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「ううっ、早く4番街区に……」
急いで13番街区から逃げ出そうと早足で歩くスコットの前に【Fxxk you! Halloween!!】と書かれた鉄板やシールドをこれでもかと貼り付けた謎の重装甲トラックが現れる。
「うおおおおーっ! 静まれぇぇー、ハロウィンゾンビ共よぉー!!」
「ファッ!?」
「おらぁぁー! お化けは浄化だぁぁぁー!!」
トラックの荷台に乗った白コートのガスマスク集団がテニスボール大はあろうかという超大口径のガトリング砲を此方に向ける。
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
「な、何だ!?」
「あ、そうそう。他にもあんな感じで」
「説明してる場合ですか! 急いで物陰に隠れますよぉー!!」
「くらえっ、お菓子ガトリングだぁぁー!!」
ガスマスクはガトリング砲からビッグサイズの弾丸……ではなくお菓子袋を連射、ハロウィン病人達を薙ぎ払っていく。
「グワーッ!」
「お菓子だぁぁー!」
「イ゛ェアアアアアアア!!」
「おらぁー! たらふくお菓子を食って目を覚ませぇー! お化け共ぉぉー!!」
「……なぁにあれぇ?」
「一応、あれも対策の一つよ。病人に満足するまでお菓子をあげて大人しくさせるの」
「それとお菓子袋の中身は薬局で売られているワクチン入りお菓子よ。あれを食べた子はハロウィン病が治るの」
「意味がわからないよ……」
謎の白コートガスマスク集団に薙ぎ倒されていくハロウィン病人。
彼らは情け容赦ないお菓子アタックを受けて満足そうに倒れ、直撃を避けた者達もお菓子袋を開けて中身を貪り食い……
「お菓子だぁぁぁぁー!」
「うまーい!」
「あまーい!」
「うまーい!!」
歓喜の雄叫びを上げて昇天、そのまま地面に倒れ伏した。
「……やったぜ」
ハロウィン病人を沈静化したガスマスクの一人が誇らしげにサムズ・アップ。
トラックの荷台を降り、硬質キャンディーで作った斧を構えて周囲を警戒しながらこちらに近づいてきた。
「あ、どうも。助けてくれてありがとうございます……」
「はっ! クソが! まだ生き残りがいたのか!?」
「ち、違います! 俺達は正気ですって! ほら、お菓子ちょうだいって言わないでしょ!?」
「はっ! す、すまん。興奮してつい……」
スコットの様子を見てガスマスク男は振りかぶった斧を下ろす。
「……」
だがスコットの両隣に居る仮装した美少女達を見て再び斧を振り上げ……
「クソがァァァー! やっぱりお前もハロウィンの下僕かぁー!!」
「は!? え、ちょっと待って!!?」
「ファッキュー! ハロウィィィーン!!」
「ノンノン、ハッピーハロウィーン」
斧で斬り掛かってきたガスマスクに向けてドロシーは発砲、即沈黙させる。
「社長ゥゥゥー!?」
「うーん、やっぱりこうなっちゃうかー」
「何てことするんですか! 彼は正気の人間ですよ!?」
「僕はアレを見て正気だと思う君の正気を疑うよ」
気がつけばキャンディーの斧とお菓子袋が詰まったバズーカ砲、そしてお菓子ガトリングを構えたガスマスク達に囲まれていた。
「ファッキュー! ハロウィン!!」
「ファッキュー! ハロウィン!!」
「え、何ですかコイツら!?」
「これもハロウィン病の一種よ。あのお菓子ゾンビとは逆にハロウィンを楽しんでる子に対して異常に攻撃的になるの。最近になって現れた突然変異体ね」
「どういうことだよ!?」
「J型ハロウィン病人。お菓子ゾンビのようなG型ハロウィン病人とは別のおっかない子達だよ、気をつけてね」
「意味わかんねーよ!!」
「最近はこのタイプが急増中なの。一緒にハロウィンを楽しめる子がいないからかしら」
ガスマスク男達は『ファッキュー! ハロウィン!!』を掛け声に一斉に襲いかかる。
「ファッキュー! ハロ」
パァン、パァン、パァンパァンパァン!!
「グワーッ!」
「イヤーッ!」
「ンアーッ!」
「ヲアーッ!!」
そして無慈悲なドロシーの魔法連射で一掃された。
「……」
「もしかしたらスコッツ君もこうなってたかもね」
「……予防策は?」
「素直にハロウィンを楽しむことかな」
「それと一緒にハロウィンを楽しんでくれる人と一緒に居ることよ」
沈黙するガスマスク男に冷ややかな目を向けるドロシー達にゾッとしつつも、新手が来る前に13番街区を抜けるべくスコットは歩みを進める。
「……13番街区から出たらハロウィン病人はいないんですね?」
「二桁区から出たら危ない子はいないよ」
「……ハロウィン病人は?」
「ここに比べたら無害だから安心して」
一桁区に『ハロウィン病人はいない』とは言っていないドロシーを不安に思いつつ、老執事が待つ4番街区へ向かった。
「ハッピーハロウィーン!!」
あの後も何度かガスマスク男の襲撃に逢いつつも4番街区に辿り着いたスコット達を、明る気な笑い声と活気豊かな住民達が出迎えた。
「さっきまでと全然違いますね」
「みんな楽しそうでしょ? これこそハロウィンよー」
「まるで別世界じゃないか。本当に同じ街なのか?」
「ええ、13番街区のお隣よ」
お菓子ゾンビとガスマスクしか居なかったサツバツとした13番街区から一変し、これぞハロウィンと言わんばかりの楽しそうなお祭りムードの4番街区。
住民達は思い思いの仮装をして楽しそうに満喫していた。
「わーい!」
「トリック・オア・トリートー!」
「みんな気合入ってますね。まだ午前中なのにこんなに騒いで」
「夜からが本番だけどね。これでもまだ大人しい方よ」
「……マジですか」
「あの子たちのような E型ハロウィン病人 は夜まで活性化しないの。まだ初期段階だからあんな感じなのよー」
「つまりこの人達も病気だって事ですか!?」
「うん、全員ね」
ドロシーが可愛い笑顔で言い放った絶望的発言にスコットは震え上がった。