18
「さぁ、どうぞー! 特製たまごサンドです!」
アトリはほっこり笑顔でドロシー達にたまごサンドを振る舞う。
「……」
タクロウはそんな彼女の隣で腕を組みながらドロシーを睨みつけていた。
「じゃあ食べようか。遠慮しないで食べてー、このたまごサンドは絶品よ」
「じゃ、じゃぁ……いただきます」
「いただきます……」
「このお店の料理はどれも美味しいですが、特に卵料理は別格ですぞ」
ドロシー達に囲まれて老執事は幸せそうに笑っている。
タクロウはそんな彼に嫌そうな顔を向けるが、その軽蔑する表情すら執事にはご褒美だった。
「……美味い!」
「美味しいです」
「ふふっ、ありがとうございます」
「でしょー? クロスシング夫婦の愛情が籠もってるからね!」
「何でお前が誇らしげなんだよ、クソヴィッチ」
「友達の美味しい料理を自慢に思うのは当然じゃないの。友達も褒めなくなったら人間としてオシマイよ」
たまごサンドをはぐはぐと頬張りながらドロシーは言う。
「だれが友達だ、クソヴィッチ」
「もー、そんなこと台詞使っちゃ駄目ですよ? お客様の前なのに」
「うっ……わかってるよアトリさん」
「相変わらずアトリ様には頭が上がりませんな、タクロウ様」
「うるせーやい!」
「そういえば今日はスコットさんは一緒じゃないんですね」
ドロシーがお気に入りのスコットを今日は連れていない事を不思議に思う。
「あ、スコッツ君は今ねー、UFOに乗り込んでるところ」
「えっ!?」
「は!? あの中に乗り込んだのか!!?」
「うん、そろそろ僕の偽物をやっつけて解決してくれるんじゃないかな」
ドロシーは包帯が巻かれた右腕を見ながら言う。
「……噂には聞いてましたけど、本当に凄いんですね。ウォルターズ・ストレンジハウスの人は」
「凄いよー、僕のファミリーは。どんなお悩みでも解決しちゃうからね!」
「ど、どんな悩みでも?」
「そう、どんな悩みでも相談に乗るわ。特に異人の子ならサービスしちゃうよ?」
バケットはドロシーの言葉に食いつく。
「そいつの言葉を真に受けるなよ。破滅するぞ」
だがタクロウはバケットの肩を叩き、真剣な顔で言い放った。
「ちょっとー、なんてこと言うのよ!」
「は、破滅?」
「事実だろうが!」
「そんなことないわよ! ちゃんと悩みは聞いてあげるし、トラブルも解決するわ!!」
「……」
「おや、どうかなさいましたか?」
「えっ、いえ……何でもないです」
妙にそわそわしているアリシャに老執事が声をかける。
「むむっ? 何か悩み事かしら?」
「そ、そういう訳じゃないんです。ただ……本当に元の姿に戻っちゃうのかなって」
アリシャは窓に映る自分を見つめ、消え入るようなか細い声で言った。
「う、うぐっ!」
「もう一度言うぞ? 元の姿に戻せ」
場所は変わって巨大UFO内部。デモスの体を締め上げながらスコットは脅しかける。
「き、君はそんなに争いを続けたいのか? その姿ならば……」
ギリギリギリ……
「うぐぅっ!!」
「お前の話なら後でいくらでも聞いてやる。だが、その前にこの体を元に戻してくれないか?」
「ううっ……!」
「せっかくいい星を見つけたのに死にたくないだろ?」
スコットは少しずつ悪魔の腕に力を込めていく。
デモスを殺す気はないが、話が通じないなら骨の一本や二本はへし折って気絶させるつもりだ。
「お前は頭がいいんだろ? ならこの腕でお前を握りつぶすのがどれだけ簡単なことか……わかるよな?」
「うっ、うっ! あううっ!!」
「はぁ、そうかよ。じゃあ仕方ない……あまり乱暴な事はしたくなかったが」
「……その手を、」
デモスは首をブンブンと勢いよく振って眼鏡をズラす。そして瞳を大きく見開き……
「その手を放せ、我が種を宿したモンストロよ」
スコットに命じた。その手を放せと。
途端に悪魔の腕は彼女を解放し、逆にスコットの方に拳を向ける。
「がはっ、かはっ! ふーっ! ふーっ!」
「!?」
「ス、スコット君! 何故、奴を放した!?」
デモスを逃がすつもりなど無かったスコットは動揺する。
しかも悪魔の腕はこちらに向いており、ペキペキと不気味に指を鳴らしている。
「……私も、乱暴な真似はしたくなかった。同じ顔をした相手にだけはな」
「な、何だ! 何をした!?」
「だが、仕方がない」
デモスは大きな瞳をきゅうっと細め、口元を僅かに裂かせて不気味に笑う。
「君には少し大人しくなってもらおう……自らの腕に打たれて眠れ」
悪魔の腕は宿主である筈のスコットに向かって拳を振るう。
「スコット君! 危ないっ!!」
「うがあっ!」
悪魔の拳をまともに受け、スコットは大きく吹き飛ばされる。
そのまま閉じたメインデッキの扉に勢いよく叩きつけられて激しく吐血した。
「がふっ……!!」
「スコットくーん!」
「ああ、気分が悪い。こんなことに能力など使いたくないのに……」
「貴様、スコット君に何をした! 何故、彼の腕が……!!」
「何をしただと? 長として命令しただけだ。乱暴を働いた同族にな」
「な、何……!?」
「ふふふ、そんなに驚くことでもないだろう?」
デモスはズレた眼鏡を戻し、ニックに向かって不敵に笑いかける。
「種を宿した彼はもう私の同族であり、そして私のエスクラヴだ。エスクラヴは長であるデモスの命令には逆らえない」
「……!!」
「勿論、彼らもな」
彼女はディスプレイに映る13番街区民を指し示す。
ニックは目を見開いて絶句し、想像を遥かに越えていたデモスの能力に戦慄した。
「さて、これで当面の脅威は去ったな。そろそろ下の彼らにも働いてもらう事にしよう」
「待て! 彼らに何をさせるつもりだ!?」
「安心しろ、君達のように乱暴な真似はさせない。私はこの星に攻め込みに来た訳ではないのだからな」
メインデッキにある制御盤を操作して13番街区上空に再び巨大なモニターを出現させる。
「もっと仲間を増やしてもらうだけだ」
デモスはそう言いながら13番街区の可愛い奴隷達を見下ろした。