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「うぐぐっ……はっ!?」
大事な触覚を引き抜かれて悶絶していたデモスはここでUFOの異常に気付く。
「こ……これはセミ・デモリュコーストフェノメノン!?」
「何だよ、それ!?」
「馬鹿な、どうしてそんな……あああっ!?」
制御パネルに突き刺さったシュバリエの腕を見て彼女は絶叫する。
「も、もう駄目だ……この星が滅んでしまう……!」
「はぁ!?」
「な、何だって!?」
「うううっ、ようやく新天地を見つけたと思ったのに……すまない、同志……! 私達は……ここまでだ!!」
「おい、勝手に絶望すんな! まずはこの船がどうなってるのか説明しろ!!」
「もう終わりだぁ……!」
「説明しろよ!!」
勝手に全てを諦めて蹲るデモスを起き上がらせてスコットは叫ぶ。
「今! 何が! 起こってるの!?」
「……この船はセミ・デモリュコーストフェノメノンに移行した。準星体殲滅形態……この星は滅ぶ」
「何でだよ!?」
「私も知りたい……何故、こんな事に」
「止める方法は!?」
「……無理だ。この船を制御するマザー・タブレットが破壊されている。もう制御は不可能……滅ぶしかない」
「はぁぁぁぁぁぁん!?」
デモスは絶望しながら目を背ける。
「いーや、何とかなりそうだぞ」
だが、デイジーは両目を妖しく光らせながら言った。
「な、何とかなるんですか!?」
「確証はないけどな! 何とかなりそうな気がしただけだ!!」
「確証ないの!?」
「流石はデイジー先輩です」
「な、何をする気だ!?」
「うるせー! 黙って見てろ、宇宙人!!」
デイジーは腕に翡翠色の光を纏わせ、この船の制御パネルであるマザー・タブレットに触れる。
タブレット全体を覆うように光の筋が走り、周囲に浮かんでいたパネルの色が赤から青に変化していく。
「なっ……!?」
「お、何だ。全然、いけるじゃん……何でビビってたんだろ。よしよし、いい子だなー。とりあえずおっかない砲台を全部引っ込めて大人しくしてな」
「ど、どういう事だ! 何故、何故同志でもないお前が破損したマザー・タブレットを操れる!? この船を制御できるのは……!!」
「知らねえよ、そんな事。オレはただこの宇宙船に命令しているだけだ」
「!?」
「女王様としてな」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゥウウン……
ガション、ガション、ガションッ
ギュイイイーン
大袈裟な駆動音を立てながら宇宙船の形状が変化する。
無数の砲台が次々と格納され、13番街区を狙っていた巨大な砲台からも赤い稲妻が消滅。複雑に折りたたまれながら船体へと収まっていった。
「……」
「……」
「いくらデカくても所詮は機械。このデイジー様には素直に従うしかないってな!」
デイジーはくるりと身を翻し、誇らしげに胸を張って笑う。
「すげぇぇぇぇぇぇぇー!?」
あまりにも常識外れなデイジーの異能力にスコットは驚愕し、思わず声を張り上げた。
「そ、そんな力が……君は一体何者だ!?」
「逆にオレが聞きたいよ! 誰だよ、お前!? 何でヘルメットが喋ってんの!!?」
「私はニックだ!」
「素晴らしいですな、デイジー様。貴女のお陰でこの星は救われました、ボーナスは弾みますぞ」
「……」
デモスは信じられないとでも言いたげな顔で沈黙する。
13番街区を映すディスプレイに目を向ければヤリヤモ達は既に沈静化され、とっくに彼女の移住計画が失敗していたという事実を突きつけられる。
「こんな星、来るんじゃなかった」
彼女は目に大粒の涙を浮かべてこんな星に来てしまったことを深く深く後悔した。
「あっ、そうだ! おい、デモス! さっさと俺達の姿を元に戻せ!!」
「……」
「ほら、今更抵抗しても無駄だってわかるだろ!? 諦めて元の姿に戻せ! そうしたらデコピンだけで許してやる!!」
「……一つ、聞かせてくれ」
「?」
デモスは自分に掴みかかる同じ顔を見つめながらか細い声で言う。
「どうして、君たちは争わない? どうして種族が違うのに協力する? どうして能力が違うのに同じ場所に居られる? どうして滅ぼさない??」
「……」
「どうして、顔が違うのに……同志になれるんだ?」
デモスにはわからなかった。
自分の故郷は種族間で起きた戦争が原因で滅びた。
同じ集落に異なる種族が住む事など有り得なかった。
異なる種族同士が協力し共存する事など一度たりとも無かったのだ。
例え手が届く場所に居ようとも、顔と種族が違えばそれは滅ぼすべき対象だと教えられて育った。
「どうして……」
だがこの街に住む異種族達は違う。
顔や種族や能力がまるで異なるのに互いを滅ぼし合わないどころか団結して立ち向かってきた。
彼女の星では起こり得なかった奇跡を、彼らは当たり前のようにやってみせたのだ。
「……買いかぶり過ぎだよ。この星の奴らだって顔が違えば争うし、考えが違えば殺し合う。少しでも変な能力があれば……悪魔だとか言って追い出すよ」
「……?」
「そんな奴らも受け入れるこの街が異常なんだよ」
そう言ってスコットはうんざりするように笑う。
「それでもやっぱりこの街はお前が思っているような良いところじゃない。俺達もお前の言う同志みたいな大それた関係でもないしな」
「なら、何故……」
「別に、たまたまこの街の全員が同じことを考えてただけだ。お前の考えが気に入らないってな」
デモスにはスコットの言葉の意味など殆どわからない。
「……どうして、私の星は滅びた? 私の星と、お前の星はどう違う……?」
「そんなの決まってるだろ。お前の星にはバカしか居なかった……お前含めてな」
「……」
「流石に滅びるまで戦争するようなバカはこの星にも居ねえよ」
だが、彼が伝えたいことだけは痛いほどわかった。
「……あはは、あははははっ……」
「な、何だよ?」
「ははははははっ……はははっ……」
笑うしか無かった。デモスは今まで自分が最も優れており、自分の考えこそが最も正しいと信じて遥かな星の海を渡って来たというのに。
彼女こそがこの星で一番のバカだったのだから。
笑えばいいじゃない!