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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.7 「憎い憎いも好きのうち」
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運命の再会は突然に。王道物語の鉄則ですよね、わかっております。

「さてさて、ピクシーだとスコッツ君は乗せられないね。ちょっと待ってて」


 ドロシーが魔法のバイクをポンと叩くと、それはあっという間に茶色のキャリーバッグに変身する。


「ハマー、起きて? 出番よ」


 そして再びポンと叩き、彼女がその名を呼ぶとキャリーバッグは一人でにバカッと開く。

 中身が裏返るようにしてガシャガシャと変形、徐々に大きな車体を形作り……


〈ブシャァァァァァァァァッ!!〉


 車体にHUMMERとマーキングされた腕の生えた生体車両が出現した。


「ホアッ!? な、何ですか!!?」

「ハマー君よ、僕の可愛いペット」

〈ヴシャルルルルルッ!〉

「ハ、ハマー君!?」

「それで、あの鎧はどうするの? 放っておく? 拾ってくる??」


 ドロシーは再びスコットに問う。彼はぐぬぬと暫く考えた後……


「お、俺も鎧になんて興味無いですし。放っておいても異常管理局の人が拾ってくれますから……!」

「ふふふ、だよねー。それじゃあ乗って?」

「……はっ! な、何だ!? この化け物は!!」

「化け物じゃないよ、ハマー君だよ。可愛いでしょ?」

〈ヴァルルルルル!〉

「か、可愛い!?」


 驚くニックの反応を面白がりながらドロシーはドアを開けてハマーに乗り込む。

 スコットもおっかなびっくりハマーに乗り、バタンとドアを閉めた。


「ハマー、目的地は僕の家よ。飛ばしなさい」

『ブブ……了解だ、セニョリータ(お嬢さん)……』

「!?」

「えっ、コイツ喋るの!?」

『……喋って悪いか? チコ(小僧)。気に入らないなら降りろ……』

「あ、すみません……乗せていってください。お願いします」

『……ふん……』


 物凄くダンディなハスキーボイスで喋るハマー。


 獣のような咆哮とはまるで印象が異なる渋く落ち着いた喋り方にたじろぎながらスコットはペコペコと頭を下げる。


〈ヴシャアアアアーッ!!〉


 ハマーが雄叫びを上げる。


 通行人、その他車両は見慣れない怪物車に恐れ慄きながら道を開け、逞しい両腕をムキムキと掲げながらハマーは走り去っていった。



 ◇◇◇◇



「ほらよ、嬢ちゃん。ご希望どおりに仕上げてやったぜ」


 騒ぎのあった場所から程近い場所にある鍛冶屋。スキンヘッドでサングラスをかけた大柄男性がブリジットに修復した剣を渡す。


「……ふむ」


 ブリジットは剣を手にとって確認する。


 真っ二つに折れた刀身は見事に元通りになり、以前よりも輝きを増して彼女の顔を鏡面のように映す。


「見事だ、礼を言う」


 ブリジットは深々と頭を下げる。


 鍛冶師は照れ臭そうに手を振り、ぎこちない笑みを浮かべた。


「はっはっ、もう折るんじゃねえぞ? アンタの剣は此処じゃ滅多に手に入らない高純度のミスリル製だ。そうポンポン折られると金がいくらあっても足りないぞ?」

「わかっている。もう決して折るような事はないだろう」


 剣を鞘にしまってブリジットは凛とした表情で言う。


 スキンヘッドの鍛冶師は彼女の凛々しい顔を見て小さく笑い……


「よし、それじゃ今回の修理費用だ。8000L$な」

「うぐぅっ!?」


 日々の糧にも困る彼女に()()()高額な費用を請求した。


「も、もう少し下げてはくれないか!」

「下げに下げてこの値段なんだよ、バカタレ。今のミスリルの取引価格教えてやろうか?」

「うううっ……! せ、せめて6000L$にしてくれ……!!」

「……はぁ」


 鍛冶師は頭を抱える。


 ブリジットに値段交渉されるのはもう慣れっこだが、こうも毎回のように値下げ要求されると流石にウンザリする。


「お前の雇い主ってあの魔女だよな? そんなに金に困ってるならもっと給料上げてもらえよ」

「そ、そんなことは出来ない! これ以上あの方に迷惑をかけるような事は……!!」

「いや、俺に迷惑がかかってるんだけど? 俺達も結構長い付き合いだよね??」

「うぐぅっ!」

「あー、畜生ー……」


 散々悩んだ末に鍛冶師はブリジットに背中を向けた。


「……6000L$な。そこに置いていけ」

「お、恩に着る! この礼は必ず……!!」

「うるせー、うるせー。金置いてさっさと失せろ」


 ブリジットは代金を置いて何度も頭を下げる。

 そして薄っすらと瞳に涙を浮かべながら店を後にした。


「……剣なんて捨てて、別の道探せばいいのになぁ。すげぇ別嬪さんなのによ」


 殆ど裸同然の挑発的な水着エプロン姿で去っていくブリジット(痴女)の後ろ姿を眺めながらスキンヘッドの鍛冶師は大きく溜息を吐いた。



「さて、そろそろ休憩時間が終わるな。早く店に戻らなければ」


 谷間にしまった懐中時計で時刻を確認したブリジットは駆け足で新しいバイト先に向かう。


「むっ?」


 すると前方の人集りが目に入り、不思議と気になった彼女の靴先はそちらへと向かった。


「はーい、下がって下がってー。こらそこー、写真撮らないー」

「こらこら、そのテープの先に足を出すなよ。まだ若いのに()()()になりたくないだろ?」


 人集りの先では異常管理局の職員達がとあるものを回収していた。

 泥に塗れ、本来の輝きを失った白銀の鎧……女神の祝福を受けた異界の勇者が纏っていた聖なる防具。


「……あ」


 赤毛の職員が運ぶ【勇者の鎧】を目にした途端、ブリジットは目を見開いた。


「あ、あの鎧は、あの輝きは……そんな、そんなっ」


 ギュッと手を握り、ブリジットは震える。彼女はあの鎧に釘付けになり、その美しい瞳からは涙が溢れる。


「あの鎧……間違いない。まさか、まさかこんな所で、こんな所で見つけるなんて……!!」


 ブリジットは確信した。


 大きく汚れながらも色褪せない独特の輝きを放つ白銀の鎧、見間違いようもない。

 あの唯一無二の輝きこそ、彼女が生まれ育った世界に存在した伝説の……


「オリハルコン……!」


 オリハルコンと呼ばれる神代レベルの超希少金属である。


ただし相手が人間である必要はありません。

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