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寝落ちして投稿が遅れました。大変申し訳ございません(〃´ω`〃)旦~
「……なっ!!」
天使門から突き出してくる無数の腕。
突き出した腕はまるで薄い膜を破るように空間を裂き、内部から白く発光するナニカが現れる。
〈……るるんっ〉
門から現れた天使はブルブルと体を震わせ、頭部から生えるウサギの耳のような翅を伸ばしてだらりと街を見下ろした。
「……我、人の名において天の御使いに宣告す」
ドロシーは杖を掲げ、意識を杖先に集中させながら詠唱を開始する。
「刻むは天理に背きし外法。心砕く祝詞。畏れを知らぬ叛逆の誓。この印を刻みし我らは 今より理外を屠る獣と成る」
ドロシーが呪文の詠唱を終えると、15番街区全体を包み込むように巨大な魔法陣が浮かびあがる。
「その身に刻め、魂狩の金印」
そしてその場に集った全員が金色の光に包まれ、各々が所持する武器に金色の文字が刻まれると同時に光は収まった。
「魂魄体封殺呪文の発動を確認! 全員、武器を構えろぉ!!」
金色の刻印が宿った杖を上空に向けてジェイムスは叫ぶ。
「……さて、と。それじゃ今日も頑張りましょうか」
先程の大規模補助魔法で焼き切れた術包杖を排莢してドロシーは杖をリロード。杖先を天使門から現れたナニカへと向ける。
「……ったく、何なんだよ……本当に!!」
スコットは右腕に刻まれた解読不能の金色文字に戸惑いながら悪魔の腕を呼び出す。
悪魔の両腕にもスコットと同じ金色の文字が刻まれていた。
「社長! これが片付いたらちゃんと説明してもらいますからね!!」
「うん、わかってる。これが終わったら全部話してあげるよ」
「本当は今この瞬間に話してほしいんですけど!!」
「と言っても、別に説明しなきゃいけないことなんて無いんだけどねー」
「はぁ!?」
「いつもどおりよ。君は空から降りてきた奴を力の限りぶちのめせばいいのよ」
ドロシーの視線は空から離れない。
彼女はただ空に浮かぶ天使門と、門から這い出てくる無数の天使に意識を集中して彼の顔を見ないように徹した。
「……何がいつもどおりだよ。いつもと全然違うじゃないか」
そんなドロシーの反応に苛立ちながらスコットも空を睨みつけ、悪魔の腕も何処か不機嫌そうにガシンと拳を合わせる。
〈……るるっ〉
〈……るるるるるるるるるるっ!!〉
一体の天使が声を上げる。それに反応して天使達は一斉に翅を羽ばたかせ、リンボ・シティに向かって飛び立った。
「杖が焼き切れるまで、撃ちまくれぇぇぇー!!」
そしてジェイムスの合図で異常管理局の職員達は一斉に魔法を放つ。
キュドドドドドドッ!
放たれた魔法が天使に命中してその体を破裂させる。
パチュンと何かが弾けるような音と黄色い飛沫を残して天使達は消滅し、地上に黄色の雨が降り注ぐ。
「うおおおおっ!? な、何だよこれっ!」
〈るるるるっ〉
「うわっ!?」
職員の魔法を掻い潜った天使の一体がスコットの前に降り立つ。
「……!!」
その顔には大きくつぶらな瞳しかなく、口や鼻は見当たらない。
頭に生える大きな翅を閉じた姿は耳を閉じた兎のようにも見え、ひたひたと軽い足取りでスコットに近づいてきた。
〈るるるっ〉
「お、おい! こっちに来るなって……!!」
〈るるるるるんっ〉
スコットの目前に迫ったところで天使はドロシーの魔法で撃ち抜かれ、その飛沫が彼に飛び散る。
「おわぁっ!?」
「スコット君! そいつに触れられたら駄目よ!!」
「えっ、あっ……!」
「終わったら全部説明してあげるから、今はあいつらと戦いなさい! とにかく目についた天使は叩き潰して!!」
ドロシーは珍しく声を荒げる。その表情も真剣そのものでいつもの余裕は微塵も感じられない。
「スコット君!!」
「……ああ、もう! くそったれぇぇえー!!」
スコットは絶叫しながらこちらに迫る天使達に向かって拳を振り抜く。
バチャンッ!
その一振りで天使はバラバラに弾け飛び、黄色い雫になって飛び散った。
「何なんだよ、今日はぁぁぁー!!」
何一つ納得できないままスコットは天使の群れに突撃する。
まるで八つ当たりをするように我武者羅に悪魔の腕を振り回し、次々と天使を倒していった。
「毎回毎回、数だけは揃えてきやがってクソ雑魚天使共がぁぁぁー!」
〈るるるっ〉
「気安く近づくな! 死ねぇぇぇぇーっ!!」
ドロシー達から少し遅れて到着したアルマも黒刀で天使の体を切り裂いていく。
戦いが大好きである筈の彼女の表情には苛立ちしか浮かばず、次々と降り立つ天使を前にただただ不快そうに刀を振るう。
「穿ち貫け────」
〈るるるっ〉
「────夢幻剣・滅尽!!」
同じく遅れて到着したブリジットも細い剣先を天使に向け、無数の青い剣を放ってその体を貫いていく。
「うおおおおおおおっ! ジャッジメント……ブレェェェェェェイド!!」
ニックは煌めく大剣を振るい、天使の群れを一掃する。
防御不能の斬撃を受けた天使達は真っ二つに切り裂かれ、黄色い飛沫となって空に散った。
「くそっ……! 何なんだ、こいつらは……!!」
空から降り立つ天使達はこちらを攻撃するような事はしない。
ただつぶらな瞳でこちらを見つめながら抱きつこうとしてくるだけだ。
〈るるるるっ〉
「気味が悪い……!!」
だが、決してその腕に抱きしめられてはいけない。
天使に抱かれれば最後、そのまま天国に連れて行かれてしまうのだから。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!」
「ああっ、タックース!!」
〈るるるっ〉
「くそぉっ!」
一人の職員が天使に抱きしめられて昏倒する。ロイドが急いで彼の所に駆け寄るが……
「タックス! しっかりしろ!!」
「……」
「ターックス!!」
「馬鹿野郎、奴らから注意を逸らすな! タックスはもう手遅れだ!!」
「……っ!!」
タックスは既に息を引き取っていた。
「ち、畜生……! 畜生ーっ!!」
〈るるるっ〉
〈るるるるるんっ〉
「うおおおおおああああああっ!!」
天使がこの街に来る目的は定かではない。
その行動が明確な敵意からなのか、それとも慈愛によるものなのかもわからない。
ただその腕に抱かれてしまったものはその瞬間に命を落とし、永遠の眠りに就いてしまう。
「……ッ! そういう事かよッ!!」
一人の人間が天使に抱かれて事切れる瞬間を見て、スコットはようやくドロシーの言葉の意味を知った。
『スコット君は天使が何のために人の前に現れるか知ってる?』
『天使は助けてくれないわ。迎えには来てくれるけどね』