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こ れ で お 前 も フ ァ ミ リ ー だ
「イェェアアアアー!」
「ハッピーハロウィーン!!」
時刻は夜の11時、街を賑わせるE型ハロウィン病人のテンションも最高潮に達し、夜中だと言うのに活気に満ちあふれていた。
「ハロウィーン!」
「ハロウィーン!!」
「ホアアアアーッ!!」
「ホアー、ホアー」
「……」
ハロウィン一色に染まるリンボ・シティの様子を建物の屋上からジェイムス達は眺めている。
その表情は疲労困憊、茫然自失といった様子で明日の仕事に影響が出るレベルに追い詰められていた。
「……信じられるか? ここ一桁区なんだぜ?」
「……ですよね」
「13番街区の方が静かでしたよね……」
『ホアアアアアアアアーッ!!』
職員達は頭を抱え、早くこの悪夢から開放されることを切に願った。
「……ああ、スコットは大丈夫かなぁ」
「確かジェイムスさんの監視対象でしたっけ? 何処に住んでるんですか?」
「13番街区」
「それならもう大丈夫ですよ。G型もJ型も沈静化してきて」
「……でもアイツ、あのドロシーに気に入られちゃってるんだ」
「あっ……」
その一言で皆に通じるスコットの現状。その顔も知らない職員達だが、ジェイムスの一言で一気に彼は同情と憐れみの対象となった。
「あの幸運の女神に……」
「お気の毒になぁ……」
「見た目と能力は素晴らしいんですけどね……中身が」
「うん、中身がね。人間として許容出来ないよね」
異常管理局職員にとってドロシーの存在は死神、疫病神、破壊神……その全てを一纏めにした歩く災害に等しい存在である。
ドロシーがトラブルを起こす事は殆どないが、街で起きる大きなトラブルには大抵彼女が介入してくる。
非常に迷惑な存在ではあるのだが、彼女が居なければ事態が悪化する事が多い。
というより、彼女が居なければこの街はとっくに滅んでいる……
幸運の女神とは大きなトラブルが発生しなければ協力してくれない上に個人の性格に多大な問題があるものの、一度動き出せばどんなトラブルも必ず解決するドロシーの力を盛大に皮肉った二つ名なのだ。
「まぁ、スコット自身も大概おかしいけどな」
「え、そうなんですか?」
「こればっかりは俺の勘だが……」
ジェイムスはスコットを心配しつつも、彼の内に眠る恐ろしい怪物の存在に薄々勘付いていた。
「何だかんだでアイツらはお似合いなのかも知れないな」
そう呟きながら彼は夜空を見上げる。
空に輝く沢山の星の中に一際目立つ四つのキラキラ星を見つけ、『ははは』と乾いた笑いをあげた。
『ハッピーハロウィーン!』
「はっはっ、ハッピーハッピー、ハーロウィン……」
◇◇◇◇
一方、ウォルターズ・ストレンジハウスでは
『うぎゃぁぁぁぁぁあー!!』
「……ここまで聞こえてくるな」
「本当ですな」
「うふふふ、盛り上がってますわねぇ」
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁー!!!』
「……」
リビングにまで聞こえてくるスコットの悲鳴。
使用人達は穏やかな表情で紅茶を飲み、デイジーは只々黙祷、彼を心配しているのはニックだけだった。
『しゃ、社長! 社長ーっ! やめてください! やめてぇええー!!』
『あはははっ! えい、えーいっ!!』
『ぎゃああああ!』
『暴れんなよ、暴れんなよ!』
『うふふふっ』
「……」
「デイジー様も混じって来ますか?」
「えっ! 嫌だ! オレはまだ死にたくないもん!!」
「死ぬようなことが……」
「うふふ、普通の男なら持って10分でしょうね。体を洗われるだけで」
「洗われるだけで!?」
「本番だと1分で死んでおります」
涼しい顔でそんな事を言う使用人達にニックは戦慄する。
彼女達からはただならぬ気配を感じていたが、まさか其処までとは思いもしなかった。
「まぁ……うん。姐さんがな、ちょっとヤバくてな」
「そ、そこまでかね」
「うん、オレも……何回か死にかけたし。そこにルナさんが混ざったら……」
「……」
「スコットはもう、助からねえよ……」
デイジーは手で顔を覆って啜り泣く。
先輩として何かとスコットを気にかけていた彼はその命が今夜尽き果てるのを直感し、育んだ思い出の数々を回想する……かなり脚色されているが。
『ぐああああああッ!!』
「派手に叫んでおりますが、恐らくはただ体を洗って頂いているだけでしょうね」
「でしょうねぇ」
「へっ!?」
「え、そうなのか!?」
「だってお嬢様がご一緒ですもの」
マリアはうふふと笑ってニックを膝の上に乗せる。
「ああ見えて可愛い義娘にはしっかり気を配る人達なのですよ。今日は病気で少し積極的になっていますが……」
「お嬢様が一歩踏み出さない限りは、あの二人も彼に手を出すことは無いでしょうな」
「つ、つまり……?」
「うふふ、スコット君はちょっとお仕置きをされているだけですわ」
「お嬢様と一緒に浴室に案内したのはそういう理由でございます」
『はびゃあああああああっ!!』
意外なことに、あれだけ喘いでおきながらスコットは一応無事であるらしい。
「……心配した私が馬鹿だったようだ」
「そ、そうだったんだ。へぇー……」
「ですので、良ければデイジー様も是非ご一緒に」
「えっ! いいよ別に! オレ、スコットの事なんて全然興味ないし!!」
「ふふふふっ、それじゃあ今夜は私と一緒にお風呂に入りましょうか」
「ええっ! いやいやいや、一人で入りますよ! オレは男ですよ、マリアさん!!」
「うふふふー、遠慮しなくてもいいのですよ?」
マリアは浴室の方を見て何処か寂しそうに笑う。
「遠慮ばかりしていると、お嬢様達のように色々と失なってしまいますから」
「も、もう十分綺麗になりましたから! 勘弁してください! 勘弁してくださいぃー!!」
「だめー、もっと綺麗になりなさいー!」
浴室ではスコットが泡まみれになったドロシー達に執拗に体を洗われていた。
「ほらー、ゴシゴシーッ!」
「ぎゃーっ!」
「うふふ、背中は私に任せて……」
「わぎゃああーっ!!」
「これくらいでだらしねーぞ、お前ー! オラァ、もっと腕をピーンと伸ばせー!!」
三人は楽しそうにスコットの体に密着して洗い続ける。それは親交を深めるための唯のスキンシップ。
「うふふっ、これでスコッツ君も家族ねっ!」
「ふふふ、そうね。貴方も家族よ」
「家族だからな! こうして体洗うのは当然だよなぁ!!」
やや刺激的な光景ではあるが、少なくとも彼女達に色情の類は一切なかった。
「ウワァァァァァァァ────ッ!!」
……ドロシー親子による泡泡ボディウォッシュの刑はスコットが失神するまで続いた。