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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.8 「言うのは簡単? やるのはもっと簡単だよ」
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 少し時は遡り、場所はビッグバード店内。


「何か、頭がジンジンします……」


 触覚を引き抜かれたバケットが頭を撫でながら言う。


 あの触覚は交信器と呼ばれるヤリヤモの重要器官の一つで、支配種から発せられた命令を受信する為に必要なものだ。

 この触覚がある限りヤリヤモは支配種であるデモスの命令に服従する。

 距離や場所などは関係なく、あの巨大モニターを通してデモスが目を見開き命令を下した時点で全ヤリヤモが彼女の手足と化すのだ。


「うーん、アンテナが無くなると僕っぽさがかなり薄れちゃうね。普通の女の子みたい」


 チャームポイントでありデモスの命令を受信する触覚(アンテナ)を失ったヤリヤモの前でドロシーはわざとらしく癖毛をピコピコと揺らす。


「女の子じゃねーよ! 男の子だよ!」

「これからどうなさいますか? お嬢様」

「タクロウ君達が操られちゃったって事は、突入したスコッツ君に何かあったってことよね」


 ドロシーは携帯電話を取り出して家に連絡を入れる。


「……あ、もしもし? 僕だよ」

『あら、お嬢様。どうなさいましたの?』

「アルマ先生はまだ家に居る?」

『はい、いらっしゃいますわ。すっかり不貞腐れて可愛らしい子ウサギに成り果ててますけどね』

「大至急、13番街区に連れてきて。集合場所は賑やかになっている所よ……あとデイジーちゃんと出来ればブリちゃんにも連絡を」

『うふふふ、かしこまりました。お嬢様』


 ファミリーに援軍要請をした彼女は笑顔で携帯をコートにしまう。


「タクロー君はアトリちゃんを守っててね」

「言われなくてもそうするよ」

「バケット君達も此処に居なさい。今はあんな見た目だけど、タクロー君はこの世界の誰よりも頼りになるから」

「は、はぁ」

「それじゃ、行くわよ。アーサー」

「かしこまりました、社長」


 バケット達をビッグバードに残してドロシー達は車で発進する。


「……」


 走り去る黒塗りの車をアリシャは複雑な面持ちで見守っていた。



「どのくらいの人数がデモスに変えられてるのかしらね」

「さぁ、ニュースを見る限りでは相当な数が」


 前をヤリヤモ達に塞がれて老執事は急停車する。


「……いらっしゃるようですな」


 その数は十人程。やはり相当数の住人がヤリヤモに変えられてしまっているようだ。


「アーサー、轢いちゃ駄目よ?」


 ドロシーはオートバーグラーS水平連装杖に対人用の術包杖(カートリッジ)を装填し、窓から身を乗り出して左腕で杖を構える。


「良い子だから道を開けなさい。ドロシーお姉ちゃんを困らせないの」


 杖先から放たれる二発の魔法弾。


 弾丸は相手に命中する前に拡散し、今まさに怪光線を放とうとしたヤリヤモ達の触覚だけを見事に撃ち抜いた。


「え、あ……? え?」

「あれ、俺達……あれ?」

「な、何だ? 頭がスースーして」

「はい、アーサー。追っ払って」

「かしこまりました、社長」


 正気に戻ったヤリヤモ達を気つけのクラクションで威嚇し、続けて車を動かしてギリギリ轢かない程度のスピードで迫って驚かせる。


「おわぁあっ!?」

「な、何だよオイ! ビックリするだろ!!」

「うわぁぁ! 危ねぇっ!!」


 たまらず退散していくヤリヤモに手を振りながらドロシー達は大通りに出た。


「うおおおー! 大人しくしろー!」

「この魔女共めぇー! ブッ確保してやぁぁぁる!!」

「くらえ、必殺のパラライズ弾だぁー!」

「グワーッ!」

「ああっ、ジョンソンがやられたー!!」


 大通りから続く広場では管理局職員とヤリヤモ達の壮絶な戦いが繰り広げられていた。


「わー、みんな頑張ってるねー。えらいえらーい」

「こちらとしてはお嬢様方を応援したいところですな」

「駄目よ、アーサー。いくら可愛くてもアレは僕じゃないのよ、中身は13番街区の子たちよ」

「グワーッ!」

「ウワーッ!」

「しかし職員の皆さん押され気味ですな」

「みんな触覚が弱点だって知らないからね」


 ヤリヤモは素早くは無いがそれなりに動ける上に数が多く、更に彼らは操られているだけの民間人である為に管理局が誇る精鋭達も不利な戦いを強いられていた。


「仕方ないね、僕たちも手伝ってあげようか」

「待たせたな、ドリーちゃーん!!」

「お待たせ致しました、お嬢様」


 車を出たドロシーの隣にアルマとデイジーを乗せたマリアのサイドカー付き大型バイクが停車する。


「あーん、ドリーちゃん可愛いー。チューしてや」

「相手は僕以外のドロシー全員ね。身体を傷つけないように頭のアンテナだけを狙って」


 キスを迫るアルマの顔を軽く抑えながらドロシーは冷静に言う。


「アンテナを?」

「うん、引っこ抜くなり切り裂くなり好きにして。今日はマリアも働いてね」

「ふふふ、仕方ありませんわね。緊急事態ですから」

「お、オレが呼ばれた理由は」

「デイジーちゃんが呼ばれた理由は()()よ」


 ドロシーは宙に浮かぶ巨大UFOを指差しながらデイジーに言った。


「はっ?」

「アレを何とかしてほしいの」

「いやいやいやいやいや! 何とか出来ないよ!? あんなデカブツをオレにどうしろっていうの!!?」

「アーサーの車を貸してあげるから、一緒にあのUFOに突入して中から船を操って」

「無理だよぉぉぉぉ!? そんなの無理だからぁぁぁぁー!!」


 冷静な顔で無理難題を仰る社長にデイジーは半泣きで突っかかった。


「そこを何とかしてよー。ボーナスは弾むから」

「無理! 無理無理! 絶対、無理! 100%無理! 不可能! インポッシボー!!」

「デイジーちゃんに無理ならこの世界の誰にも無理よ、翠玉の機械王(エメラルド・クイーン)。自信を持ちなさい」

「その恥ずかしい名前で呼ばないで!?」


 古傷を抉る強烈な二つ名で呼ばれてデイジーは顔を真っ赤にする。


「お、何かゾロゾロと来たぞ! 可愛いのが!!」

「あらあら、本当ですわね。うふふ、一人くらいお持ち帰りしたいですわ」

「駄目よ、僕で我慢しなさい。じゃあ、任せたよー」


 ドロシー達は迫りくるヤリヤモに向かって突撃する。老執事と残されたデイジーは大粒の涙を浮かべながらUFOと車を交互に見つめ……


「ううっ! 今日も厄日だ()!!」

「おや、デイジー様。また少し言葉遣いが可愛らしくなりましたな」

「うるさい、バカァ!!」


 何だかんだで覚悟を決め、バシンと顔を叩いて無理やり気合を注入した。


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