13
「おらぁっ!」
正面から切りかかってきたシュバリエをスコットは叩き潰す。
グシャッと音を立ててめり込んだ仲間を踏み台にして次のシュバリエは跳躍。続くもう一体が鋭い突きを繰り出す。
「おい、次が来るぞ!」
「見えてますよぉ!!」
頭上から襲いかかるものと突きを放ったものを悪魔の腕で拘束。
「うぉらぁぁっ!!」
そのまま二体を激しくぶつけ合わせ、常識外のパワーで押しつぶしながら一つに纏めて投げつける。
ボウリングのように後方のシュバリエ達はなぎ倒される。
それでも全てを倒すには至らず、攻撃を回避した数体がスコットに襲いかかった。
「うりゃぁぁぁぁっ!!」
悪魔の腕は迫りくるシュバリエに向けて渾身の力を込めた右ストレートを放つ。
────ボッ!
振り抜かれた拳の拳圧だけでシュバリエは吹き飛ぶ。
拳に触れたものは木っ端微塵に粉砕され、その破片が散弾のように仲間の身体を貫通し、直接拳に触れていないものまで無力化。瞬く間にシュバリエ達を沈黙させた。
「はっ、やりすぎたかな」
「……」
「ちょっと引かないでくださいよ? このパンチでもノーダメージだったのがニックさんですからね!? アンタの方が凄いから!!」
「いや、まぁ……うむ。凄かったのはあの鎧だが」
仲間を倒されてもシュバリエは意に介さずに剣を構える。
仲間の亡骸を踏み越え、カシャカシャと無機質で冷たい足音を立ててスコット達に近づく。
「……奴らには恐怖や焦りといった感情がないのか」
「そうらしいですね」
「こういう手合いは嫌いだ。最悪の戦いを思い出す……死体を操る四天王と戦った時だ」
「……ニックさんも苦労してるんですね」
「勇者だって中身は唯の人間さ」
シュバリエ達が一斉に斬りかかる。
一切の感情を感じさせない正確で機械的な動きと、全てが同一人物であるかのような完璧なフォーメーション。
唯の侵入者であれば為す術もなく八つ裂きにされただろう。
「でも、襲ってきたのは相手の方ですから……」
だが、彼は違った。
正確な動きも、完璧な連携も、数の暴力も関係なく、その全てが唸る拳の一撃で粉砕される。
誰一人としてその拳に耐えられる者が居ないのだ。
「同情するのは間違いですよ。殺しにかかってくる相手は! 殺してやるのが、礼儀ってやつです!!」
スコットはシュバリエ達を悪魔の腕で次々と殴り飛ばしながら言う。
「……そうだね」
活き活きとした笑顔でそんな物騒な台詞を吐くスコットにニックは内心ドン引きしていた。
「もうすぐ13番街区です……けど」
13番街区に向かっていた管理局ヘリの操縦士が滝汗をかきながら言う。
「……さて、どうしようかね」
「どうするんですか、あんなの」
「オナカイタイ……」
「この中に宇宙語マスターしてるやつは居るか?」
「いません!」
「じゃあ、知り合いに宇宙人が居るやつは」
「いません!!」
やっぱりメンバーに組み込まれてしまったジェイムスが超巨大UFOを見つめながらメンバーと会話する。
「ていうか、さっきあの中に何かが突っ込んでましたよね!?」
「じゃあ俺達も見習って突入するか」
「イヤダー! シニタクナーイ!!」
「ま、一先ずは13番街区に降りるか……ん?」
ジェイムスがふと下を見ると道路脇に停車する黒塗りの車があった。
「……まぁ、アイツも来てるよね」
「? どうかしましたか?」
「ううん、何でもない」
ジェイムスはそっと支給された精神安定剤を口に放り込み、そのままバリバリと噛み砕く。
「ちょ、先輩! 飲みすぎですよ!?」
「うーん、効くぅー! じゃあ、操縦士よ! ヘリを降ろせ! 13番街区に殴り込むぞ!!」
「えっ、あっ……はい!」
「どいつも例の魔女に見えるが中身は民間人だからな! 極力傷付けるなよ! 襲いかかってきたら一発まで誤射を許す!!」
「アッハイ!」
「後ろのヘリにも伝えとけ! 誤射は一人一発までだ!!」
「わー、管理局のヘリコプターだ。凄い数ね」
駆け付けた管理局ヘリ部隊を地上からボケーと眺めながらドロシーは呟く。
「何しに来たのかしらね」
「さぁ、宇宙人とコンタクトでも取りに来たのでは無いですかな?」
「うーん、でもスコッツ君が乗り込んじゃったしね」
ドロシーはどこか浮かない顔で包帯を巻かれた右腕をそっと撫でる。
「……そんなに変だったかな、僕は」
「さぁ、私には何とも」
「正直に言いなさい、アーサー」
「はい。少し様子が変でございました」
老執事にもそう言われてドロシーは少しムッとしたが、ふんすと小さく鼻を鳴らして気を取り直す。
「これからどうなさいますか?」
「13番街区は管理局に任せるとして、僕たちはスコッツ君を待ちましょうか」
「かしこまりました」
「あ、でもちょっとお腹空いてきちゃった。たっくんのお店に行こうかなー……」
「すぐ近くですな。折角なのでそこで昼食に致しますか?」
「うーん、どうしようかな。二人はどうー?」
ドロシーは車のドアを開けてバケット達に聞く。
「うおっ!?」
「はわっ!」
「あ、喋れるようになったのね。良かった良かった」
「え、あ! 本当だ!」
「あ、いつの間に……」
「二人共お腹空いてない? 近くに良いお店があるんだけどー」
「しょ、食欲ないです。それにこの顔じゃ……」
「大丈夫、大丈夫ー。そのお店のオーナーは僕の友達だから」
ぐきゅるるる……
「……」
「……」
車の中から聞こえてきたお腹の鳴る音にニコッと笑ってドアを閉める。
「アーサー、目的地はビッグバードね」
「かしこまりました、お嬢様」
「社長」
「申し訳ございません、社長」
アーサーはお腹を空かせたドロシー達を乗せてビッグバードに向かう。
「あ……」
「どうかなさいましたか?」
「……あのままUFOを落としちゃったら、タクロー君のお店にも行けなかったね」
「そうですな」
「……あはは」
ここでようやく自分の行動の愚かさと軽薄さに気付き、ドロシーは力なく笑った。




