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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.9 「悪戯か、イタズラか?」
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3

外国のハロウィンは凄いですよね。我が国でもトラックが横転したりしましたけど、凄いのは外国のハロウィンだと思います。

「それじゃあ、これに着替えてスコッツ君」


 朝食後、ドロシーは持参した黒いスーツケースから衣装を取り出してスコットに渡した。


「え、何ですかコレ」

「外に出る前にそれを着て。病気を防げるから」

「は? 何を」


 ピンポーン。


「あ」

「誰だ? こんな時間に」


 ピンポーン、ピンポーン。


「待って、スコッツ君。出る前に」

「ちょっと待っててください。黙らせてきますから」


 午前中から鳴り響くインターホン。あまりにもしつこく、一向に止む気配が無いので黙らせてやろうとドアを開ける。


「はいはい、何だよ! うるさいな」

「お菓子だぁぁぁぁぁ────! お菓子を寄越せぇぇぇぇぇぇ────ッ!!」


 スコットは無言でドアを閉じた。


『うおおおオー! お菓子ぃぃぃー! お菓子を寄越せぇぇぇ────!!』

「……どういうことだよ」


 スコットは頭を抱える。


 ドアの前に立っていたのはゾンビに仮装した見知らぬオッサン。


 顔中に血管を浮かび上がらせながら目を見開いて『お菓子を寄越せ』と叫ぶ狂人に彼は震え上がった。


「駄目よ、スコッツ君! 早くこの服に着替えなさい!」

「……ああ、社長。ちょっと待ってください、汚いものを見て心が……ッ!?」


 次にスコットの目に飛び込んできたのは胸元が大きく開いたちょっぴりセクシーな魔女っ子ドレスに着替えたドロシーだった。


「どういうことだよ!?」


 スコットは混乱した。


「いいから早く着なさい! 社長命令よ!」


 ドロシーはふざけた格好になりながらも真剣な表情で宣う。


「いやいや、どうしたんですか! 社長、ちょっとおかしいですよ!?」

「仕方ないわねー、ちょっと動かないでね。今から脱がすから!」

「本当にどうしたんですか!?」


 理解に苦しむ状況にスコットの混乱が加速する。

 痺れを切らしたドロシーは彼を着替えさせようと飛びついた。


「ぎゃああー! 何するんですか、社長ーッ!!」

「君が着替えないから手伝ってあげるの! それが嫌ならさっさと脱ぐか、着替えなさい!!」

「意味わかりませんよぉー!?」

『お菓子だぁぁぁぁー! お菓子を寄越せぇぇぇー! 早くしろぉぉーっ!!』

「スコッツ君! 早く!!」


 前門のコスプレ魔女、後門のお菓子ゾンビ。


 ニューロンが腐敗しかねないカオスな挟み撃ちにスコットはひたすら圧倒され、為す術もなく服を脱ぐしか無かった。



「……これでいいんですか」

「うん、オッケーよ。似合うじゃない」

「ありがとうございます……」


 観念して着替えたスコット。着せられたのは黒字に赤のアクセントが映える悪魔紳士風の衣装で、顔にはドクロの仮面が被せられている。


「これで大丈夫、ドアを開けて挨拶しなさい」

「……」


 スコットは無言でドアを開ける。


「お菓子だぁぁぁぁー!!」

「ドーモ、オハヨウゴザイマス」


 そしてドアの前で待ち構えていたお菓子ゾンビに死んだ目で挨拶すると……


「ハッピーハロウィン!」


 お菓子ゾンビは満面の笑みでサムズ・アップし、彼と握手してその場を去っていった。


「……」

「ふぅ、危なかったね。危うく君も頭がハロウィンになる所だったよ」

「どういう……ことだ……?」

「とりあえずドアを閉めて部屋に戻りなさい」


 スコットは状況が理解できずに困惑する。


 一体、何が起きているのか。確かに今日はハロウィンだが、ここまで迫真の仮装ドッキリを敢行する馬鹿が居ていいのか。

 ただただスコットは震え上がった。


「社長、今のは……」

「あら、良く似合ってるわね。ドリーとお似合いよ、スコット君」

「はっ!?」


 ドロシー以上に胸元が大きく開いた大胆な純白のドレス姿のルナが追い打ちをかける。

 まるでウェディングドレスにも見える気合の入った仮装姿のルナにスコットの心拍数は更に上昇した。


「はぁぁぁぁぁぁぁん!?」

「……何も言わないでくれ、スコット君。私だって辛いんだ」


 ルナが抱えるディフォルメされた悪魔風のマスクに包まれたニックの事など眼中になかった。


「二人共、何て格好してるんですか!」

「だってハロウィンだもの。こうして仮装しないと大変なのよ」

「気合い入りすぎじゃない!? それにまだ朝ですよ! 本格的なハロウィンは」

「ハロウィン病に感染した子に朝も夜も無いわ。一日中、頭がハロウィンで一杯になるのよ」


 ハロウィン病。それは年に一度、ハロウィンの日にのみ大流行するリンボシティ特有の風土病。


 感染する精神疾患とも形容すべき恐怖の病気であり、感染してしまった者はお化けの仮装をして狂気的とも言えるハイテンションでお菓子を求め彷徨い歩くハロウィン病人と化してしまうのだ。


「聞いたことないですよ、そんなバカみたいな病気!!」


 あの姿に恐れをなしてお菓子を与えてしまったら最後、接触した被害者も新たなハロウィン病人になってしまう。

 それを防ぐには仮装をして相手の前に出て『ハロウィンを楽しんでいますよ』という決意表明をしなければならない。


「ふざけているように見えてアレは本当に恐ろしい病気なのよ。僕のお父様やロザリー叔母様も散々苦しめられたリンボ・シティ最大の脅威の一つよ」

「馬鹿げてるよ!!」

「でもこうして素直にハロウィンを楽しんでいれば襲われないし、病気にもかからないわ」


 ルナは豊かなバストをムニュッと寄せてスコットを誘惑しているかのように微笑む。


「ううっ……! せめて二人共もう少し露出の少ないものを……!!」

「どうしてー? 露出が多い衣装だと何か困ることでもあるのー?」

「べっ、べべべ、別にぃ!? でも、女の子がそんなはしたない格好しちゃ駄目でしょ! もう少し恥じらいってのをですね……!!」

「ふふん、スコット君になら見られても恥ずかしくないわ。むしろ今日は見せつけたい気分よ」

「ほぁぁぁぁ────っ!?」


 生意気なバストをぽよんと揺らして可愛く笑うドロシーに追い詰められ、スコットは魂の叫びを上げた。


つまりこの街のハロウィンはもっと凄いです。

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