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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.10 「夢では全てがうまくいく」
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19

「私も今まで数多くの敵と戦ってきたが……これは別格だな」


 車に収まりきらず一人鎧竜の上にしがみつくニックはドロシーとインレの戦いに圧倒されていた。


 詠唱なしで放たれる魔法の応酬。その一発一発が常識外の威力を秘め、ぶつかり合う余波だけで街が破壊されていく。

 金色と銀色、相反する二人の天使の戦いに彼らが入り込む余地などなかった……




「うふふふふっ!」


 インレは周囲に蛍のような光弾を発生させ、ドロシーに向けて発射。


「っ!」


 ドロシーも同じような光弾を生み出して迎撃。ぶつかり合う眩い蛍の群れは空中で炸裂し、凄まじい連鎖爆発を引き起こす。


「ふふふ、そう……そうなのね」


 右腕から銀色の剣を生み出してインレが斬りかかる。

 ドロシーも負けじと金色の短剣を出して受け止め、キリキリと音を立てながら鍔迫り合いをする。


「何よ!」

「伝わってきたわ、貴女の感情が」

「……!」

「彼が好きになったのね、セオドーラ」

「うるさいっ!!」


 短剣を滑らせるようにインレの剣を受け流し、左手から魔法を放って彼女の顔面を破壊する。


「ふふ、ふふふ……照れなくてもいいじゃ、ない」

「僕の感情を読むな! これは僕の想いだ、お前のじゃない!!」

「どうしてそういう事を言うの?」


 瞬時に顔面を再生させ、インレはドロシーの顔を覗き込む。


「私達は親子じゃないの。親子の心は通じ合うものよ?」

「このっ……!」

「それに、貴女は私の」

「やめてっ!!」


 こちらに伸びるインレの腕を短剣で切り裂き、ドロシーは距離を取る。


「……だから別にいいじゃない、私に貴女の感情が流れ込んできても。私達は()()()()()()()()()()()

「う、うるさい! うるさい!!」

「もう、今日のセオドーラは怒りん坊ね。誰に似たのかしら」

「ぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!」


 インレの言葉にドロシーは激昂する。

 両手から金色の魔法弾を放って攻撃、インレの身体を爆散させるが……


「……はぁっ……はぁっ」

「ふふふ、ふふふふっ……」


 インレはすぐに復活し、楽しそうに笑い続けている。


「もう、いい加減に消えてよ……!」

「あらあら、どうしたの? ひょっとしてもう疲れちゃったの??」

「……!」

「駄目よ、セオドーラ?」


 集中を切らしていたドロシーはインレの接近を許してしまう。


「ううっ……!」

「その身体を貰ってしまうわよ?」

「あああああっ!!」


 インレを魔法で突き飛ばす。

 常に余裕を崩さない彼女と比べてドロシーは徐々に追い詰められており、その表情には焦りが滲んでいた。


「ふふふっ、セオドーラにはもう力が上手く使えなくなってきているようね」

「……!」

「そろそろ貴女の()()()()()を使うべきじゃないかしら? このままだと使う前に終わってしまうわよ??」


 ドロシーの腕に刻まれた紋章の光が明らかに弱まっている。

 インレと対峙した時の眩いまでの輝きは薄れ、ボンヤリと光るだけに留まった両腕。

 その光は彼女が全力で戦える時間を意味していた。


「……使った所で、貴女は避けるでしょ」

「ええ、避けるわね。私はまだまだ元気だもの」

「このっ……!」

「さぁ、もっと頑張りなさい? 一年前の貴女はもっと私を追い詰めていたわよ??」

「うるさい!」


 ドロシーの魔法を受けてインレは下半身が吹き飛ばされる。


「十年前の貴女はもっともっと凄かったわね、お話も出来ないくらいに」

「うるさい! うるさいっ!!」

「でも嬉しいわ。お陰で貴女と沢山遊べるようになったんだから」


 余裕の笑みを浮かべてインレは再生し、天高く舞い上がる。


「さぁ、セオドーラ。少し前の貴女は簡単に防いでいたけど……」


 両手を天高く掲げて上空に100mはあろうかという巨大な銀色の剣を3本も発生させる。


「……!」

「今の貴女に防げるかしら? もし防げなかったら……」


 インレはニコッと笑ってドロシーを見下ろしながら言った。


「貴女は無事でもこの街が無くなっちゃうわよ? セオドーラ」



 ────ブゥンッ



 インレは両腕を振り下ろす。天から白銀の巨剣が15番街区目がけて落下し、街一つ消し飛ばす程の膨大な魔力を秘めた剣先が迫る。


「このっ……!」


 ドロシーは急いで地面に降り立ち、白銀の巨剣を受け止めようと何重もの巨大な魔法障壁を発動……


「いい加減にしなさいよ、性悪女! そんな性格だから……大ッッ嫌いなのよ!!」



 ◇◇◇◇



「おー、相変わらず凄いな。まるでこの世の終わりのようだ」


 15番街区から少し離れた13番街区。不幸にもここまでパトロールに来てしまったアレックス警部とリュークが天空の巨剣を乾いた瞳で見つめていた。


「……何ですか、アレ」

「魔法だね」

「……何でも魔法の一言で済ませないでくださいよ、警部」

「実際、魔法なんだから仕方ないだろ。それ以外の言葉で言い表せたらノーベル言語学賞ものだよ」

「アレが落ちたらどうなりますか……?」

「勿論、遺書の出番だな」


 リュークは熱くなる目頭をグッと押さえる。


 何をどう考えても手遅れな状況に『どうしてこんなところに来てしまったんだ』とまたしても後悔した。


「……警部、生き残ったら俺……」

「それ以上は言わないほうが良いぞ」

「言わせてくださいよ……!」

「まだ終わったと決まったわけじゃないさ」


 全てを諦めたリュークとは対照的に警部の表情は何故か落ち着いていた。


「……これで終わってないんですか? もう、どう考えても終わってますけど……」

「外の世界なら終末ファンクラブ会員様が大歓声を上げる所だがな。生憎、ここはリンボ・シティだ」


 警部はあの剣が向かう先、終末が目と鼻の先に迫る15番街区に居るであろう とある魔女 の姿を思い浮かべる。


「はっはっ、()()()()()()悪いことは起きないさ。この街は幸運の女神(クソヴィッチ)に愛されてるからな」

「……それって気休めになるんですか?」

「ああ、凄く気が楽になるぞ。これ以上の地獄なんて無いってな」


 そう言って彼は『はっはっは』と乾ききった笑い声をあげた。


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