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ちなみにフィードの名前の意味は餌です。お察しください。
時は少し遡り、異界門が開く数十秒前……
〈オオオオオオオオッ!!〉
しぶとく復活する魔人の姿にドロシーは顔をしかめた。
「……おい、まだ生きてるぞアイツ」
「やったね、キッド君。君と君の頼れる仲間たちの出番だよ」
丸投げする気満々のドロシーにポンと肩を叩かれてジェイムスは顔を押さえる。
彼と一緒に派遣された三人の職員も何とも言えない顔になっていた。
〈滅ぼすべし、滅ぼすべし、滅ぼすべし!〉
「……じゃあ、やるか。皆、とりあえず位置につけ」
「頑張って、キッドくーん。応援してるよー」
「……」
「……」
「……」
「君たちも頑張ってー、帰ったら大賢者様によろしく言っておいてね!」
ドロシーは管理局の精鋭達に手を振り、笑顔でその場を離れようとする。
「あれ?」
だが昼前だと言うのに辺りが妙に暗くなってきたことに違和感を覚え、ふと立ち止まって頭上の空を見上げた。
「……わー、凄いタイミングね」
そして上空で渦を巻く黒い丸穴を見て顔を小さく引き攣らせた。
〈グオオオオオオオッ!〉
「ヤツの動きは俺が押さえる! その隙にトドメを刺せ!!」
「了解!」
「了解です!」
「これでも食らえ、化け物ーっ!」
「キッド君、ちょっと上を見てー。僕たちのすぐ真上に」
「お前達、気をつけろ! 異界門だ! 異界門が開くぞーっ!!」
ドロシーが伝える前にアレックス警部が大声で叫ぶ。
「な、何!?」
〈お前も、滅べえええええーっ!〉
「ジェイムスさん、危ないーっ!」
警部の言葉に気を取られたジェイムスは魔人の接近を許し、黄金の剣先が彼に迫る。
「キッド君!!」
ドロシーがジェイムスを貫こうとする黄金の剣を魔法で弾き飛ばそうとした瞬間、
────ズシンッ
ジェイムスに襲いかかる魔人のすぐ後ろに 赤黒い鱗に覆われた巨大生物 が降り立つ。
〈滅っ……〉
〈グルォオオオオオオオオオオオオオオオ!〉
突如現れた怪物は大きな腕で魔人を叩き潰した。
〈グオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!〉
「うおおおおっ!?」
「な、何だコイツは!」
「ジェイムスさん、早くそこから逃げてください! 早く、早くーっ!!」
ジェイムス含めた管理局職員は大慌てで怪物から距離を取る。
〈……ッ、……ッッ〉
潰された魔人はグシャグシャになりながらもしぶとく生きており、再び身体を再生しようとする。
〈ほろぼす、べっ〉
〈グオオオオオッ!〉
しかし上半身を再生したところで鋭い牙の生え揃った怪物の大きな口に咥え上げられ……
ボキンッ、ボキボキボキッ、べキャッ、ボリクチャボリボリ、ボギュッ
魔人は生きたまま貪り食われた。
「うわぁ……可哀想に。あのまま素直に寝てれば良かったのに……」
怪物に美味しくいただかれてしまった遊び相手の冥福を祈り、ドロシーは静かに十字を切る。
〈グオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!〉
異界門から吐き出されるようにして現れた怪物は街全体を揺るがすような咆哮を上げ、四つもある大きな瞳で次の獲物を狙い定める。
「……あの子凄い目で僕を見てくるんだけど。やだなぁ、僕は動物好きだけどああいうのはタイプじゃないのよ」
その大きさは10mを越え、恐竜のような両脚に異常に発達した両腕、そしてヨロイトカゲによく似た頭部を持つドラゴン型の生物。
一目見ただけで意思疎通は不可能と断言できるその姿にドロシーは苦笑いした。
「……本部、聞こえますか? こちらジェイムス、13番街区に異界門が発生。門からは10m級の異世界種が一体出現しました。分類はー……えーと、動物型亜種」
〈グルッ、グルルルルルルルルルルゥ!!〉
「……意思疎通は不可能、共存も多分不可能。優先討伐対象として処理します」
管理局本部に報告してジェイムスは連絡端末をコートにしまう。
「キッド君、ここはお願いしてもいい? ちょっとお昼から用事が」
「ふざけんな! たまにはお前も処理を手伝え!!」
「えー……」
〈グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!〉
怪物は猛々しい咆哮をあげてドロシー達に襲いかかる。
「き、来ます!」
「全員構えろ! ありがたいことに今日は幸運の女神がついてるぞ!!」
「あーもー、しょうがないなー……」
ドロシーはチラリと少し離れた場所で待機する愛車を見る。
「ふふ、まぁいっか。新人君にカッコいいところを見せたいし、今日は特別に手伝ってあげるよ」
そう言ってクスリと笑い、ドロシーは再び両手に杖を構える。
パァン、パァン、パァン
彼女が魔法を放ったのを合図にジェイムス達も応戦する。
ジェイムスと魔法使いの職員は魔法で、異能力者の職員二人は用意された特別製の銃で迫りくる怪物を攻撃した。
───チュインッ
だが五人の攻撃は、怪物の鱗に呆気なく弾かれた。
〈ヴオオオオオオオオオオオオオオオッ!!〉
「あれっ?」
「はぁっ!?」
「うぇぇぇぇぇっ!?」
怪物は鎧のような鱗に覆われた巨腕を振り上げ、獲物として定めたドロシーに向かって思い切り振り下ろす。
「やばっ!」
ドロシーは咄嗟に身を翻して怪物の攻撃を回避する。
振り下ろされた拳は堅い地面にクレーターを作り、その凄まじい打撃の余波だけでドロシー含めた五人は軽く吹き飛ばされた。
「あはははっ、これは……っ!」
「うおおおおおっ!?」
「うわぁぁああああーっ!」
「わぁぁぁぁぁぁっ!」
「ぎゃああーっ!」
「ちょっとっ、期待しちゃうなぁっ!!」
楽しそうに吹き飛びながらドロシーは空中で姿勢を変え、弾丸状の魔法をもう二発放つ。
チュイン、チュイン
だが放たれた魔法は怪物の鱗を貫通できず、まるでダメージを与えられていない。
「あはははっ、嘘でしょっ! 魔法が効かないなんて」
〈グオオオオオオアアアアアアアッ!!〉
「そんなの反則だよーっ!!」
得意とする魔法の攻撃が通じず、目と鼻の先に怪物が迫る絶体絶命の状況だというのに……
「あはははっ! 素敵よ、素敵だよ! 楽しくなって来ちゃったーっ!!」
ドロシーは弾けるような笑顔でそんな台詞を吐き、両手の杖で魔法を連射した。
インガオホー