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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.8 「言うのは簡単? やるのはもっと簡単だよ」
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16

「畜生ー! 俺の身体を元に戻せぇー!!」


 スコットは涙に濡れた顔で立ち上がり、悪魔の腕を呼び出してデモスを捕獲する。


「何故?」

「何故じゃないよ! 元の姿が一番に決まってるだろ! 第一、社長に似ていて気持ち悪いんだよ!!」

「シャチョウ? 何者だそれは。君が カワイイカワイイ と言っていた相手のことか?」

「ぐふぅ!!」


 デモスの言葉が突き刺さり、スコットは喀血して倒れ込む。

 悪魔の腕も思わずデモスを解放してスコットの介抱に回った。


「スコットくん!」

「おふっ、おふっ……!!」

「……言葉だけでそこまでダメージを受ける種族など見たことないぞ」

「う、うるさい! とにかく元に戻せ!!」

「その必要はないだろう。今の身体の方が前の身体よりも高性能で快適だぞ?」


 デモスはそう言って指令席に腰掛ける。


「高性能とか快適とか関係ないんだよ! 元の姿が一番なんだ、さっさと戻してくれ!」

「だが元の姿に戻すと争いが始まってしまうんじゃないのか?」

「!?」

「姿が違うから争いが生まれる。君も姿が違うというだけで虐げられた別種族を見てきただろう?」


 デモスの言葉が再びスコットに突き刺さる。


「スコット君! 奴の言葉に耳を貸すな!!」

「そ、そんな事は……」

「私の故郷ではそうだった。君の星では違うと言うのなら謝罪しよう」

「……!」

「反応を見る限り図星のようだな」

「うるさい!」


 スコットは再び悪魔の腕をデモスに向ける。


「お前には関係ないだろ! 住むところに困ってるなら『一緒に住ませてください』と言えば良かったんだ! 今みたいに余計なことしなかったら13番街区のみんなもお前を受け入れたさ!!」

「とてもそうは思えないな」


 デモスはスコット見つめながら溜息混じりに言う。


「彼らは私の顔を見た途端に攻撃を始めたぞ? 話すらまともに聞いてくれなかった」

「そ、それはお前が皆の姿を勝手に変えるから!!」

「いいや、ただ挨拶をしただけで攻撃された」


 彼女の言葉を聞いてスコットは沈黙する。


「最初は言葉が上手く伝わっていないのかと思ったが、どうやら違ったらしい。彼はただ私の顔を見ただけで怒り狂って物を投げつけてきた。何とか説得を試みようとしたが無駄だった。彼はひたすら私を罵倒し、話すらまともに聞いてくれない有様だった」

「……」

「まぁ、きっとその男がおかしかったのだろうと思いその場を後にしたんだが……誰に声をかけても同じだった」


 デモスの話を聞く内にスコットは遣る瀬無い気持ちになっていく。


 13番街区の住民はドロシーに良い印象を持っていない。そんな場所にドロシーそっくりのデモスが現れればどうなるか……


「それで確信した、私達の考えは正しかったと」


 彼女は満足げでありながらも、何処か期待を裏切られたような複雑な笑みを浮かべる。


「彼らの反応を見るに、私は君の言うシャチョウという大罪人に似ていたから攻撃されたのだろう。話すら聞いてくれない有様だ、よっぽど嫌われていたに違いない。シャチョウとは別人の私まで攻撃する程に」

「……」

「わかってくれないなら、()()()()()()()()()()()()()?」


 ディスプレイに映る13番街区の人々を指差しながらデモスは言った。


「……!」

「私が別の姿なら彼らは受け入れただろうか? では、その姿が別の罪人と同じだったなら?」

「そ、それは」

「もし最初に出会ったのが君だったなら、君は私を受け入れてくれたか? 君が受け入れてくれれば他の皆も私を攻撃しなかったとでも?」

「……」

「勘違いしないでほしい。私は君達を責めているわけでもないし、むしろ感謝しているよ。()()()()()()()()()()()()()()


 デモスは席を立ち、ゆっくりとした歩調でスコットに近づく。


「自分と同じ顔が一番。同じ考えが一番。同じ種族が一番だと……遠い星でも思い知らさせてくれたからね」


 デモスが社長と同じ顔で言った強烈な皮肉に、スコットは返す言葉が無かった。


「ふざけるな! だからといって彼らの姿を変えていい理由になるものか! 彼らが気に入らなかったならこの世界を離れれば良かったのだ!!」


 彼女の言葉にニックは真っ向から反論する。


「惑わされるなよ、スコット君! ヤツの言葉が全て真実であるという保証などない! 敵の言葉に飲み込まれるな!!」

「……」

「ごもっともな意見だが、私は嘘はつかない。今話した言葉は紛れもない真実だし、私は君達と敵対したつもりもない」

「あの鎧騎士達はどう説明する気だ! 明らかに私達を殺しに来ていたぞ!?」

「私達の船を攻撃したのはどう説明する気だ? ディフェンサーを破壊し、船に穴を開けたのは? まさか話をしにきただけだとでも? もし逆の立場だったなら、君はアレを友好的な挨拶だと思えるか?」

「うっ!」


 デモスの鋭い指摘がニックに炸裂する。


「だが、あれは!」

「ああ、ディフェンサーを張らなければ良かったのか。でもそうすればあのシャチョウに船を撃墜されていたな。真下に居る大勢の命も巻き添えになっただろう」

「……」

「さて、私の言いたいことは言ってしまった。君の意見を聞こうか」


 デモスはスコットの前で腕を組み、彼の意見を待つ。


「……ああ、畜生。気に入らない」

「困ったな、じゃあ私はどうすれば良かったのだろうか。この星に来なければ良かったとか……そうだな。本当に素敵な星だったからつい寄ってしまったんだ、すまなかった。まさか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「はっはっ、くそっ。本当にもー……」


 スコットは乾いた笑いを上げて立ち上がり、デモスの顔をジッと睨む。


「俺でもアンタと同じ目に遭わされたらそうするよ。悔しいけど、俺にはアンタを非難する資格はねえや」

「スコット君!」

「わかってくれたか。良かった……ならば」

「……()()()()()()()()、やっぱり気に入らないよ。社長にそっくりなのに、あの人とは別人だ」

「え?」

「まぁ、当然なんだけどな。本当におかしいのは社長の方なんだよ……」


 悪魔は手首をポキポキと鳴らす。スコットはデモスの主張を素直に受け止めたが


「でもあの人は()()()()()笑って許したさ。あははと笑いながら『ごめんね』ってな。そして変装して皆に溶け込む……皆を怖がらせないように」

「っ!?」

「自分がどれだけ嫌われようと、どれだけ傷つこうとも皆を傷つけない……それが社長なんだ」


 彼女とドロシーの決定的な相違を見て迷いを振り払い、悪魔の大きな腕でデモスを拘束した。


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