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H は H でも HELL の方だがなぁぁー!!
「……むあっ?」
場所は変わり、ウォルターズ・ストレンジハウスの寝室。正気に戻ったデイジーがベッドから起き上がる。
「……あれ、オレは一体……」
ぼんやりとした頭を抱えながらデイジーは部屋を出る。
そして重たい瞼を擦って廊下を歩き、スコット達の居るリビングにひょこっと顔を出した。
「うぁぁ……おはようございます」
「あら、おはようございます。デイジー様」
「……すいません、何か気がついたら寝ちゃってたみたいで」
リビングに来たデイジーが目にしたのは、セクシー&キュートな姿に仮装したルナとドロシーがスコットにベタベタとくっつく光景だった。
「……」
「あ、おはようー! よく眠れた?」
「あら、おはよう。ふふふ、お菓子はまだまだ沢山あるわよ」
いつもと様子が違う白兎と社長。お酒が入っていないのにその頬はうっすらと紅潮し、何処か息遣いも艶めかしい。
そんな二人に挟まれながらスコットは涙目でデイジーを見つめる。
「……デイジー先輩」
「……何だ」
「助けてください!」
「知るかぁ!!」
デイジーはスコットに背を向けて足早にリビングを出ていく。
「デイジーさぁーん!」
「あれ、どうしたんだろ?」
「さぁ?」
「あーもう! ちょっとくっつき過ぎですよ、二人共! 少し離れて!!」
「ふやぁっ」
「ああっ」
スコットは抱きつく二人を少し強めに突き飛ばす。
「いたーい……」
「もう、乱暴ね」
「そんなに力込めてないですよ! 大袈裟なリアクション取らないでくだ……はぁっ!?」
突き飛ばされたドロシーのスカートは派手に捲れ上がり、ちょっぴり大胆な白いレース下着と肉付きの良い脚が顕になっていた。
「あわっ! すいません、社長!!」
「きゃあっ、見ちゃダメー!」
ドロシーは慌ててスカートを戻すがその仕草と反応は実に態とらしく、表情も何処か満足気だった。
「見てません、見てませ……ほあっ!?」
後ろを向けば今度はルナのお洒落な下着とガーターベルトが彼の目に飛び込んでくる。
「……あら、ふふふ」
ルナはそっと捲れたドレスを戻して挑発的に微笑む。
「み、見てませんからね!?」
「そう、残念ね。貴方には見られても良かったのに」
「はい!?」
「ねー、スコッツ君。僕のはしっかりと見たよね? 目を見たらわかるよー??」
「い、いえ! 見てません! 本当に見てませんから!!」
「じゃあ、顔をもっとよく見せて?」
「い、嫌です!」
「ふふふ、ところでスコット君……今夜はこの家に泊まっていくわよね?」
「────ッ!!」
いつにも増してぐいぐいと迫る二人にスコットは顔を真っ赤に紅潮させ、堪らずソファーから立ち上がって逃げるようにリビングから飛び出した。
「はー、はーっ! ど、どうしたんだ、今日の社長は! 絶対に変だぞ!?」
トイレに逃げ込んだスコットは顔面蒼白でお洒落な便器で蹲っていた。
コンコン。
「ひいっ! は、入ってますよ!!」
『スコット様、私です。少しお話があるのでキッチンまでお越しください』
スコットが閉じこもるトイレのドアをノックし、老執事は言った。
「は、話って!?」
『5分以内にお願いします。それ以上は時間が稼げませんので』
老執事の意味深な言葉を聞きトイレから出たスコットは、ドロシー達を警戒しつつおっかなびっくりキッチンに向かった。
「いやはや、驚かせて申し訳ありません」
「……あの、今日の社長達は」
「ははは、貴方には正直に話しておくべきでしょうな」
エプロン姿の老執事は少々困り顔でリビングの様子をチラチラと覗う。
「……ご想像の通り、今日のお二人方はハロウィン病にかかっています」
「ですよね!」
「それもE型に匹敵する厄介さを誇るH型。一部の女性だけに感染する特殊なタイプです」
「え、H型……? それは一体」
「わかりやすく簡単に申し上げますと、日が暮れた途端に感染者を エロティックなレディ に豹変させる病気です」
「ちょっとふざけないでくださいよ! オレは真剣に困ってるんですよ!?」
神妙な表情でふざけた事を宣う執事にスコットは本気で掴みかかった。
「いやいや、私はいつも真剣です。あの二人は本当に病気にかかっているのです」
「嘘だと言ってよ!!」
「私も困っているのですよ。発症してしまったらどうにも出来ません、ハロウィン故の気の迷いだと思ってここは何とか……」
「何とかって何!? 俺にどうしろっていうんですか!!?」
「何とか正気に戻るまで、お二人の相手をお願いします」
スコットの肩を掴みながら老執事は言った。
「俺に死ねって言うんですか!?」
老執事のお願いにスコットは即答した。
「そこをお願いいたします。スコット様にしか頼めない事なのです」
「……第一、仮装をすればハロウィン病は大丈夫じゃなかったんですか」
「E型とH型は仮装しても防げませんし、治療法もございません。お手上げです」
「いやいやいやいや! 嘘でしょ!? そんなのありかよ!!?」
「本当です。だからこの街のハロウィンは恐ろしいのですよ」
絶望したスコットは膝から崩れ落ちる。
何のために自分はこんな格好にさせられたのか。予防できるとは何だったのか。
思い返せば今朝から二人の様子がおかしかったが、まさか病気にかかっていたからだとは想像も出来なかった。
「……どうすればいいんですか」
「二人を満足させてあげれば大人しくなります」
「……どう満足させればいいんですか」
「ご想像にお任せします」
老執事の言葉が更にスコットを追い詰める。
「……執事さんはどうやって対処してきたんですか?」
「はっはっ、どうやらもう私は対象外のようでしてな。H型は 気になるお相手 がいなければ感染しないのです。ですから今までG型にさえ気をつけていれば良かったのですが……」
老執事は再びスコットの肩をガシッと掴む。
「つまりそういうことです。どうかスコット様も覚悟を決めてください」
「……」
「ご安心を。今夜お二人と何があってもハロウィンの仕業と言うことにしますから」
「ふざけんなぁぁぁぁ────ッ!!」
スコットは決意した。今すぐこの場から逃げなければ……と。
一度は言ってみたかった決め台詞です。