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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.8 「言うのは簡単? やるのはもっと簡単だよ」
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15

『フハハハハハーッ!』


 ニックは目を輝かせながらハイテンションに突っ走る。


「うぐっ、き、気持ち悪い……意識が」


 一方、スコットは身体の自由が奪われた上に意識が朦朧としていた。


『もう少しでデモスの場所に着くぞ、スコットくーん!』

「……」

『奴は一人だ! 仲間らしき反応もない! ビシッと決めてくれ!』

「……」

『何なら私が説得してあげてもいいが、どうするー!? フハハハハー!!』


 自由に動かせる身体を手に入れた事にニックは興奮し、感動のあまり浮かれていた。


 この街に来て僅か数時間で首だけにされ、黒スーツの変態男に弄ばれる日々。

 首だけの生活。そしてある日ようやく自由が与えられたと思えば、鏡に映るのはかつての面影のない異形……彼は絶望のあまり『いっそあのまま死んでおけば良かった』と神を呪った。


『さぁ、もう目の前だぞ! 気合を入れろぉー!!』

「……」

『行くぞ、スコットくぅーん!!』


 だが、今は違う。


 再び首だけになっても自分を人間として扱ってくれる人々、そして自分を抱き枕かなにかのように扱う金髪の魔女との出会いを経て彼はようやく気付いた。


『フハハハハハハハァー!!』


 自由に動けるだけで幸せ────、その当たり前の奇跡に。


『ふぅん! こんな扉、この唸る拳で粉砕してやるっ! 行くぞ、スコットくん!!』

「……」

『砕けろぉぉぉーっ!!』


 デモスの待つメインデッキの扉を長距離助走つきパンチで粉砕せんとした時、扉はブシューと音を立てて一人でに開いた。


『ぬうっ!?』


 いきなり扉が開いて有り余る勢いを押し殺せなかったニックはそのまま拳を振り抜き、デモスの前で体勢を崩して情けなくゴロゴロと横転した。


『ぐわああああっ!』

「……」

『くっ、小癪な真似を! 何のつもりだ!?』

「いや、扉を開けてやっただけだが」

『……お前がデモスか!』

「ああ、そうだ。ようこそ、遠い星の民よ」


 デモスは司令席に深く腰掛けて腕を組み、ここまで辿り着いた侵入者を無機質な笑顔で迎えた。


『スコットくん! デモスの所まで来たぞ!』

「……」

『おい、しっかりしろ! 君の出番だ!!』

「えっ、あっ……あ。おはよう御座います、社長」


 意識混濁したスコットはデモスをドロシーと見間違って軽く頭を下げた。


「……?」

『違うぞ、スコットくん! あれはドロシーではない!!』

「えー? どう見ても社長ですよ……あの可愛い顔は間違いありませんって」

「可愛い?」

『何を言っているんだ!?』


 攻め込んできた見知らぬ侵入者に可愛いと言われてデモスは呆気に取られる。


「こんなところで何してるんですか、社長ー。バカなことしてないで帰りますよー」

『しっかりしろ、スコットくん! まさか、私を装着したせいで意識が消えつつあるのか!?』

「な、何だお前は。私を誰かと勘違いしてないか? 私の名前はデモス。ヤリヤモ・ナ・デモ」

「んー? 何を言ってるんですか、社長ー」

『おい、スコットくん! 目を覚ませ! 奴は敵だぞ!?』


 スコットはへろへろな千鳥足でデモスに近づく。


「わ、私はデモスだぞ! この船の制御と他のヤリヤモの主導権はこの私が握っている! それ以上、怪しい動きをすれば……!!」


 どう見ても普通の状態ではない侵入者にデモスは身構えるが……


「こんなに可愛くてムカつく顔してる子が社長以外に誰がいるんですかー、はははー」

「!?」

「あー、顔だけは本当に可愛いですねー」


 彼女の頭をポンポンと叩き『可愛い可愛い』と連呼する。


 既に意識が消えかけている彼にはドロシーとデモスの区別がついておらず、理性という安全装置も作動していないので()()()()()()()()()()()()()ようになっていた。


『何をしているんだ!?』

「何って頭撫でてますー。一回、やってみたかったんですよねー、あははー」

「や、やめろぉ! 馴れ馴れしく頭を撫でるな! 別種族めー!!」


 デモスは顔を赤くしてスコットを突き放す。


「な、何するんですか。社長?」

『いい加減に目を覚ませ! 奴はデモスだ! ドロシーに似ているだけの別人』

「不用意に私に近づいたのがお前の敗因だ! くらえーっ!!」


 ギャバァァァァァーン!


 ドロシーよりも長い頭頂部の触覚から青い怪光線を放つ。

 ニックの回避も間に合わずに怪光線がスコットの身体に直撃……


『ぬわぁぁぁぁぁっ!?』

「あばぁぁぁぁぁーっ!!」


 ガッチリとスコットの頭部に固定されていた筈のニックが落下する。

 そのままゴロゴロと冷たい床を転がり、丁度スコットの全身を確認できる向きで止まった。


『は、外れた!?』

「うぐぐ……何だよ、いきなり」

「ス、スコット君……!?」

「あっ、ニックさん? あれ、やっと外せた……?」

「その姿は……!!」


 ニックから開放されて正気に戻ったのも束の間、スコットは自分の異変に気付く。


「……やれやれ、たった一人でシュバリエを退けたからどんな恐ろしいモンストロ(化け物)かと思えば」

「え、この声……マジ? マジで!? 嘘だろ!!?」

「ああ、何てことだ! スコット君までもが!!」

「何てことはない。ただ力があるだけのナール(まぬけ)だったな」


 ニックの瞳に映る()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ちょっとぉおおおー! 何やられてるんですか、ニックさぁぁぁーん! 俺が気を失っている間に何があったんだよぉおお!?」

「どうして私が怒られるんだよ! 不用意に奴に近づいたのは君だぞ!? アレをドロシーだと間違えて可愛い可愛いって!!」

「嘘だ、そんな事ぉぉぉー!」

「頭までナデナデしてたよ! 正直、気持ちが悪かった!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!!」


 わたわたと慌てふためき、滝のような汗をかきながら涙を浮かべる彼女こそ……大見得を切って単身デモスの宇宙船へと乗り込んだスコット・オーランドの変わり果てた姿である。


「何してくれるんだ、お前ーっ!」

「私からも聞かせてほしい。何をしに来たんだ、君は?」

「ううっ!?」

「あんなナールな行動を取る侵入者に倒されたシュバリエが哀れでならない。まずはシュバリエ達に謝ってくれないかな? あと私にも」

「くそったれぇぇぇー!!」


 スコットはその場で頭を抱えて蹲る。


 社長とそっくりな姿にされただけでなく、社長のそっくりさんに鼻で笑われながらご尤もな指摘をされて彼の繊細なハートは深く傷ついた……。


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