが……



(やっべぇぇぇぇ! やっべぇぇぇぇ! どうしよう! マジでどうしよう!? 今、部屋に入られたらマズイ! 色々とマズイ! ど、どうしよう! どうすれば……!!)



 スコットの心中は全く穏やかではなかった。


「そうそう、はいコレ」

「? な、何ですか?」

「おみやげ。美味しいよ、このお菓子」


 ドロシーはメイスの店に向かう途中で購入した高級焼き菓子をスコットに渡す。


「あ、ありがとうございます」

「……」

「ど、どうかしましたか?」

「ううん、別に? そろそろ部屋に入れてくれると嬉しいかなって」


 そしてここでスコットが最も恐れていた一言を口にした。


「あっ、少し待ってください。今から部屋を片付けますから」


 スコットは少しでも時間を稼げるような言い訳を言う……



『はい、ではこれより社長にバレないようにレンさんを部屋から逃がす方法を考えたいと思います』


 スコットの脳内で急遽緊急会議が開かれる。


 まとめ役のスコットAが黒い空間に浮かぶ謎めいたホワイトボードをバンと叩いてその場に集まったスコット達に言う。


『いや、もう無理だろ! 諦めろ!!』


 スコットBが頭を抱えながら言った。


『よし、悪魔。やれ』


 即座に諦めたスコットBを悪魔が粉砕。時間的余裕が無い全く無い彼は脳内世界のスコットにいつも以上に容赦がなかった。


『え、いきなり!?』

『は、はい! レンさんにクローゼットに隠れてもらう!!』

『あの部屋のクローゼットに彼女が隠れる空間は無い。悪魔、やれ』

『そうだったーっ!』


 クローゼットに人が隠れる空間など無いことを忘れていたスコットCを粉砕。


『よし、じゃあコレだ!』


 スコットDを飛ばしてスコットEが自信満々で立ち上がって言う。


『悪魔に窓からレンさんを逃してもらう! アイツの腕はよく伸びるから彼女を窓から地面に降ろすくらい余裕なはずだ!!』

『悪魔、どうだ?』


 スコットEが提案した打開策をスコットAは悪魔に確認する。


『……』


 悪魔は『仕方ねぇな』とでも言いたげな顔で両手で丸を作った。


『よし、それで行こう! 解散!!』


 現時点でのベストアンサーと言えるスコットEの案を受けてスコットAはパンパンと手を叩く……



「それじゃ、少しだけ待っててくださいね」


 スコットの意識が現実空間に戻る。そしてドアを閉めてレンを窓から逃がそうとした。


「別にいいよ、散らかってるくらい。僕が片付けてあげるから」


 スコットは彼女の声がまるで聞こえなかったフリをしながら勢いよくドアを閉める。


『あれ? スコットくん?』

「すぐに戻りますからぁー!!」

『スコットくーん!』


 大急ぎでレンが待つリビングに戻る。

 ドロシーの焼き菓子をベッドに投げて息を切らせながら彼女の顔を見つめた。


「どうしたのよ? スコット。凄い顔してるけど」

「……レンさん」

「な、何よ」

「すみません、少しだけ我慢してください」


 背中から青い悪魔の腕を呼び出し、スコットは状況が飲み込めないレンに迫る。


「えっ、何! な、何をする気よ!?」

「すみません! 後で説明しますから、今は我慢してください!!」

「ま、待って! ちょっ……」


 悪魔はレンの身体を軽々と持ち上げる。

 そして部屋の窓を開け、彼女の身体を担ぎながらベランダに躍り出た。


「ちょ、ちょっとぉおおおー! 何するのよ、スコットォォォォー!?」

「ごめんなさい、ごめんなさい! 後でちゃんと説明しますから! 今は、今だけは許してください!!」

「いやぁぁぁぁー! 助けてぇぇぇぇぇー!!」


 レンは大声で助けを呼ぶ。


 傍から見れば痴情のもつれからガールフレンドをベランダから放り投げようとしているクズ男にしか思えぬ凶行。

 久々に会えたスコットに訳も分からず部屋から追い出された彼女は本気で身の危険を感じた。


「やだぁぁー! やめてぇぇぇー!!」

「レンさん、ごめんなさいぃぃぃー!!」


 そして悪魔の腕はレンを空に掲げて勢いよく……ではなく腕を伸ばして物凄く丁寧に彼女を地面に降ろす。


「いやぁぁぁぁ! ママァァァー!!」


 投げ飛ばされたと思ったレンは目を瞑り、既に地面にお尻が着いているというのに大泣きしている。


「れ、レンさん! もう地面ですよ! 目を開けて周りをよく見て!!」

「あーっ! あーっ!! あーっ!!」

「えぇい……仕方ない!」


 スコットはベランダから飛び降り、泣きじゃくるレンを抱き上げる。


「ほら、大丈夫ですから! 目を開けて!!」

「ひぃうっ! えっ、あっ!?」

「すみません、今は説明できませんけど……これで察してください!!」

「な、何……」


 スコットはレンにかなり強引なキスをする。


「ぷはっ!」

「……」

「そ、それじゃあまた……! 次に会った時にちゃんと説明します! 土下座して謝りますから! 今は我慢してください!!」

「え、あ、あっうん……」


 呆気に取られるレンを優しく降ろしてスコットは悪魔の腕を自室のベランダに伸ばし、ギュインと引っ張られるようにして戻っていった。


「……な、何なのよ一体」


 その場にポツンと残されたレンは頬を染めながら、スコットに奪われた唇に触れて暫く呆然としていた。



「……相変わらず13番街区は賑やかなところなのね」


 思いっきりレンの悲鳴が聞こえていたドロシーは今日も誰かが死んだのかと憂い顔になる。

 まさか目の前の205室のベランダから何も知らぬホステスが想い人にリリースされていたとは思いもしないだろう。


「むー……」

「あ、すみません。社長……今、片付きましたよ」


 再び開かれる205号室のドア。スコットは何事も無かったかのような顔でドロシーの前に現れ、はははと愛想笑いをした。


「ねぇ、スコット君。今の悲鳴聞こえた?」

「え、悲鳴ですか? さぁ、俺には聞こえませんでしたね」

「……僕の所まで聞こえてきたんだけど」

「俺、一つの事に集中してると何も聞こえなくなるタイプなので……」


 そう言ってスコットはドロシーを自分の部屋に招く。そんな彼の反応を怪しみつつも彼女は中に入った。


あの勇者ニックがクソ野郎と呼ぶレベルですからね

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