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『ええ、13番街区で起きた住民の集団ドロシー化事件ですが、異常管理局職員達と民間人協力者の活躍で現在は沈静化。これ以上のドロシー化は起きない模様で……』
「大変な事件だったわね」
ビッグバードの大型テレビでニュース速報を見ながらドロシーは紅茶を飲んで一言。
「頑張ったね、スコッツ君。それにニック君やデイジーちゃんも……」
「やるじゃねぇか、お前ら! 後であたしの部屋に来な、たくさん褒めてやんよ!!」
「え、遠慮します」
「頭だけなのに頑張りましたわね。やはり勇者は伊達じゃないということかしら」
「ははは……あんまり褒めないでくれ。微妙な気分になる」
「……」
「どうしたの、スコッツ君? 君は街を救ったヒーローの一人なんだからもっと胸を張りなさい」
「いや、おかしいでしょ。何でまだ姿が元に戻らないんですか!?」
デモスの企みを阻止し、ヤリヤモ達に変化した体を元に戻す変異キャンセル装置トランスルフェールを使用されたのにスコット達の姿は依然としてドロシーそっくりのままだった……
時が遡って場所はデモスの宇宙船メインデッキ。
「これを使えばお前達の姿は元に戻れる! だから同志を開放しろ!!」
ヤリヤモの一人が先端がお椀型になったライフル銃のような形状の道具を持ってくる。
「こ、こんなので本当に元に戻るのか?」
「戻る! さぁ、同志を開放しろ!!」
「あいあい、わかったよ。ほら、行けよ……」
開放されたデモスはフラフラとヤリヤモ達の所に向かう。
ヤリヤモは皆で彼女を抱きしめ、その無事を心から喜んでいた。
「同志ー!」
「ううっ、心配したぞー!」
「同志の交信器を引きちぎるなんて……なんて酷い奴らなんだ!」
「大丈夫、もう大丈夫だぞ! 私達がついている!」
「もう同志に無茶な事はさせない! 私達がずっと傍にいるぞ!!」
「……うん、ありがとう。うう、ありがとう……みんな……!」
デモスは泣きながらヤリヤモ達と抱きしめ合う。
「ううっ、うううっ!」
「あのー、お前ら? 感動の再会に思わず泣いちゃうのはわかるけどさ。早く戻してくれないかな?」
そんな彼女達にスコットはキッパリと言う。
確かに感動的な光景と言えなくもないが、生憎コチラは悠長にそれを眺めている場合ではない。
一刻も早く元の姿に戻りたいのだ。
「で、では、こっちに来い。トランスルフェールを使用する……」
「はー……やっと戻れるのかぁ」
「私はこのままでも問題ないのですがな」
「いや、駄目でしょ。大問題だよ」
スコットとヤリヤモ化した執事はトランスルフェールを構えたヤリヤモの前に立つ。
「では目を瞑ってくれ」
「……」
「……」
「トランスルフェール、発射!」
ギャボォォォォーン!
トランスルフェールからスコット達に眩い赤色の光線が発射され、二人の体を包み込む。
「グワァァーッ!?」
「……」
「ほ、本当にアレで大丈夫なのかよ」
苦しむスコットに微動だにしない執事。対照的な二人の反応を不思議に思いながらデイジーは心配そうに見つめている。
「……よし、もういいぞ」
「お、終わった……?」
「うむ。トランスルフェールによるリカバリー作業は正常に終了した」
「やった! これで元の姿に……あ?」
スコットは自分の声で嫌な予感を覚え、急いで自分の体を確かめる……
「戻ってねぇぇぇぇー!?」
「おや、本当ですな」
「騙したな、お前らぁぁぁー! ブッ殺してやるぅぅぅー!!」
「ま、待て! 落ち着け、スコット!!」
「まぁまぁ、ここは落ち着いて。お気を確かに」
「うわぁぁぁーん!!」
泣きながらヤリヤモ達に突撃しようとしたスコットを執事とデイジーが押さえ込む。
「ま、待て待て! お前の体はちゃんと元に戻る! それには時間がかかるだけだ!」
「じ、時間だとぉぉー!? どのくらいだぁぁぁー!!」
「大体24ハウアーほど……」
「ハウアァー!?」
「変異した全身の体組織を元の状態に戻すのに約一日必要だ!」
「あぁぁぁぁぁぁぁ────ん!?」
スコットは絶叫する。あと一日、このドロシーそっくりの姿のままで居なければならないのだから。
「うわぁぁぁぁぁぁーっ!!」
「落ち着けスコット! たった一日じゃないか! 一日の我慢だよ!!」
「ああ、良かった。あと一日はこの姿で居られるわけですな。お心遣い感謝いたします」
「何で執事さんは嬉しそうなんだよ?!」
「だが、姿が変えられたのは彼らだけではない。街の人々もその装置で元の姿に戻してもらう必要がある」
ニックはそう言ってデモス達を睨む。床の上で頭だけが雑に置かれているという絶妙にシュールな姿だが、その鋭い眼光は彼女達を怯ませるのに十分なものだった。
「……わかっている。この騒動は私が原因だ、私が彼らの姿を戻そう」
「ど、同志!」
「き、危険だ! 下には奴らのような野蛮で凶暴な種族が……!!」
「それに奴らもきっと怒り狂って襲いかかってくるぞ! も、もしそうなったら同志が!!」
「そのくらいの罰は甘んじて受け入れよう。そうしなければみんなが此処に住ませてもらえなくなる」
デモスは既に覚悟を決めていた。
この騒動を引き起こしてしまった自分がそれを終わらせなければならない。
そして迷惑をかけた13番街区の住民達に頭を下げて謝罪しなければならないと。
「……私が悪いのだから」
もしも怒った彼らに殺されてしまうなら……それも仕方がないと。
「ううっ、同志……!」
「む、無茶だ! 殺されてしまうぞ!?」
「そうなったら……!」
「……だが、流石に一人で彼ら全員を戻すのは時間がかかりすぎる。だがら、その……」
今までのデモスなら自分一人の命で済むならそれで構わないと迷わずに行動しただろう。
しかし、今のデモスは違った。
「みんなも一緒に、来てくれると……助かる……」
デモスは半泣きでヤリヤモ達にお願いする。
彼女達の優しさに触れ、自分の存在の重さを知ってしまった彼女にはもう一人で無茶な行動を取るような事は出来なくなってしまっていたのだ。
「わかった!」
「任せろ、同志!」
「みんな、トランスルフェールを用意しろー!」
「休眠状態のヤリヤモも起こせ! 全員で作業するぞ!!」
ヤリヤモ達はそんなデモスの願いを笑顔で快諾した。
キャボォォォーン! キャボォォォーン! キャボォォォーン!!
「うーん、まだまだ頑張ってくれてるねー。偉い偉い」
ビッグバードの外ではこの付近に住む人々のリカバリーを任されたヤリヤモ達が交代交代でトランスルフェールを放っている。
目に悪そうな赤い光に目を細めながらドロシーは紅茶を一口つけた。
「うう、あと一日も……」
「まぁまぁ、一日ぐらい良いんじゃない? 女の子の気持ちで生活してみるのも」
「嫌ですよ! だって社長にそっくりなんですよ!? 耐えられないよ!!」
「何で耐えられないのー?」
「そ、それはその……」
スコットはこちらを見つめるドロシーから目を逸らし、顔を赤くしながらボソボソと何かを呟く。
「ああ、別に気にしないでいいよー。僕に良く似てるだけだしお着替えする時に裸を見ちゃったり、おトイレの時に」
「社長ォォォォ────ッ!!」
しっかりと聞かれてしまった呟きを堂々とドロシーに言われ、スコットは涙目になりながら叫んだ。