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「あーもう! 何かヤバイのが出てきた!!」
UFOの船体下部が変形してビル程の大きさの巨大な砲台が出現する。
ゴゥンゴゥンと危なげな音を立てながらエネルギーを充填し、真下の13番街区を砲撃しようとしていた。
「だーっ! もー、くそぅ! やってやるよ! ボーナス弾んで貰うからなぁ!!」
助手席に乗り込んだデイジーは輝く右腕でコンソールに触れて異能力を発動させる。
黒塗りの高級車はガシャガシャと音を立てて複雑に変形し、漆黒の鎧竜の如き姿の鎧尖竜に変貌する。
「コイツの運転は任せるぞ、執事さん!」
「お任せを」
執事は一人でに開いたドアから鎧竜に乗り込み、まるでチャクラムのような形状に変化したハンドルをそっと握る。
「では細かい制御はお任せします」
「ああ、わかってるよ! それじゃあ飛ばせ! あのデッカイ砲台が街を消し飛ばす前にな!!」
老執事はアクセルを踏み込む。
>ヴァルルォォォォォォーン<
鎧竜は咆哮のような猛々しいエンジン音を上げて発進、リアスカートに増設されたブースターを点火して加速しながら飛翔した。
「言っておくけど、失敗してもオレを責めるなよ!? あんなのバカでかいのを操るなんて初めてなんだから!!」
「はっはっ、そこはご心配なく。デイジー様に出来ないなら他の誰にも出来ませんので」
鎧竜はブースターから青い猛炎を吐きながら飛行して超大型UFOまで接近するが……
ヴヴゥウウウウウン……
「な、何だ! 様子が変だぞ!?」
空を揺るがすような不気味な音。
UFOはその巨大な船体を再びガシンガシンと変形させ、至るところから砲台を出現させる。
深い群青色のオーソドックスなUFOから赤みがかった黒い甲虫のような攻撃的な宇宙船へと姿を変え、唸り声のような異音を立てながらウネウネと無数の砲台を蠢かせる。
「……なんだそりゃ」
幾つかの砲門が鎧竜をロックオン。赤いサーチライトを当てて狙いを定め、赤黒いエネルギー砲を発射した。
「デイジー様、しっかり捕まってください」
老執事は素早くシフトレバーを操作して【F.B】の位置に固定する。
その瞬間、鎧竜の全ブーストが作動して凄まじい機動で砲撃を回避した。
「あぁぁぁぁぁあああ!」
「はっはっは、久し振りですな。アーマード君をフル・ブースト状態で運転するのは」
「畜生ー! やっぱり乗るんじゃなかったー!!」
青い炎と光の軌跡を残しながら鎧竜は飛翔する。
急旋回、急停止、急上昇を頻繁に繰り返しながらデタラメな機動で砲撃を回避。
鎧竜の青いヘッドライトの色が徐々に黄金色に変化し、ブースターから噴射される青い炎も金色の粒子に変わっていく。
>ヴォオオオオオオオオオオオン<
ヘッドライトを一際輝かせて咆哮しながら鎧竜は更に加速、正しくドラゴンの如き怪物的な機動力で砲撃を回避しながら宇宙船に肉薄した。
「ま、待て! 執事さん! あの船の周囲に高出力のバリアーが張られてる! このまま突っ込んだら蒸発しちゃうぞ!!」
「おや、困りましたな。それではこのままお空をドライブですか?」
「ば、バリアーの右上に小さな穴が開いてる! ほら、あそこだけ薄くガラスをぶち抜いたようになってるだろ……そこから突入してくれ!!」
「かしこまりました」
ディフェンサーの前で一旦急停止し、間髪入れずに上昇。砲撃を躱しながらある程度距離を取ったところで一回転……
「舌を噛まないようにお気をつけて」
>ヴァルルルルルォオオオオー<
全ブースターを後方に向けて超加速。砲弾の雨を巧みなハンドル捌きで全て回避しながらディフェンサーの穴を通過した。
「うぎぎぎぎっ!」
「どの辺りに車を停めましょうか」
「ど、何処でもいいから早く停めて……な、中身が口から出そうだ……!」
「かしこまりました……おや?」
ここで老執事はスコットが侵入する際に開けた大穴を発見する。
「おやおや、これはまた都合の良い出入り口が」
「うぐぅ……やばい、吐きそう」
「もう少しだけご辛抱を」
鎧竜はブースターを吹かしながら船体に空いた穴に向かう。
「車が通るには少し狭いですな。デイジー様、お願い致します」
「ぐっぐぐぐぐ……! 鎧尖竜、突撃態だ! 装甲を前面に集中させてあの穴をもっと広げてやれぇぇぇー!!」
>ヴァルルルルルルルウッ<
強烈な吐き気を堪えながらデイジーは叫ぶ。
彼の叫びに応じて鎧竜はその姿を大きく変え、機体前面に装甲を撚り合わせて巨大な槍状の衝角を形成。スコットの開けた穴に突っ込み、ガギギギギと押し拡げながら強引に船内へと突入した。
ドガガガガガガガッ!
内部へと侵入した鎧竜は更に幾つかの壁を破壊しながら徐々に失速……
ブシュウウウウウウ……
全身から煙を吹き出し、ついに機能を停止した。
「流石はデイジー様です」
「あ、ありがとうよ……うっ!」
デイジーは顔を青くしながらドアを開けてバタバタと物陰に走る。
微かに聞こえてくる嘔吐の音に耳を背けながら老執事も車を降りた。
「しかしこれはまた凄い乗り物ですな。一度、運転してみたいものです」
「ううっ……」
「おやおや、大丈夫ですか?」
「もう帰りたい……」
「残念ながらもう一仕事お願いしたいのです。この船をどうにかして頂かないと」
フラフラのデイジーに追い打ちをかけるように老執事は言う。
「……畜生、何でこんなところに来ちゃったんだろう……! 本当に、本当に最悪だぁ!!」
「まぁまぁ、そう仰らずに」
「第一、こんなデカブツをどう制御しろって言うんだ!?」
「何処かに船全体を制御するコントロールルームがある筈です。其処ならばデイジー様もこの巨大な船を自在に操れるでしょう。恐らくはスコット様も其処に居られるかと」
「……」
「まぁ、その場に居なくても彼と合流さえ出来ればどうにでもなるでしょうな」
スコットの名前を聞き、後輩にこんな情けない顔は見せられないとデイジーは気合を入れる。
「でも、どうやってアイツの場所に」
「ご安心を。こんな事もあろうかとスコット様の携帯電話に超小型シール発信機を取り付けております。この追跡アプリのSマークが示す場所に向かえば」
「よーし、それじゃあ行くか! 社長にも任されちゃったからな! 頼りないスコットに代わってオレがバシッと決めてやる!!」
「はっはっは、これは頼もしい。では行きましょうか、デイジー先輩」
ふんすと鼻を鳴らすデイジーの可愛らしさに老執事はほっこりと笑う。
二人は動かなくなった車を捨て、スコットが待つメインデッキを目指してSF映画さながらの未来的な船内を歩き出した。
二度寝してしまった時の寝起きほど辛いものはないですよね。物凄く辛いです。