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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.9 「悪戯か、イタズラか?」
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6

 リンボシティ1番街区 異常管理局セフィロト総本部。賢者室にて。


「今年のハロウィン病感染者は前年度の1.3倍にまで増加。非常事態宣言も視野に入れるべきですね」


 ハロウィン仕様の制服をクールに着こなしたサチコがいつものポーカー・フェイスで携帯端末に表示される赤いかぼちゃマークをチェックしていた。


「一桁区の様子は?」

「今の所、E型感染者以外は確認されていません。G型、及びJ型感染者は二桁区……特に13番街区付近に集中しています。4番街区は少々警戒したほうがいいかもしれません」

「困ったわね……まだ夜にもなってないのに」


 いつもの白い衣装とは対照的な黒いドレス姿の大賢者が憂鬱顔で紅茶に一口つける。


『ハロウィィィーン!』

『ギャーッ! こっちに来るなァァァー!!』

『おらどけぇー! お化けは浄化』

『ハロウィィィーン!!』

『グワーッ!』

「……この街は本当に恐ろしい所なんだな」


 小さなソファーの上でビスケットを齧りながらテレビを見ていたデモスが呟く。


「この施設に住ませてもらって良かったな、同志」

「あのまま病気にかかっていたらと思うとゾッとするな」

「どうしー、私にもお菓子ー」


 大賢者の机の上にはデモスを初めとするヤリヤモ達が集まっていた。


 ハムスターサイズにまで小型化した彼女達も職員手作りの特製ハロウィンドレスで仮装しており、その小動物的愛くるしさで大賢者を和ませる。


「貴女達は宇宙人だから特に気をつけないといけないわね。感染すると悪化してしまう可能性があるから今日は外出禁止よ」

「ええーっ!」

「そんなーっ!」

「サチコ、携帯端末は決して手放さないようにね。彼女達ならこのサイズでも簡単に複製してしまうから」

「わかっています」


 小さく可愛らしいヤリヤモ達だが油断してはいけない。


 縮んでもこの星を遥かに上回る技術力の持ち主である事には変わりなく、実際に賢者室の疑似映像端末の仕組みをすぐに解明して超小型サイズの疑似映像端末発生装置を作り出してしまっている。


「サチコがよく触っているあの端末では何が出来るんだ?」

「色々よ。詳しくは言えないけど」

「見せてくれないのか」

「私は貴女達を信用しているけど、それはそれとして渡して良いものと悪いものはあるのよ。我慢してちょうだい?」


 今の彼女達に悪意や敵意の類が存在しないのは本当に幸運だった。


 もし彼女達がこちらに敵意を抱いてしまったら、例えこのサイズであっても途轍もない脅威となるだろう。


「代わりにコレをあげるわ、お菓子図鑑よ」

「ムッ!」

「わー、お菓子!」

「食べたいものがあるなら教えてね。用意してあげるから」

「あ、コレ食べたいー!」

「コレもー!!」

「……」


 サチコは机の上でキャイキャイと盛り上がるヤリヤモに何とも言えない視線を向ける。


 この星で初めて甘味という甘露なる毒に触れ、すっかりお菓子の虜になってしまった彼女達からはもはやかつての威厳は失われていた……


「そうだ、作り方を教えてくれ。実際に私達で作ってみよう」

「道具は問題ない。こちらで手頃なもの準備する」

「休眠状態の同志達にご馳走してあげないとー」

「いいのよ、こちらで用意するから。いい子で待ってなさい」


 しかし油断すると地球人離れした知的好奇心と技術力でこちらの技術をアッサリと吸収してしまう。やはり可愛らしくてもヤリヤモは恐ろしい種族なのだ。



 ◇◇◇◇



「思えばハロウィンにあの宇宙人が来なかったのは奇跡としか言いようがないよねー」


 売店で購入したクレープをはむはむと頬張りながらドロシーは言った。


「ふふふ、本当ね」

「もし奴らが来たのが今日だったらどうなってたかなー」

「……ゾッとしますね」

「……うむ」


 アーサーを探すついでに街中の露店を物色しつつ『もしもの事』を想像してスコットは青ざめる。


「ハロウィン病が危険なのはその感染力と迷惑さもだけど、異界からのトラブルに()()()()()()()()()()()()点なのよね」

「……」

「もし街中に異界門(ゲイト)が開いて、中から怖い化け物が現れても皆は気にせずはっちゃけちゃうから」

「ヤバくないですか!?」

「うん、ヤバいね。だから大変なのよ」


 ドロシーはウフフと笑いながら『そうなったらどうしましょう』と言いたげにこちらを見る。


「ど、どうするんですか……そうなったら」

「笑うしかないねー」

「笑えませんよ?!」

「でもそうなったらどうしようもないし、こればっかりは諦めるしかないのよねー」

「……マジですか」

「こら、ドリー。彼を怖がらせないの」


 スコットを不安がらせるドロシーをルナは軽く叱る。


「べ、別に怖がってませんけどね!?」

「そうね、トラブルが起きたら対処すればいいだけだもの」

「まぁ、そういうことだな。起きてもいないのに不安になっても仕方がない」

「ハッピーハロウィーン!」

「あはははーっ!!」

「……不安に飲まれるくらいなら、彼らを見習って楽しむのが最善かもしれないな」

「今日も素敵なハロウィンを! ハッピーハロウィン!!」


 ニックは楽しそうに燥ぎ回る人々を見て呟く。


「そう言えば執事さんは何処ですかね? 4番街区に待ってるって……」

「アーサーなら……ほら、あそこよ」

「わーい、キャンディーだー! おじいちゃんありがとー!!」

「ありがとー!」

「あ、ありがとう! おじいさん!!」

「はっはっは、迷子にならないように気をつけてお帰りくださいね。ああ、いけませんよ。キャンディは一人一個ずつでございます」

「……」


 すると街中で子供達にキャンディーを配る怪しい老人を発見。


 様になりすぎるドラキュラ風のマントとタキシードに片眼鏡をかけた白髪の老人は仮装した子供達に囲まれて幸せそうに微笑みながらキャンディーをあげていた。


「社長、ひょっとしてあれは……」

「安心して、アーサーは病気じゃないから」

「えっ?」

「ただ子供が大好きなのよ。お爺ちゃんになってから急に父性に目覚めちゃったみたいでね」


 もはや元のキャラが思い出せないレベルのキラキラ笑顔で子供達にお菓子を配る優しいドラキュラ老執事をスコット達は暫く見守っていた……


何だかんだで彼女達もヤバい相手なのです。

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