20
運営様からレッドカードを頂きました。目から紅茶が溢れました。
午後8時、リンボ・シティ13番街区 喫茶店 ビッグバード。
「うーん、今日は散々だったなぁ……」
散財したジャックを連れて店を出ていく常連客達を見送り、タクロウはぐぐっと背伸びをする。
「ふふふ、お疲れさまでした」
「ジャックへの仕置きはこれくらいでいいだろ。来年もこうなったら流石に殺すけどな!」
「大丈夫ですよ、あんなに皆に釘を差されたんですから」
アトリはそっとドアを閉め、カチリと鍵を閉めた。
「さて、俺たちも晩飯にするか。何が食べたい? 今日は俺が何でも用意してやるぞ!」
「何でも……ですか?」
「うん! アトリさんが大好きな特製オムレツでも」
「ちゅっ」
突然タクロウの唇を奪い、アトリはふふふと笑う。
「……あれ?」
「それじゃあ……あなたが食べたいです」
「え、あれ……アトリさん?」
そっと身につけていた黒いマントを脱ぎ、アトリは愛する夫に下着姿よりも危険で刺激的な姿を晒す。
「ファッ!?」
「ふふっ、貴方がおかしくなっている間……大変な事があったんですよ」
「な、何! 何その格好は!? あ、アトリさん!!?」
魔猿を倒したブリジットに渡された黒いレザーマントの内に秘められていたのは、破れたシャツを強引に縛って辛うじて胸を隠しただけの艷衣装。
「な、何があったんだよ!?」
「大変な事……です。ちょっぴりピンチでした」
「ああ、くそっ……! と、取り敢えず胸を隠して!!」
その衝撃的すぎる妻の姿にタクロウは慌ててマントを閉じさせる。
だがアトリはいやいやと首を振り、再び夫の前でマントを開いた。
「え、アトリさ……」
「あなた」
「アッハイ……」
「私、すごく頑張ったんですよ? 貴方がああなっている間に……」
後退りするタクロウに頬を紅潮させたアトリが迫る。
テーブル席に足を取られたゴリラはそのまま椅子に崩れ落ち、それを好機と見た若妻は動揺する夫に飛びつく。
「ふふふっ、すごく頑張ったし……すごく怖い目に遭ったの。だから、慰めて……?」
「ま、待って! まずは晩飯にしよう!? その後にゆっくりとお風呂に入ってから……!!」
「ふふっ、嫌です! ずっと我慢してたんだから!!」
アトリはマントをバサッと脱ぎ去り、瞳にハートマークを浮かべながらタクロウを押し倒す……
「あ、アトリさぁぁぁーん! 待って! 待っ……!!」
「うふふっ、うふふふっ」
「アトリさっ……!」
「愛してます……あ、な、たっ」
「ホワァァァァァ────ッ!!」
二人きりなった愛の巣にゴリラの壮絶な雄叫びと幸せそうな天使の笑い声が響き渡った。
◇◇◇◇
「…………あ?」
冷たい雫が額に当たってスコットが目を覚ます。いつの間にか彼は大きな浴槽に浸かっていた。
「あ、あれ? ここは風呂……? 何で……」
「お目覚めかな、スコット君」
「はっ!?」
すぐ隣で不機嫌そうなニックがこちらを睨みつける。
「あ……どうも、ニックさん。すみません、本当に」
「いや、良いんだ。明らかに今日のドロシー達は様子がおかしかった。逃げたくなるのも当然だろう……」
「……」
「だが、君に対する評価は改めさせてもらうよ。君は軽蔑に値するクソ野郎だった」
「ううっ……! ごめんなさい、ごめんなさい……!!」
静かな怒りをぶつけてくるニックにスコットは全力で頭を下げる。恨むまでとは行かないが、少々腹に据えかねている様子のヘルメットはプイと冷たくそっぽを向く。
「本当にごめんなさい! でも、でも……!!」
「……まぁ、君の分まで美味しい夕食を堪能させてもらったよ。アーサーは料理が本当に上手だな」
「あ、はい……執事さんの料理は美味しいですよね」
「ところでスコット君。どうして君と私が分離しているか……解るかね?」
ニックはそう言ってスコットと目を合わせる。
「え、それは……その社長達と」
「彼女達と盛り上がっている途中で外れた。もしくは一頻り盛り上がった後に外してもらって、浴室に運ばれてきたとでも?」
「……違うんですか?」
「違うんだな、これが」
スコットの背後で勢いよく開く浴室の扉。驚いたスコットは反射的に後ろを振り向いてしまった……
「お待たせ、スコッツくん」
「ふふふ、ちゃんと目が覚めてくれて良かったわ」
「はぁぁぁぁぁ────ん!!?」
現れたのは水着姿のドロシーとルナだった。
二人は髪を後ろで纏めてお揃いの白いビキニを身に着け、スコットの精神を破壊しうる 男を殺す衣装 で参上した。
「な、ななななななっ!?」
「駄目だよー? スコッツくーん。可愛い後輩のニック君に意地悪な事しちゃ」
「本当ね。彼はとっても困ってたのよ? 先輩がそんな事をしていいの?」
「え、ええええっ! ええと! あれはその……てか、何でっ!?」
「スコット君、僕は魔法使いだよ?」
ドロシーは手で銃の形を作り、スコットの顔に向けて『ばぁん』と可愛らしく言う。
「武装解除魔法も当然使えるわ。君の前でブリジットから鎧を脱がしたのをもう忘れたの?」
「……」
「いつでも彼と分離させられるのに、そのまま彼に操られた君と遊ぶ訳ないじゃない」
スコットはそっとニックの方に目をやる。彼は態とらしくゲップを鳴らし、大きな目をニヤリと笑わせる。
「美味しかったよ、アーサーの料理。さぁ、君もお腹いっぱい味わうと良い……今晩のメニューは彼女達だ」
「失礼いたします」
ニックがそう言い放ったのと同時にスリッパを履いた老執事が頭を下げて浴室に入り、ニックを拾い上げて外に出ていった。
「それでは、お嬢様にルナ様……ごゆっくりお楽しみくださいませ」
「ありがとう、アーサー。サイズぴったりよ、この水着」
「ふふふ、ありがとう。私のもピッタリよ」
「光栄の極みでございます」
老執事はニコッと笑って浴室の扉を閉め、水着姿の魔女達とほんのり花の薫りが漂う 懲罰房 に取り残されるスコットに無言のエールを送った。
「……あ」
「それじゃあ、スコッツ君?」
「うふふ、スコット君?」
「アッハイ……」
「「素敵なハロウィンにしましょう??」」
ドロシーとルナは互いの胸をムニュッと合わせ、瞳の中にハートを浮かべながら言った。
後に読み返したら そりゃ仕方ないよね と自分で納得しました。仕方ないね。