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「うふふっ、どうかな? 似合う?」
ドロシーはスコットの右隣に浸かって挑発的に笑う。
「あの人以外にこんな姿を見せるのは初めてよ。気に入ってくれると良いのだけど……」
ルナはスコットの左隣に浸かって蠱惑的に微笑む。
(……まずい!!)
二人に挟まれたスコットは即座に身の危険を感じた。
「え、ええと……! ええとっ……!!」
「ちょっとー、似合ってるかどうか聞いてるんだけど?」
先に動いたのはドロシー。彼の左腕を抱き寄せて胸を強めに当てる。
「はっ?! あ、その……凄く、似合ってます」
「ふふふ、良かったー!」
ドロシーは嬉しそうに笑う。
まだ子供らしさが残る童顔には不釣り合いなワガママボディに圧倒され、スコットは撃沈。
「私はどうかしら?」
次にルナが直接スコットの体に抱き着き、ドロシーよりも豊満な胸を押し当てる。
「ううっ……! に、似合ってます! 凄く!!」
「うふふ、ありがとう。勇気を出した甲斐があったわ」
ルナは少し照れくさそうに微笑んだ。
外見はドロシーよりも少し年上程度といったところだが、その溢れる色香と清楚な外見に内包する大胆さは少女のそれではない。スコットは轟沈。
(駄目だ! 駄目だ、コレは! 耐えられない……!!)
時間にして僅か数分。ただ二人に抱き着かれただけでスコットは追い詰められ、既にその頭は沸騰寸前。
とてもじゃないが今の二人を相手取るなど不可能だ。
(そもそも! 俺に彼女達を満足させられる訳がねえじゃん! どっちも100歳超えちゃってる魔女だろ!? 未経験の社長はともかく、どう考えても経験豊富なルナさんに俺が敵う訳がないだろ! 人妻だぞ!?)
(ていうか! 何で俺は! 人妻と一緒に風呂に入ってんだよ!?)
ここでスコットは至極真っ当な道徳的模範解答に辿り着く。
「ちょ、ちょっとルナさん! 貴女は社長のお母さんですよね!?」
「そうね」
「む、娘さんが気になってる男に手を出していいんですか!?」
「いいのよ、ファミリーだもの。家族の絆を深めるスキンシップは大事よ?」
しかしルナはスコットの言葉を真顔で一蹴。あたかもそれが当然の事であるかのように言い放つ。
「す、スキンシップって!!」
「そうそう、スキンシップは大事だよ? お肌の触れ合い通信だよ、絆が深まるよ??」
「アンタも何で気にしてないんだよ! 少しは気にしろよ、お母さんが隣にいるんですよ!?」
「……確かに、少しは気になるけど」
ドロシーはスコットに抱きつくルナを見て数秒ほど意味深な沈黙を貫いた後で彼の顔を見上げ……
「僕は男の人の相手をするのは初めてだもの。お義母様に色々と教えてもらわないと」
魔女らしからぬ大変いじらしい乙女の顔で言った。
「ぐふぅっ!?」
理性を蒸発させかねないドロシーの愛らしい表情。
スコットの脳内では警告音が鳴り響き、理性と本能の仁義なき戦いが勃発する。
「ふふふ……安心しなさい? 私はただスコット君の背中を流しに来てあげただけ。何もしないわ」
「あ……そ、そうなんですか」
ここで圧され気味だった理性が優位に立てる一言。
心の奥底では人妻とのあれこれを期待していたスコットは魂が抜けるような溜息を吐いた。
「あれ、ちょっとスコッツ君? ひょっとして何かを期待していたの??」
「えっ! そ、そんなことないですよ!?」
「あら、そうなの? それじゃあ……仕方ないわね」
だが、その一言こそがルナ・ハロウィンモードの巧妙な罠だった。
「期待させてしまっていたのなら私も応じてあげないと」
「あの、ええと……」
「ふーん、スコッツ君はルナに何かされるのを期待してたんだ」
「ち、違いますよ! 誤解しないでください!!」
「……じゃあ、僕はそれよりも凄いことをしてあげる」
そしてドロシー・ハロウィンモードもルナに負けじと闘志を燃やす。
(あ、終わった……)
一度は優位に立ったスコットの理性を本能が追い立てる。
そもそも理性が勝った所で既に逃げ場などない。それに此処で逃げてしまうと水着まで用意してきた彼女達の本気を踏み躙る事になる……
(……ん? 待てよ)
しかし此処で突然スコットに光明が見え始める。
(そもそも今の二人は何をされても覚えてないんだよな。ハロウィン病でおかしくなっているだけで……)
つまりここでドロシー達の誘いを振り切り、力ずくでこの場を脱して二人の心を傷つけたとしても明日にはその事を忘れている。
『何をされても覚えていない』というマリアの悪意ある誘導がスコットを窮地に立たせていたが、裏を返せば『どんなに傷ついても忘れてしまう』という事の証明。
(……そうと決まれば、やることは一つだ!)
「うぬおおっとぉ!」
「ふやあっ!!」
「ああっ」
「おおっと、すみません! ちょっと上せちゃったので、俺はもう出ますね!!」
スコットは二人を押し退けて勢いよく立ち上がり、浴槽から飛び出て猛ダッシュする。
「あっ! こら、待ちなさいー!!」
「すみません、社長! 俺は先に……」
「おーっす! 盛り上がってるか、非童貞ー! あたしも混ぜて貰いに来たぞぉー!!」
脱出成功かと思いきや、突如としてアルマがバスルームに乱入する。
「何ぃぃぃぃ────!?」
「おおっ! な、何だぁ!?」
いきなり現れたバスタオル姿の黒兎に意表を突かれたスコットは勢いを殺しきれずに彼女と衝突。
「グワーッ!」
「んぎゃーっ!!」
スコットはそのままアルマを床面に押し倒してしまう。
「ちょ、お前……いきなり何するんだコラァー!」
「す、すみません! 悪気があったわけじゃ……って、はぁぁぁぁぁぁぁー!?」
アルマのバスタオルがハラリとはだけ、その慎ましくも眩しい裸体を間近で見てしまったスコットは絶叫。反射的に飛び起きようとするがアルマは柔らかい脚を活かした蟹挟みで拘束。
「あ、アルマさん!?」
「全く……この非童貞野郎が、いい度胸してるじゃねえか」
「ちょっ、違っ……」
「いいよ、上等だよ!! アルマさんが相手してやんよ!!」
「アルマ先生ー? 独り占めは駄目だよー??」
ガッチリと動きを封じられたスコットの背後に迫るドロシー。
先程までの愛らしい表情からは一変、いつものような小悪魔的な顔で彼に近づいてくる。
「オーケー、ドリーちゃんが言うなら我慢する!」
「ふふふ、それじゃあ……スコット君?」
「……」
「本当のファミリーになる覚悟はもう済んでるわね? もし済んでないなら、諦めなさい……」
身動きが取れないスコットを見下ろしながら、ドロシーはふふんと蠱惑的に笑う。
「絶対に逃さないから」
紅潮した魔女が艶めかしい声色で発した言葉に、スコットの心は折れた……