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毎回相手が最悪なだけでスコット君の攻撃力はチートを軽く越えています。攻撃力はね!
「……凄ェ」
UFOの真下。金色の壁を粉砕するスコットの姿を呆然と見上げていたドロシー顔の誰かが呟いた。
「……悪魔って、本当に居たんだな」
ハッとした彼(女)は思わず口を押さえる。
「しゃ、喋れるぞ!?」
「ほ、本当だ!」
「ああ畜生、何だよこの声! やたら可愛いのが何か嫌だ!!」
「本当に顔と声だけは可愛いのよね! ムカつくぅ!!」
先程まで出せなかった筈の声が急に出せるようになったドロシー改め、半ヤリヤモ達はざわめき立つ。
「で、でも聞いたか!? アイツら仲間がもっと増えるって……」
「この街を侵略する気だぞ! どうする!?」
「ど、どうするったって……こういう時こそ異常管理局の出番だろ! アイツら何してんだよ!!」
「無理だよ、アイツらがこの13番街区に来るわけないって……!」
「ていうかあの空飛ぶ悪魔は何だよ! あんなの見たことねーぞ!?」
ざわめく住民達の声は上空のスコットにも届いていた。
「あれ、みんな喋れるようになってますね」
「そのようだな。どうやらデモスも彼等に構っていられなくなったらしい」
「なるほど、焦ってるってことですね。好都合だ!」
スコットはディフェンサーの穴を通り抜けてUFOに接近する。
遠目に見ても巨大だったそのUFOは更に大きく見え、まるでひとつの街が空を飛んでいるかのようだった。
「よし、任せろ。今から私が出入り口を」
「そんなの探す必要ないですよっ!!」
悪魔の羽を羽ばたかせてスコットは加速し、巨大なUFOに急接近。悪魔の羽はスコットの身体を包み込み、まるで青い突撃槍のような形状に変化……
「お、おいっ!」
「これから作りますから!!」
光る幾何学模様がビッシリと刻まれた表面を貫通してそのまま内部に侵入した。
>ヴェーッ! ヴェーッ! ヴェーッ!!<
「侵入ーっ! 侵入ーっ! 攻撃的な別種族が船内に侵入したーっ!!」
「ふわぁああ!!」
「馬鹿な! ディフェンサーを突破しただけでなく……この船の壁を貫いただと!?」
「何なんだ、奴は!?」
「うぐぐぐっ!」
内部に非常事態を知らせる青いランプと警告音が鳴り響く。
ヤリヤモ達は慌てふためき、少し前までの13番街区民のようにきゃあきゃあと走り回る。
「落ち着け、同志! シュバリエを出せ! 侵入者を排除させろ!!」
「シュ、シュバリエを船内で!? 正気か、同志!!?」
「接近戦仕様のシュバリエなら問題ない! 多少、船に損害が出るかも知れないがここに奴が辿り着いたらそれこそお終いだ!!」
「りょ、了解! シュラーフ状態のシュバリエに覚醒ボンヴォを投与! 侵入者にぶつける!!」
「装備は全個体接近戦仕様だ! 間違えるんじゃないぞ!!」
ヤリヤモの一体がパネルを操作してシュバリエと呼ばれる護衛用の戦闘生物を覚醒させる。
「……も、もしシュバリエが負ければ」
「シュバリエが負けることは有り得ない! アレは先代支配種が生み出した最強のレギオンだ! アストラル値も奴を上回っている!!」
「そ、そうだな! うん……!!」
スコットの反応を見ていたヤリヤモの一体は浮かない表情をしていた。
シュバリエ一体のアストラル値は35000、現在のスコットは5000。その数もアストラル値もこちらが大きく上回っている。
「み、見間違いだな」
「どうした?」
「いや、何でもない。目にゴミが……」
だが彼女は見逃さなかった。ディフェンサーを破壊する瞬間、そしてこの船の壁を貫いた瞬間だけスコットの反応が999999まで上昇していた事を……
「うーん、やっぱりこの悪魔ヤバいよなぁ……」
「……君を相手にした私のボディが不憫でならないよ」
「ははは、ノーダメージでしたけどね」
青い悪魔の力に改めて戦慄しながら二人は広い船内を歩いていた。
「いやぁ……でも、凄いなぁコレ」
広さ的に船の中というよりは見知らぬ街を散歩しているような感覚で、小さい頃に見たSF映画の世界そのままの超未来的な構造体を眺める内にスコットは段々テンションが上がってきていた。
「いやはや、これが空を飛んでいるんだからね。ひたすら驚かされるばかりだ」
「ここだとニックさんが置いてあっても違和感全くないですね」
「はっはっは、やめてくれ」
「でも俺は探検しに来たんじゃなくて、中の人と話を」
「む? ちょっとここで立ち止まってくれ。前方に人影らしきものが……」
ガシャンッ。
スコット達の前にスマートで女性的な鎧を着た背の高い異星人が現れる。
「……案内人ですかね?」
「……いや、違うなコレは」
ガシャンッ
「……ニックさん、何人居ますか?」
「……沢山だ」
ガシャンッ……
最初の一体に続いて同じ姿をした異星人が何人も現れる。
胴体と比較して手足が長く、まるでモデルのように洗練されたスタイルに表情が読めない無機質で先鋭的な兜。
グローブの先端は爪のように鋭く尖り、軽く引っかかれただけでも容易く肉を引き裂かれそうだ。
「どうやらデモスは私達に此処で死んでもらいたいようだな」
スコット達を出迎えた鎧姿の異星人がシュバリエ。デモスの護衛及び敵性種族殲滅用の戦闘生物だ。
「……」
先頭に立つシュバリエは無言で両腕を鋭い剣に変形させる。
「はっ、社長みたいな顔しておっかないのを沢山従えてますね」
シュバリエは目にも留まらぬ速さでスコットの背後に回り、彼の首筋目掛けて斬りかかる。
「おらぁっ!」
だが、それ以上に素早い悪魔の裏拳を顔面に受けて呆気なく崩れ落ちた。
「……」
「うん、これは……」
スコットの片目に青い光が灯り、背中から二本目の悪魔の腕が生える。
「期待はずれかな?」
再び戦闘態勢に入った悪魔はシュバリエ達に向かって啖呵を切り、大きな手で煽るようにチョイチョイと手招きした。
悪魔の挑発を宣戦布告と判断し、シュバリエ達が一斉に腕を剣に変える。
ぼんやりと薄暗い船内に灯る青いランプ、鳴り響く警告音。青く煌めく剣先を此方に向けるシュバリエにスコットは不敵に笑いかける。
「来いよ、お嬢さん達。今の俺は凄く機嫌が良いんだ……だから手加減なしでぶっ潰してやるよ」
そして突き刺すような無数の殺意に高揚する本性を隠しきれずに言い放った。
「……機嫌が良いのに手加減しないんだな」
「……ちょっと黙っててくださいよ。折角、自分なりに頑張ってカッコつけてみたのに!」
「あ、すまない……ゴホンッ。えーと、やり直すかい?」
「うるせぇよ! クソッタレェー!!」
だがその挑発的な笑顔は数秒も持たず、顔を真っ赤にしながら迫りくるシュバリエに突撃した。