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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.8 「言うのは簡単? やるのはもっと簡単だよ」
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6

「……ふぅ」


 異常管理局セフィロト総本部 賢者室。大賢者は外を見つめながら小さく溜息を吐いた。


「何故かしら。少し寒気がするわ」

「風邪でしょうか?」

「……わからないわ」

「近頃、冷え込んで来ましたから。大賢者様もお気をつけて」


 得体の知れない寒気に身構える大賢者にサチコが紅茶を差し出す。


「ありがとう、サチコ」


 大賢者はサチコに用意された紅茶に一口つける。


「……ふふふ」

「大賢者様?」

「……丁度いい熱さよ、サチコ。美味しいわ」


 実に久し振りとなるベストな温度の紅茶に大賢者は満面の笑みを浮かべる。


「今日はとっても素敵な一日になりそう」


 そして彼女は街の運勢を予言する。

 先程の悪寒は吹き飛び、サチコの淹れてくれた至極の紅茶を味わいながら窓の外を眺めていると……


「だ、大賢者様ァァー!」


 額に汗を浮かべたナカジマが大慌てで賢者室に過去込んできた。


「ノックはしなさい?」

「……」

「も、申し訳ございません!」

「それで、何かあったの?」

「じ、じじ、実は、今13番街区に……、うっ!」

「大丈夫?」

「うっ、うっ! ふー、ふーっ! ごほっ、ごほっ!!」


 余りの事があったのか、ナカジマは過呼吸を起こして膝をつく。

 彼の尋常ではない取り乱しぶりに大賢者はそっと紅茶を受け皿に置く。


「落ち着いて話しなさい。13番街区で何が起きたの?」

「ごほっ、ごほっ! も、申し訳ございません! じゅ、13番街区で……!!」

「……」


 見かねたサチコが無言で映像端末を起動する。


 賢者室に浮かび上がった薄いガラスのような画面に混沌の極みを呈する13番街区の様子が映し出された。


『み、見えますか!? 13番街区に発生した大量の……!』

『ちょっと異常管理局の人は何してるの!? この体何とかしてよぉ!!』

『ママァァァァーン!』

『早く戻してぇぇー! お婿にいけないぃいいー!!』


 プツン。


 ここでサチコが映像端末を停止。賢者室を重苦しい空気が包み込む。


「……サチコ」

「はい、大賢者様」


 大賢者は静かに椅子に座り、真剣な面持ちで手を組んで言う。


「大至急、大型記憶処理装置ムネモシュメの起動準備」

「はい、只今」

「そこの貴方」

「は、はい!」

「本案件を最優先解決事項と認定、すぐに処理班を編成して13番街区に送りなさい。出来るだけ優秀なメンバーを揃えて。処理班には魔導具庫(アーセナル)αに保管されているA階級(クラス)までの魔導具の使用を許可します」

「わ、わかりました! 今すぐに!!」

「念の為、メンバーには精神安定剤を持たせておいて。あとわかっていると思うけど、極力犠牲者は出さないように伝えなさい。くれぐれも慎重な行動をね」

「は、はいっ!!」


 ナカジマは深々と頭を下げて大賢者室を後にする。


「……」


 大賢者は再び紅茶に一口つける。


「……メメント・モリの発令はどうしますか?」

「サチコ」

「はい、大賢者様」

「もう一度、テレビを点けてくれる?」

「えっ?」


 サチコは大賢者が呟いた一言を思わず聞き返す。


「サチコ、テレビを点けて。チャンネルはそのまま」

「……」


 カチッ、ブーン。


『この世の終わりだァァァー!』

『アイエエエエエエーッ!!』

『ちょ、ちょっとこっちに来ないで! 来ないでーっ!!』

『こうなったらお前もドロシーになれぇえー!!』

『なんでアンタ達は普通の姿してるのよ! おかしいでしょ!? 不公平よぉ!』

『いやぁあーっ!!』


 再び起動した映像端末を見ながら紅茶を飲み、大賢者は頬杖を付きながらほふぅと一息つく。


「……こうして見ると、あの子は本当に可愛い顔をしているわね」

「えっ?」

「そうは思わない? サチコ」


 そう呟く大賢者は()()()()()()()()()()()()()()()()()になっており、何処かの白兎を連想してしまったサチコは思わず目を背けた。


「……今のは聞かなかった事にしておきますね」

「ふふふ、ありがとう。助かるわ」

「……先程のお顔、あの【慈愛の白兎】にそっくりでしたよ」

「当然でしょう。彼女とは血が繋がっているもの」


 大賢者はそう言って紅茶を置く。


 画面一杯をきゃあきゃあと逃げ回るドロシー軍団を見つめてご満悦な彼女から逃げるようにサチコは背を向けた。



 ◇◇◇◇



「ふーん、君の名前はアリシャっていうのね」


 出発前に尋ねてきた第三のドロシーも車に乗せ、ドロシー達は13番街区に向かっていた。


「は、はい」

「女の子?」

「えっ? そうですけど……」

「ふんふん、なるほど。スコッツ君、彼女と僕は」

「社長の方が可愛いですよ。これで満足ですか?」


 助手席に座るスコットはドロシーが喋り終わる前に即答した。


「ふふふっ」

「……」

「あ、あの……私も車に乗って良いんでしょうか」

「いいよ、ついでだから。貴女の頼み事も彼と同じでしょ?」

「か、彼?」

「俺、男なんだ……ごめんよ」

「えっ! そうなんですか!?」

「そうだよ! それなのにこうなっちゃったんだよ!!」

「お、お気の毒に……」

「気の毒とか言わないで? 傷つくじゃないの」

「はわっ! ご、ごめんなさいっ!!」


 後部座席で会話しているドロシー達の様子をルームミラーで眺め、スコットは魂が抜けるような溜息を吐く。


「……夢なら覚めて欲しいですね」

「はっはっ、覚めない夢というのも良いものですよ?」

「嫌ですよ、そんなの」

「毎日を夢の中で過ごせるなら、それ以上の幸福はないと思いませんか? 私はそう思いますが」


 ドロシーお嬢様が増えて夢心地気分。


 既にキャラ崩壊どころか元のキャラが思い出せない程にニッコニコの老執事は気持ち悪いくらいに活き活きした声色で言う。


「……俺は嫌な夢しか見たことがないんですよ」


 そんな彼の言葉にスコットは淀みきった暗い瞳で返した。


実はあの人があの子の大ファンというのはよくある話ですよね

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