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初期案にはアレックス少年とドロシーとのオネショタ展開も考えていました。紅茶のお告げで変更になりましたが。
「……」
スコットは喫茶店を出て4番街区を歩いていた。
「俺が社長の為に出来ることは……うん」
まずはドロシーに会って謝罪しよう。スコットはそう考えた。
その後のことはそれからだ。
彼女は今までの彼女では無い……だからといってこのまま縁を切るという選択は考えられない。
今までの彼女と過ごした記憶は、今日のドロシーにも受け継がれているのだから。
「それから……ええと、それからは」
「お、スコットじゃないか。どうしたんだ? こんな所で」
「……あ」
思いつめた表情で街を歩くスコットにパトロール中のアレックス警部が気さくに声をかけた。
「こんにちは、警部さん」
「今日はアイツと一緒じゃないのか?」
「……いや、その」
『アイツと一緒じゃないのか?』という何気ない彼の一言がスコットの胸に穴を開けた。
「……どうした?」
「警部さんは社長と付き合いが長いんですよね」
「不本意だがな」
「それじゃ、あの……社長の身体についても色々と知ってるんですよね?」
「……ほう、真っ昼間から公務執行妨害か。いい度胸だ」
一方のアレックス警部もスコットの何気ない質問で堪忍袋の緒が切れた。
警部は顔面に青筋を立てながらパトカーを降り、大きな拳をポキポキと鳴らす。
「えっ!?」
「オーケー、まずは車に乗りなさい。署までエスコートしてあげよう」
「ち、違いますよ! 別にふざけてるわけじゃなくて! 俺は真剣に聞いてるんですよ!!」
「真剣に? よろしい、ならば逮捕だ。腕を出せ」
「ええっ、な、何で!? ちょっと警部に彼女の身体について聞いただけじゃないですか!!」
「いい度胸だ。俺にとってそれは喧嘩を売る言葉だぞ、若造」
困惑するスコットに対してアレックス警部の表情は徐々に険しくなっていく。
「そ、そんなに怒ることですか!? 警部さんなら社長について色々知ってると思って……!」
「黙って腕を出せぇぇぇー! 撃ち殺されたいのかぁぁぁぁー!!」
「け、警部!? どうしたんですか、警部! 落ち着いてください!!」
手錠を出してスコットに迫るアレックス警部をリュークが抑える。
「放せぇ、リューク! 奴は俺に向かって最大の侮辱の言葉を言った!!」
「一体、何の話ですか! ちょっと君、警部に何を言ったんだ!?」
「い、いえその……社長と付き合いが長い警部なら、彼女について何か知ってそうだったから話を」
「何か知ってるんですか、警部!?」
「知らん! 俺はあの魔女の身体の事なんぞ何も知らぁぁぁん!!」
「し、知らないってさ! これでいいだろ!?」
「えっ……あっ、はい……すみません」
荒れ狂う公務の狂犬と化したアレックス警部に頭を下げてスコットは足早に立ち去った。
「な、何だよ……! そんなに怒らなくてもいいじゃないか! そりゃ付き合いが長い分、ショックが大きいのはわかるけどさぁ……!!」
頼れる大人だと思っていた警部の予想外の反応に傷つきながら、スコットは4番街区を抜け抜けた。
「ぬううううっ!」
「い、いい加減に落ち着いてくださいよ! 何をそんなに怒ってるんですか!?」
「当たり前だ! 俺がアイツの身体について色々と知っているような事を聞かれたんだぞ!? 付き合いが長いという理由で……!!」
「え、警部は知らないんですか!? 付き合いが長そうなのに!」
「リュークまでそんな事を言うのか! 俺とアイツの 肉体関係 を疑うっていうのか!?」
ここでアレックス警部は誰も聞いていない話を言いだした。
「はっ? 何を言ってるんですか、警部?」
「恍けるな! リュークもスコットと同じ目で俺を疑って」
「誰もそんな事聞いてませんし、興味ないですよ!? 俺が言ってるのはドロシーさんの身体に隠された秘密とか、不思議なパワーの事ですよ!」
「えっ?」
リュークに言われてようやくアレックス警部はスコットが聞きたかった事に気付いた。
「……」
「マジですか! マジでそんな勘違いしてたんですか、警部!? 嘘でしょ!!?」
「……ふっ」
正気に戻った警部は普段の冷静さを取り戻し、額の汗をハンカチでサッと拭き取る。
「すまないな、リューク。どうやら俺は激務続きで疲れてしまっているようだ……」
「……少し休みましょう。とりあえずパトカーに戻って」
「その必要はないさ……」
そしてアレックス警部は迷いなく拳銃を取り出し、こめかみにグッと当てた。
「警部ぅううううー!?」
「すまんな……リューク」
「何してるんですか!? やめてください!」
「ははは、無理だよリューク。耐えられないよ、俺はもう限界だ。この辺りで今まで頑張ってきた自分を休ませてあげたいんだ、頼む。撃たせてくれ」
「駄目ですってぇぇー!!」
リンボ・シティが誇る鉄人警部、アレックス・ホークアイ。
異能力を持たない真っ当な人間でありながらもこの街を愛し、住民の安全と街の治安維持のために命を尽くすタフガイ。
美しい妻と反抗期真っ盛りの可愛い娘を持ち、異常管理局職員にも尊敬の念を抱かれている警察官の鑑……
「俺は、今の俺を許せそうにないんだ……」
今でこそしっかりしているアレックス警部だが、幼少期はかなりの泣き虫でヒステリックな少年だった。
そんな彼を友人兼姉代わりとして支えていたのがあのドロシーであり、彼女とは色々あったらしい。
パァァーン!
「警部────ッ!!」
……彼女との過去はアレックス警部にとってトラウマとなっており、それを連想させられるワード(アレックス基準)を聞くと暴走する悪癖があるのだ。
「わぁぁぁぁー! 警部ーっ!!」
「……うーん、やっぱり効くなコレ」
「うわぁぁぁぁあっ!?」
拳銃でこめかみを撃ち抜いた筈のアレックス警部はスッキリした顔で銃をしまう。
「い、今、頭を銃で……!?」
「空砲だよ。どうしようもなく死にたくなった時は空砲を頭にぶっ放してマインドリセットするんだ……中々効くぞ?」
「えっ……?」
「さて、パトロールの続きだ。行くぞ、リューク」
呆然とするリュークを置いてアレックス警部はパトカーに乗る。
尊敬する上司の新たなるヤバい一面を知ってしまったリュークは何度目かの辞職を考えたという。
つまり警部の初恋の人とは……