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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.9 「悪戯か、イタズラか?」
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10

ここからは真剣なハロウィンのお話になります

「あああ、ニコルさん……!!」


 タクロウの熱いハグで新たなるお菓子ゾンビと化したニコルがぐるりとこちらを向く。


『お菓子だああああー!』

『お菓子を寄越せぇぇぇー!!』


 お菓子ゾンビの群れにニコルも参加し、アトリ達が籠城する厨房の扉を激しく叩き出した。


「畜生! 余計に事態を悪化させやがって!!」

「やっぱり馬鹿に期待した私が馬鹿だったわ!!」

「……!」


 ニコルが落とした携帯を見て覚悟を決めたアトリは皆の顔をジッと見つめる。


「ア、アトリちゃん?」

「次は私が行きます……!」

「む、無茶だよ! アトリちゃんもゾンビにされちゃうよ!?」

「俺、アトリちゃんまでああなったら耐えられないよ! 生きていけない!!」

「それに君がやられたら犠牲になった先生達に何て言えばいいんだよ!?」


 犠牲になった常連達の勇姿を回想してアトリは涙ぐむ。


 皆、アトリをハロウィン病人から守るべく自分の身を真っ先に投げ出した。

 もしもアトリがゾンビに襲われれば彼らの尊い犠牲が無駄になってしまう……


「本当は、タクロウさんが病気になった時に私も一緒に襲われるべきだったんです……」

「何を言い出すんだ!?」

「だから、もし次に誰かが犠牲になる必要があるなら……」

「だ、駄目よ! アトリちゃん!!」

「やめろぉ!」

「……次は私の番です」


 ニコルの形見である黒い帽子を被り、ステッキを握りしめながら彼女は言った。


「ま、待ってくれ! アトリちゃん!!」

「リッチーさん、そこを退いてください。私が外に出て助けを呼びます!」

「待て! どうせならもっと念入りに仮装した方がいい……俺の服を使ってくれ!!」

「えっ」

「お、男物の服を着るだけでも立派な仮装になる筈だ!」


 リッチーはその場で脱ぎ出し、パンツ一枚になって自分の衣服を躊躇なくアトリに渡す。


「さぁ、これを着て」

「ふざけんな、変態ーッ!」

「オゥフッ!!」


 一緒に立て籠っていた常連のカンナの鉄拳がリッチーに叩き込まれる。


「人前で堂々と服脱いでんじゃないよ! あとアトリちゃんに何着せようとしてんの!!」

「え、いや……こうした方が襲われる可能性を減らせる……」

「汗まみれになった汚ねえ服を人妻に着せるか普通!? アトリちゃん、そんなの着るなよ! ハロウィン病より厄介な病気にかかるかも」

「ありがとう、お借りしますね……!」

「アトリちゃーん!!」


 リッチーの温もりと汗が染み込んだ服をアトリは躊躇なく着た。


「何で着ちゃうのよ! それはリッチーが着てた服だよ!?」

「えっ、だ、だって……!」

「うわぁー! アトリちゃんが穢れたー!!」

「アトリちゃんがぁぁー!!」

「お前ら俺を何だと思ってやがるんだ……!」

「馬鹿よ!」

「馬鹿だろ!?」

「馬鹿じゃねえの!?!!?


 常連仲間から満場一致で馬鹿呼ばわりされてリッチーは男泣きした。


「……これで外に出られます。ありがとう、リッチーさん!」


 だが、アトリに抱きしめられてすぐに涙は引っ込んだ。


「ほ、本当に行くのね……?」

「はい、私が出たらすぐに扉を閉めてください」

「き、気をつけるんだぞ……!」

「大丈夫です……! 私、ちゃんと仮装してますから!!」


 ニコルの帽子とステッキ、そしてリッチーのスーツを着て男装の麗人に扮したアトリがビシッとポーズを取る。


「……うん! 似合ってるよ、アトリちゃん!!」

「可愛いよ……すごく可愛いよ! 畜生!!」

「くそぅ、店長くそぅ! 何でこんなに可愛い嫁さん貰えたんだよ!!」

「リッチーの服じゃなかったら最高だったのに……!!」


 常連達は有り合わせ衣装の麗人に最後の希望を託し、扉を開けて外に出るアトリの無事を神に祈った。


「すぐに閉めてください!」

「くそぉぉー! 襲われるんじゃないぞぉぉー!!」


 彼らは断腸の思いで扉を閉める。

 アトリはすうっと息を吸い、目の前に寄ってきたタクロウゾンビと目を合わせる。


「……ッ!」

「……ナイス・ハロウィン!」


 タクロウゾンビは満面の笑みでサムズ・アップ。

 アトリはホッと胸を撫で下ろし、落ちていたニコルの携帯電話を拾いあげた。


「ハッピーハロウィン!」

「ハッピーハロウィン!!」

「ハッピーハロウィン!!!」


 お菓子ゾンビ達に見守られながらアトリは店を出てウォルターズ・ストレンジハウスに電話をかける。


「……ドロシーさん……! 早く出て……!!」

『はい、もしもし』

「ああっ! 私です……アトリですっ!!」

『おや、アトリ様。どうなさいました?』

「じ、実はタクロウさん達がっ……」



 ────ズシンッ。



 電話が繋がった事に安堵したのも束の間、彼女の目の前に空から巨大な()()()が落ちてきた。


『アトリ様? どうかなさいましたか』

「……ッ」

〈グル、ボル……ヴォルルル……〉


 落ちてきたのは青い鱗に覆われた双頭の猿に似た獣。


 4mはあろうかという巨体に骨の兜を被っているかのような凶悪な頭部、肉を骨ごと噛み砕いてしまいそうな鋭利な歯、身長と同じ長さの細長い腕。

 空を見上げれば頭上には渦を巻く黒い穴(ゲイト)がポッカリと空き、目前の一頭に続いてニ頭目が向かい側の建物の屋根に落下する。


「……助けて、ください」

〈ヴルルルルルルルルッ!!〉


 最悪のタイミングで現れた異界の怪物達を前にアトリの心が折れた。


〈ヴォオオァァァァァァー!〉


 まるで猿叫のような声を上げて怪物はアトリに襲いかかる。

 急いで店に戻ってドアを閉めるが、怪物の体当たりで丈夫なドアは大きく歪んだ。


「ひっ……!」

〈ヴォヴォヴォヴォッ、ヴォッ……!〉

〈ギュルルルルヲオッ!!〉


 怪物は長い腕で窓ガラスにベタベタと触れる。

 大きな口をニイイと裂かせ、アトリを獲物と見定めた異界の魔猿はバンバンとガラスを叩く。


「あう、あう……!」

「ナイス・ハロウィン!」

「ひっ……! あっ、せ、先生!?」

「ハッピーハロウィン!」

「ああっ、駄目です! 窓に近づいちゃ駄目……!!」

〈ヴァヴォヴォヴォヴォヴォーッ!〉

「ひいっ……!」


 前門の怪物二匹に後門のお菓子ゾンビ達。


 何処かの運が悪い青年も真っ青な地獄に取り残されてしまったアトリは恐怖のあまり腰を抜かし、魔猿に睨まれながら震え上がるしかなかった。


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