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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.9 「悪戯か、イタズラか?」
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9

愛の力もハロウィンには勝てなかったよ……

「ヒャッハー! お菓子だー!!」

「お菓子ー!!」

「はいはい、お菓子ですわ。しっかりお食べなさいー」


 リビングでは仮装したアルマとデイジーがハイテンションにお菓子を要求する。


 アルマはバニーガール服に刺々しい革マントを羽織ったヴァンピール風、デイジーは頭にネジが突き刺さったへそ出しルックのフランケンシュタイン風衣装。

 どちらも露出度が高くスコットには目に毒だった。


「うまーい!」

「あまーい!」

「……社長、あれは病気ですよね?」

「多分ね」


 お菓子ゾンビを連想させる動きでお菓子に飛びつく二人にドロシー達は目を曇らせる。


「うふふ、お二人は昨日の夜遅くまで13番街区で遊んでいたので感染してしまったようですね。私も二人が目が覚ますまで気づきませんでしたわ」

「どうやって帰ってきたんですか……」

「朝日が昇るまでは接続点(リンク・ポイント)が使えるからね。病気にかかったのに気付かないまま家に来ちゃったんだろうね」

「それ大丈夫なの!?」

「僕たち()仮装してるから大丈夫よ」

「うまーい!」


 バクバクとお菓子を食べる二人。ボウルに乗ったビスケットを仲良く平らげた後に幸せそうに笑い……


「ハッピーハロウィン!」

「ハッピーハロウィン!!」


 二人はバンザイしながら床に倒れ込んだ。


「薬入りビスケットを買っておいて正解でしたわ、うふふふ」

「……今のお菓子は薬入りだったんですか」

「二人が目が覚ますまであと30分てところかしらね。マリア、新しいお菓子を」

「はぁい、お嬢様! アーサー君、二人をベッドまで案内してあげて」

「了解しました、マリア先輩」


 幸せそうに眠るアルマとデイジーを担いで老執事は寝室に向かう。


「……あの二人でも病気にかかるんですね」

「サイボーグとか関係なしに感染するのが恐ろしい所よ。タクロー君もかかっちゃったかもしれないわね」

「あの人がゾンビ化したら手に負えないでしょ……」

「流石に無いとは思うけどねー」

「タクロウ君はああ見えてしっかりしているもの。きっと大丈夫よ」

「はぁい、新しいお菓子をご用意しましたわ! さぁ、どうぞー!!」


 お菓子の入ったバスケットとお皿を持って優雅にくるくると身を翻しながらマリアが戻ってきた。



『お菓子だぁぁぁぁぁぁぁー! お菓子を寄越せぇぇぇぇぇぇぇぇー!!』


 場所は変わって13番街区、喫茶店 ビッグバード。


『お菓子ぃぃぃぃぃー!!』

「ううっ、どうしてこんな事に……!」

「な、泣かないでよ、アトリちゃん! あれはどうしようもなかったんだよ!!」

「店長は優しすぎたんだ……!」


 アトリと数人の常連客が店の厨房で立て籠もっていた。


 分厚いドアの向こうでは目を血走らせたタクロウゾンビ他多数のお菓子ゾンビが店内を徘徊し、まさに絶望的な状況にあった。


「タクロウさん……!」

「店長がジャックを店に入れなかったら……!!」

「様子がおかしいとは思ってたんだ……、でもハロウィンだからちょっと気合が入ってるだけだと……!」


 三馬鹿筆頭のジャックがハロウィン病に感染していた事に気づけなかったタクロウはそのままゾンビ化され、先生を含めた常連客がその身を犠牲にして時間を稼いだお陰でアトリ達は助かった。


「くそぅ、こんなことならアトリちゃんの為に可愛いドレスを用意しておくんだった!」

「そうしたらアトリちゃんは襲われずに済むのに!!」


 ニコルとリッチーは仮装していたのでジャックには襲われなかったのだ。


『ギブミィィィー! チョコレェェェェトォォォォーゥ!!』

「でもこのままじゃ次の日まで持たないよ……! それまでに店長ゾンビがこの扉を壊しちゃうよ!!」

「くそぉ! 店長の馬鹿力がこんな最悪の形で牙を剥いてくるとは……!!」

「誰か携帯持ってないの!?」

「こ、この厨房は電波が届きにくいんです……!」

『アオオオオオオオーッ!!』

「や、やるしかねえ……!」


 覚悟を決めたニコルが携帯電話を握りしめて立ち上がる。


「に、ニコル!」

「ニコルさん!?」

「一応、俺は仮装している……だから多分襲われない筈だ! 俺が外に出て電話で助けを呼ぶよぉ!!」

「ま、待って! 危ないですよ!!」


 長く立派なマントをなびかせてニコルは扉の前に行く。

 心配したアトリが止めようとマントを掴むが、彼は既に覚悟を決めていた。


「……ア、アトリちゃん。この窮地を抜けたら……」

「それ以上言うな、ニコル! 嫌な予感がする!!」

「そうよ、余計なことは言わないで!」

「クソァ! 仕方ねえな! お前ら、俺が出たらすぐに扉を閉めろよ!!」


 ニコルは自らの形見として黒い帽子と杖をアトリに渡し、彼女達の生命線である分厚い扉に手をかける。


「じゃあ、行ってくる!」

「ニコルさん……!」

「電話をかけるのは異常管理局じゃなくてドロシーの家にしろよ! 管理局は絶対に来ねーから!!」

「わかってるよぉー! うおおおおおー!!」


 勢いよく扉を開けてニコルは飛び出す。タクロウゾンビはすぐさま接近して血走った目で睨みつける……


「よ、よぉ……店長」

「ナイス・ハロウィン!」


 タクロウは眩しい笑顔でサムズ・アップ。仮装したニコルを温かく迎え入れる。


「早く閉めろぉぉぉー!!」

「うおおおおおー!」


 ニコルが外に出たのを確認してリッチー達が急いで扉を閉める。

 生き残る光明を掴んだ皆は胸を撫で下ろし、ニコルもホッとしながら携帯電話を取り出す。


「ハッピーハロウィン!」

「ああ、うん。ハロウィンハロウィン」

「ハッピーハロウィン!」

「うるせぇよ、店長!!」

「ナイス・ハロウィン!!」


 だが笑顔でハロウィンを連呼するタクロウが邪魔になり、彼から離れようとする……


『ニコルゥーっ! それ以上進むな、止まれぇぇぇー!!』

『ニコルさぁぁーん!』

『止まれぇぇぇー!』

「いや、店長が邪魔なんだよ! こんな所で電話なんて出来ねぇ」


  ニコルを包んでいたマントが突然ズルリと脱げる……


「は?」


 ふと後ろを見ると、長く立派なマントの裾が扉に挟まれてしまっていた。


「……嘘だろ?」

『ニコルゥゥゥゥーッ!!』


 絶望するニコルの肩をタクロウはガシッと掴む。


「お前も、ハロウィンになれ……」


 ……ニコルの壮絶な悲鳴がゾンビの巣窟となったビッグバードに響き渡った。


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