9
「自己紹介はこのくらいでいいかな」
「素晴らしいと思うぞ、同志」
「流石だ、同志」
「彼等もきっと喜んでくれているだろう、同志」
UFOの中でデモスは同志達に褒められながらホッと一息つき、長い触覚をふよふよと揺らす。
「とりあえずこのウィクスコの上空に船を固定しようか。フィク錨を降ろしてくれ」
「了解だ、同志」
彼女達はヤリヤモと呼ばれるデモスと同族の異星人。デモスがかけている支配種の証であるメガネ型のアクセサリーを除き、全員が彼女と同じ姿をしている。
「さて、この星の支配種は誰だろうか。見たところかなりの数のネイシラントがあるようだが、それでも一番力を持った者がいるはずだろう」
ヤリヤモは支配種となった個体と同じ姿になり、その思考まで支配種に大きく影響される。
その為、支配種と言ってもデモスが彼女達に直接命令することはあまりない。
全員がデモスと同一人物であり、種族全体が彼女の分身のようなものだからだ。
同志という言葉がここまでストレートな意味で使われる種族はそうそう居ないだろう。
「同志、この星にも私達と同じような電波コミュニティを扱う技術があるようだ」
「ほほう」
「呼び方はわからないが、私達のトワルラテーラに通じる情報連絡システムらしきものがある。それもこの星全体を張り巡らせている程に広大だ」
「それは良かった。では早速……」
ドゴオオオオオオオオオオン!!
「ほわっ!?」
デモスがこの星の情報連絡システムであるインターネットなるものに接続しようとした時、彼女達の船が轟音と共に激しく揺れた。
「な、何だ!?」
「同志! 船が何者かに攻撃を受けている!!」
「船体に損傷発生! エアレイド調整装置に軽度の不具合が……!!」
「なにぃ!?」
いきなり何者かの攻撃を受け、デモス達は目を見開いて驚愕した。
「うーん、久々に使ったけど凄い威力ー」
「……命中。お見事です、お嬢様」
「……マジで届くんですか、この距離で」
ドロシーは青い悪魔を呼び出したスコットに背中を支えられながら、赤い硝煙を燻ぶらせる魔法杖を構えていた。
「でも本当はこの杖で使うような魔法じゃないからねー、僕一人じゃ反動を抑えきれないのよね」
赤い煙を吐く杖から焼き切れた術包杖を排莢し、ドロシーは再び先程の赤い術包杖をリロードする。
「腕は大丈夫なんですか!?」
「うん、大丈夫。この腕でもあと四発は撃てるよ」
「いや、それ本当に大丈夫なんですか! 四発撃ったらどうなるんです!?」
再び狙いを定めてドロシーは杖に魔力を込める。
杖先に二重の赤い魔法陣が発生し、赤く発光する蛍のような粒子が杖先に収束していく……
「うーん、折れちゃうかな。多分」
そう言って二発目の魔法を放った。
彼女の腕は大きく跳ね上がり、悪魔の腕を支えにしているスコットすら道路を削りながら後ろに下がる程の強烈な反動。杖先から放たれた魔法は赤い稲妻のような尾を引きなから真っ直ぐと超大型UFOに向かい……
────ゴォォォォォォォン!!
大気を揺るがす程の大爆発を起こし、数百mはあろうかというUFOを大きく傾かせた。
「あははー、強烈ぅー! 腕が飛んじゃいそうー!!」
「しゃ、社長! 大丈夫ですか!? 腕が!!」
「大丈夫よ、大丈夫。あと三発は撃てるから」
「そうじゃなくて!」
スコットは薄く変色し、血が滲んでいるドロシーの手を掴む。
「見てくださいよ、ヤバい色してますよ!?」
「そうね。でも、まだ使えるよ」
ドロシーは魔法の反動で自分の腕が傷ついているのにまるで意に介さない。
笑顔で術包杖を排莢し、コートから新しい杖を取り出す。
「……!!」
「スコッツ君、手を放して。リロードできないから」
「ま、まだ撃つ気ですか!?」
「言ったでしょ? あと三発は撃てるって」
不意に力を緩めたスコットの手を振り払い、彼女は杖をリロードする。
そして先程と同じように狙いを定めた。
「じゃあ、しっかり支えててね? 君がいないと僕、空を飛んじゃうから」
「社長……!」
「心配しないで。ちゃんとアイツを撃ち落とすわ」
ドロシーは自分の心配をしていない。
傷ついた腕には見向きもせず、その瞳はただデモスのUFOを見据える。
そしてもう一度杖に魔力を込め、不敵に笑いながら魔法を放った。
ダゴォンッ!!
響き渡る発砲音、襲いかかる反動。ドロシーの腕はちぎれ飛びそうな勢いで跳ね上がり、その肌は更に痛々しいものへと変色した。
「いったぁーい……」
「社長! もういいです! これ以上は!!」
「あはは、あと二発ねー」
ドロシーはそう言って杖を排莢する。
「何してるんですか! 腕がもう……!!」
「大丈夫、帰ったらルナに癒やして貰えるし」
「そ、それでも!」
「それに、早くアイツを撃ち落とさなきゃ……」
ドロシーはデモスのUFOを見つめながら言った。
「気に入らないのよ、アイツ」
「……え?」
「どうしてだろうね、同じ顔をしてるからかな。それとも同じ顔をしてるのに考え方が違うからかな。うーん、13番街区の子たちを勝手に改造されたからかもしれないねー」
コートから取り出した術包杖を杖に装填し、只々UFOだけを見据えてドロシーは言う。
「久し振りにムカついてるのよ。アイツだけは撃ち落とさなきゃって」
無表情で杖先を再びUFOに向ける彼女の手を、スコットはそっと抑えた。
「……やめてください」
「スコッツ君?」
「ほら、腕が……千切れそうになってるじゃないですか!」
「これくらいで千切れないよ。精々、折れるだけー……だから心配しないで」
「ちょっと今日の社長は変ですよ! 第一、アレを撃ち落としても解決するとは限らないでしょ!? さっき車の中で言った言葉を」
「ごめん、忘れちゃった」
ドロシーは自分を心配するスコットの顔を見上げてあははと笑った。
「でも、撃ち落とした方がみんなスッキリするでしょ?」
「……ッ!!」
彼女が発した言葉に我慢の限界が来たスコットは傷ついた小さな手から杖を取り上げ……
「いい加減にしろよ! この馬鹿野郎が!!」
その頭を思いっきり引っ叩いた。