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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.10 「夢では全てがうまくいく」
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14

「くぅっ!」


 殺到する魔法剣。咄嗟にドロシーは防御障壁を発生させようとするが……


〈ふふっ〉


 天使は先頭の魔法剣のみを高速化。加速した剣はドロシーも視認できないスピードで彼女の杖を弾き飛ばした。


「!!」

「うおおおおおっ!」


 ニックがドロシーとブリジットの前に立ち塞がり、大剣を高速回転させて魔法剣を弾き落とす。


「ぬああああっ!」

「ニック君!」

「マスター、伏せて!!」


 ブリジットはドロシーを押し倒して彼女を庇う。

 ニックが捌ききれなかった魔法剣がブリジットの背中と腕を切り裂き、彼女は苦しげに声を押し殺す。


「……ぐっ!」

「ブリジット!」

「この程度、かすり傷だ……!!」

「はは、参ったな……」

「ニック君!」


 彼女達の盾代わりとなったニックが膝をつく。


「……この鎧で防ぎきれない攻撃があるとは。本当にこの街には驚かされる……!」


 体中に剣が突き刺さり、頭部はザックリと抉られている。

 辛うじて鎧は貫通していないが、あらゆる攻撃を防ぐはずの勇者の鎧がダメージを受けたという事実に彼は戦慄した。


〈ふふふっ……〉

「がぁぁぁぁぁあぁあっ!!」


 動きを止めた天使の死角からスコットが天使の顔面を思い切り殴りつける。しかし渾身の力を込めた悪魔の拳は天使の翅にいとも簡単に受け止められた。


「ぐぐぐ……ッ!」

〈ふふ、ふふふ……〉

「くそっ!!」


 スコットは一旦距離をおいて拳を握りしめる。


 だが再び殴りかかる前に天使は素早く距離を詰め、その瞳孔のない大きな瞳に驚愕する彼の顔を映し出す。


〈ふふふふっ〉


 天使は大きな腕でスコットの身体を掴んで地面に叩きつける。


「ごはぁっ!!」


 スコットの意識は一瞬で刈り取られ、血を吐きながらダウンした。


〈ふふふ、ふふふ……〉

「うおらぁぁぁっ!」


 天高く跳躍したアルマが新しく精製した黒刀で天使の身体を刺し貫く。黒い刃が背中から胸を貫いても天使は笑い、スコットから手を離してゆらりと立ち上がる。


〈ふふっ〉

「くそっ……、ムカつくなぁっ!」


 アルマは黒刀を手放し、天使の背中を蹴って距離を取る。


「いつもニコニコ余裕そうに笑いやがって……! 何が嬉しくてそんなに笑ってんだ、このイカレ天使野郎が!!」


 突き刺さった黒刀も意に介さずに天使はドロシーに狙いを定める。


 天使の注意は常にドロシーに集中し、他のメンバーには目もくれない。

 反撃はするが必要以上に追撃はせず、自分から攻撃を仕掛けることもない。


〈ふふふ、ふふふふふっ〉


 天使には彼女しか見えていないのだ。


「……ッ!!」


 ドロシーは急ぎ弾き飛ばされた杖の所まで走る。

 杖を拾い上げ、周囲に擬似魔法杖を展開。全ての杖先を天使に向け、魔法を連射した。



 ────バガガガガガガガガンッ!



 連射される高威力の禁術魔法弾に流石の天使も徐々に身体を削られていく。

 

 しかしその顔から笑みが消えることはない。

 腕をもがれ、顔を削がれ、胴体に穴が空いても天使は微笑んでいた。


「ルナ、お願い!」


「……任せなさい」


 ドロシーの声を聞き、ルナは青い瞳を閉じて意識を集中させる。


 彼女の垂れた耳が起き上がり、周囲に青い光の粒が浮遊する。

 やがて青い光は集まりあって4匹の小さな白い兎を形作り、ピョコンと一斉に耳を立てた。


「行きなさい、白児兎(ベビー・ホワイト)


 白い兎は傷ついたブリジット達に素早く駆け寄り、その身体にしがみつく。

 兎たちの触れた部分からは青い光の筋が走り彼女達の傷を一瞬で回復させた。


「……感謝します、ルナ様!」


 傷が癒えたブリジットは剣を天高く掲げ、意識を集中させる。


「────天上より、裁け!」


 ブリジットが大技を発動したのを見計らってドロシーは一旦法撃を止め、サブウェポンとして持参したエンフィールド・メルヴェイユから一発の魔法を放つ。

 放たれた魔法は天使に命中、着弾点から毒々しい赤い茨が発生して動きを封じ込める。


「────────(インフィ)(ニトエ)(スパーダ)天斬(ヘーメルス)!!」


 細い剣先から発生させた天を衝く青い大剣をブリジットは勢いよく振り下ろす……



 ────ズドォォォォォォォンッ!



 巨大な青い剣は天使を一刀両断し、真っ二つになった天使は地面に崩れ落ちた。


「……凄まじいな。あれが彼女の力か」

〈きゅんっ〉


 白い兎にぴったりと張り付かれながらニックは感嘆の言葉を漏らす。


「いや、凄いのは()()()か。いやはや……この街の女性は本当に恐ろしいよ」


 ボロボロになっていた鎧の治癒を完了し、誇らしげに耳を立てる小さな白兎にニックは頭を下げる。


「……うっ、あれ」

〈きゅきゅっ〉

「……ルナさん?」


 気絶していたスコットもここで意識を取り戻す。


 胸に張り付く青い目の兎に既視感を覚えて無意識にルナの名を呼ぶと、白い兎は嬉しそうに耳をぴょこぴょこと震わせた。



「流石ですわ、奥様。もう皆さん元通りです」

「……ええ、でもこれ以上は生み出せないわ。それに……」


 ふらつくルナをマリアはそっと支える。


 傷を癒やす子兎を生み出した影響で肩で息をするほどに消耗し、彼女は年々衰えていく自分の力を自嘲した。


「歳は取りたくないものね。ここからが……正念場なのに」


 ルナは倒れた天使を睨みつけながら忌々しげに呟く。

 彼女の自嘲と呟きが聞こえたのか真っ二つに裂けた天使の身体がピクリと痙攣し、くすくすと煽るように笑いながら起き上がった。


〈……ふふ、ふふふ……〉


〈……ふふふふっ!」


 先程まで瞳孔がなかった天使の瞳がぐるりと反転し、渦を巻くような不気味な瞳孔が現れた。


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