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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.10 「夢では全てがうまくいく」
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26

「……不思議ね、今まで何度も使ってきた筈なのに」


 召喚した魔法杖は彼女の美しい髪のように金色に輝き、呪文のような魔術的な紋章が刻まれていた。


 杖の先端部に設置された青い水晶体を覆う神秘的かつ複雑な造形の部品は、まるでウサギの頭部を模しているようにも見える。


「今日のあなたはとっても綺麗に見えるよ」


 その杖の名は【ウヴリの宝杖】


 ドロシーの体内に封じられたXXクラス発動禁忌魔導具にして世界最強の魔法杖。

 彼女がSクラス特異能力者に分類されている理由の一つであり、インレの肉体を破壊できる唯一にして最後の切り札でもある。


「……それじゃ、行きましょうか」


 ドロシーが杖を握るとそれに応えるように宝杖は眩く発光し、今までとは比較にならない大きさの魔法陣が発生する。


 ブ、ブブ……ブゥンッ


 ドロシーの身体を駆け巡る膨大な魔力の奔流。全身に激痛が走り、彼女の美しい顔が歪む。


「……やっぱり、ギリギリね……。これじゃ、精々……一発が限界だわ……」


 消耗したドロシーには杖の制御をするのも精一杯だった。

 既に腕に宿る紋章の輝きも消えかけている彼女にとってこの杖の使用は自殺行為にも等しい。

 最悪の場合、魔法の発射と同時にこの身体が吹き飛ぶかもしれない……


「ふふ、でも……頑張らないとね。あの人の、為に……ッ!」


 だが既に覚悟は決まっていた。


 全身を駆け巡る魔力を杖先に集中させ、彼女が使用できる最大最強の魔法を発動させる……



「うおおおおおっ!」

「はぁっ!!」


 スコットとニックがインレに殴り掛かるが、インレの翼が変化した巨腕が二人の拳を受け止めた。


「……わからないわね。どうして邪魔をするの?」

「邪魔なのはお前だよ、クソ天使ィーっ!!」


 スコット達の背後から天高く跳躍し、アルマは黒刀でインレに斬りかかる。


「ふざけないで、お前達よ!」

「うおあっ!?」

「ぐあっ!」


 インレはスコットとニックの身体を持ち上げてアルマを挟み込む。


「うぐぁあっ!!」

「お前達に私は倒せないのよっ!」


 続けて両手から爆発する光弾を発射、三人を吹き飛ばす。


「どうしてわからないの! お前達に私は傷つけられない!!」


 苛立つインレの身体に再び突き刺さる青い剣。

 ブリジットは周囲を浮遊する魔法剣を飛ばしながらインレに特攻する。


「このっ……!!」

「くらえっ! (インフィ)(ニトエ)(スパーダ)

「無駄なのよっ!!」


 インレの眼前まで迫ったブリジットに地面から突き出た白い石柱が叩き込まれる。


「……がふっ!」

「いい加減に認めなさい!!」

「……認めて、いるさ……ごふっ! 私では、お前を倒せない……と」

「!?」

「……だが、私は、騎士として……ッ! 騎士として、お前の存在を……許容できない!!」


 ブリジットは血を吐きながら魔法剣をインレに突き刺し、挑発的な笑顔で言い放った。


「……何をっ!」

「おおぁあああああっ!!」


 爆煙の中から血塗れのスコットが叫びながら現れ、悪魔の腕でインレを捕まえる。


「……!」

「はっはっ……捕まえたぁ!」

「……いい加減にっ、貴方も止まりなさい!!」


 スコットの身体を無数の白い槍が貫く。

 全身の急所を穿かれた彼は黒い血を吐いて崩れ落ちる……


「がっ……ぐぅっ!」


 だが、辛うじて動いた右足と空いた悪魔の左腕で身体を支えながら無理やり踏みとどまった。


「がはっ、はっ……! ははっ……!!」

「……なっ!?」

「悪いな、と、止まれないんだ……。じ、自分でも……!!」


 片目に宿る青い光を更に激しく揺らめかせ、スコットはニィイッと笑う。


「どうしてそこまで……」

「ははっ、き、決まっ、決まってんだろ……! お前、お前を……っ! 殺すと、決めたからだ……!!」


 インレの顔に一筋の汗が滲んだ。


 そして理解した……この男はここで殺さなければならない。

 ここで殺さなければこの男はどんな傷を負っても襲ってくる。

 腕をもがれようが、足をもがれようが、身体に穴が開こうが、この男は何度でも立ち上がって向かってくる。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



(……そうなのね、ブルー。貴方が選んだのは……あの子……)



 インレは一瞬悲しそうな顔になった後、白い巨腕で悪魔の腕をへし折る。


「ぐあっ……!」

「ごめんなさい、ブルー。生まれ変わったらまた会いに来て……今は、さようなら」

「だから……俺の名前は、スコットだ! 馴れ馴れしくブルー、ブルーって呼びやがって……腹が立つなぁ……!!」


 尚も睨みつけてくるスコットを切なげに見つめ、インレは右手に発生させた銀色の剣で彼の首を跳ね飛ばそうとした……


「……でも、今日は……あの人に、譲ってやるよ……」


 不用意にインレが近づいた所でスコットの身体がぐらりと真横に倒れ込む。


「ッ!!」


 一瞬の油断、一瞬の気の迷い、そして一瞬の決断。


 インレの意識は完全に()()()()()()()()()()()()


 彼の鬼気迫る表情、狂気的な発言、執念、その全てはインレの注意をこちらに向けさせるため……



「エクセレントよ、スコット君」


 その全ては、彼女の()()()()()を確実に命中させるための体を張った大芝居だった。



 ────コツンッ。


 

爆煙に紛れ、スコットの背後に隠れ、ついにインレに肉薄したドロシーが金色に煌めく杖先を彼女の胸に押し当てる。


「ギリギリだったけど……今日も僕の勝ちよ、インレ」

「……セオドーラッ!!」

「お願いだから……もう少しだけ、夢の中でジッとしていてちょうだい」


 ドロシーは祈るように切実な顔で、インレにとっておきの魔法(切り札)を放った……


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