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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.10 「夢では全てがうまくいく」
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9

缶紅茶も時々嗜みます。午後の紅茶はクォリティ高いですよね。

「到着いたしました、お嬢様」


 午後1時前、ドロシー達を乗せた車が15番街区に到着する。


「ありがとう、アーサー」

「お気をつけて行ってらっしゃいませ」

「毎日、気をつけてるよ? 僕は良い子だからね」


 ドロシーは老執事の頬にキスをして車を降りる。


 ここに到着するまで彼女はルナと殆ど言葉を交わしていない。

 そして『行ってきます』の挨拶も今日はしなかった。


「……」


 続いてスコットが車を降り、彼の後を追うようにルナが降車する。


「あの子をお願いね、スコット君」

「……言われなくても」


 スコットはドロシーを急ぎ足で追いかける。

 ルナは遠ざかっていく彼の背中を暫く見つめていた。


「……貴方なら、きっと」


 ギシン、ギシン


「あら?」

「す、すまない! 少し手伝って……くれないか!?」


 聞こえてくる不思議な音が気になって後ろを向くと、鎧と剣が引っかかって車から出られないニックが助けを求めていた。


「あらあら、困ったわね」

「うぐぐぐっ、す、済まない! 本当に、手伝ってくれないか!!」

「車にはすんなり入れたのに出るのは難しいのね、不思議だわ」

「ぬうううっ!」

「はっはっ、お気になさらずにドアや屋根をぶち破って頂いても構いませんぞ?」

「そ、そういうわけにも行かないだろ!?」

「まだまだ替えの車はございますので」



「ハーイ、キッド君! 今日はよろしくねー!!」


 ドロシーは先に15番街区に到着していたジェイムスに笑顔で挨拶する。


「……よう、ドロシー」

「ふんふん、ちゃんと準備してきたのね。偉いよー」

「俺はこんなの持たされても困るんだよ。使いこなせもしないのに」


 ジェイムスは拘束を解いたコルネリウスの法杖を困り顔でドロシーに見せる。


 独特の艶がある木の枝を削って仕上げた杖の先端には翡翠に似た宝玉が付けられ、杖の表面には金色の装飾が施されている。

 ドロシーの扱う杖とは対照的な如何にも魔法の杖らしいデザインの長杖に彼女は感嘆のため息を漏らした。


「素敵な杖ね」

「……物欲しそうな目で見るな。お前の持つ杖もどうせヤバい代物だろうが」

「うん、そうだね。()()()も負けてないね」


 ドロシーはジェイムスの杖と張り合うようにメイスから借り受けた遺物杖(アーティファクト)を見せる。

 その杖を見た瞬間にジェイムスの表情はガラリと変わった。


「……何処でそれを手に入れた?」

「僕の杖じゃないよ、友達から借りたの」

「……壊すなよ?」

「壊さないよ、友達に怒られちゃうから」

「社長!」


 追いついてきたスコットが後ろから声をかける。


「あ、スコット君」

「勝手に一人で行かないでくださいよ!」

「スコット……君も来たのか」

「……お久しぶりです、ジェイムスさん」


 ジェイムスはスコットに何とも言えない表情を向ける。


「……ついに君もアレと戦う時が来たか」

「ジェイムスさん、一体何が来るんですか? 天使ってだけ教えられても納得出来ませんよ! 社長は全然説明してくれないですし!!」

「えー? だって本当に天使なんだもの」

「社長も何だかおかしんですよ!」

「おかしくないよ。いつもどおりの可愛い僕だよ」

「……スコット、ちょっと来てくれ」


 ドロシーにちらりと目を向けた後、ジェイムスはスコットを連れて彼女から距離を取る。


「……悪いが、今回ばかりは俺にも上手く説明できない。俺に言えることは今日、この場所に天使と呼ばれる化け物がやって来ること。そして俺たちはそいつらをやっつけてこの街を守ることが目的だ」

「……なんで社長はそんな簡単な事を今まで説明してくれなかったんですか」

「……まぁ、確かに説明で聞くだけなら大した問題じゃないように聞こえるだろう。だが、今回の相手は本当に危険なんだよ。それにな……」


 ジェイムスはドロシーの方を振り向き、何秒か沈黙した後でスコットを見る。


「それに……?」

「……アイツは今日、お前の事を」



 ゴォォォォォォ……ン



 響き渡る大きな鐘のような音。管理局が鳴らす警鐘とは違う、鈍く重厚な鐘の音。


「……!」

「な……なんだ!?」

「ああ、くそっ! 説明はここまでだ! とりあえず死ぬんじゃないぞ、いいな!?」


 ジェイムスは血相を変えてスコットから離れる。


「ヘリ部隊、聞こえるな!? そのままの高度を維持して15番街区周辺に隔離結界障壁を発生させろ! 絶対に奴らを15番街区から外に出すな!!」


 そして天使門を囲うように飛行するヘリ部隊と通信しながらドロシーと擦れ違った瞬間、



「……またね、()()()()()()



 彼女は寂しそうな顔で言った。


 ゴォォォォォ……ン


「何だよ、一体……!?」


《……リンボ・シティの皆さん、落ち着いて聞いてください。今日もこの日がやって来ました。場所は15番街区のほぼ中心部。周辺区域にお住まいの皆様はすぐに避難。離れた区域にお住まいの方も事態が収まるまで決して近づかないでください。もし15番街区にお住みの方で、未だに避難が完了していない方は》


 ゴォォォォォォォォォ……ン


《……覚悟を決めてください》


「どういうことだよ! 覚悟を決めろって……」



 ────ドクン。



『覚悟を決めろ』 その言葉が聞こえた瞬間にスコットの背中が酷く疼く。


「……がっ!?」


 その疼きはやがて胸にまで届き、彼は思わず地面に膝をついた。



(……何だ、これは……! 何か……)


(……空から、何か……ッ!?)



 スコットは疼く背中に釣られるように、反射的に空を見上げる。


 雲ひとつない晴天には天使の輪のような巨大な金色の円が浮かび、その中心部には白く渦巻く穴がポッカリと開いていた。


「……!!」


《……それでは皆さん、心の準備をしてください》


《15番街区上空に天使門(エンジェル・ハイロゥ)が発生。上位存在(アンゲロス)……実体化します》


 その放送が終わると同時に、空に浮かぶ天使の輪から光り輝く無数の腕が這い出してきた。


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