12
「……」
スコット達はあまりの光景に無言で棒立ちしていた。
「終わったよー。それじゃあ帰りましょうか、スコッツ君」
ドロシーは硬直するスコットの近くにバイクを停めてニコッと笑う。
「……」
「あれ、まだ帰りたくないの?」
「……どうして吹き飛ばしたんですか!?」
暫く固まっていた後、メラメラと燃え上がるニックの体を指差してスコットは言った。
「えっ?」
「やり過ぎですよ、社長! もう少し、もう少し手心ってものをですね!!」
「だって派手に吹っ飛ばしてって言ったじゃない」
「誰もニックさんの体の方を吹っ飛ばせなんて言ってないでしょう!?」
ドロシーからすれば意味不明な理由で責められて彼女はキョトンとした。
「言ってる意味がわかんないんだけど?」
「ええと、ええとですね……! ニックさん説明を!!」
「ふっ……ふっはっはっはっは!!」
「ニックさん!?」
「はーっはっはっはっは!」
自分の体を躊躇なく爆破されたニックは狂ったように爆笑する。
「ニックさんしっかりー!」
「何その玩具喋るの? ちょっと貸して」
「はっはっはっ、見ろ! 私のボディがゴミのようだ!!」
「……ひでぇ」
「警部、やっぱりコイツ逮捕していってよ。野放しにしちゃ駄目だよ……」
付き合いの長いアレックス警部とタクロウすら彼女の所業にドン引きする。
だが、あのドロシーが来ても時間稼ぎや素直にキスするしか出来ないだろう……と考えてしまったのがそもそも間違いだったのかもしれない。
100年以上も生きている彼女ならあの手の怪物の対処法を知っていてもおかしくはないからだ。
「ふむふむ、変わったデザインね」
「しゃ、社長! とりあえずあの炎を消してあげてください! ま、まだ間に合うかも……!!」
「えー? もう無理よ、中身までまっ黒焦げになってるから」
「はっはっ、火葬の手間が省けて助かったよ! 君は可愛いし優しいなぁ!!」
「諦めないでくださいよ、ニックさん! 自分の体ですよ!?」
「……ところで、君の名前はニックって言うの?」
ニックを興味津々の様子で眺めていたドロシーは、ここで喋るヘルメットの名前に反応する。
「はっは、そうだよ! はじめまして、私はニック!!」
「フルネームは?」
「ニック・スマイリー! 元勇者の喋るインテリアだよ、お嬢さん!!」
「しっかりしてください、ニックさん! 自分をインテリアとか言わないで!!」
「あっ」
彼のフルネームを聞いてドロシーは頭のアンテナをピンと立てる。
「あー! 君がスマイリー君ね!!」
「!?」
「あははっ、こんな所で会うなんて奇遇ねー!」
ドロシーはニックを嬉しそうに抱きしめる。
見知らぬ少女のたわわに実った胸にホールドされでニックは混乱した。
「ーッ! ーッ!!」
「え、知り合いですか!?」
「あれ、スコッツ君に言ってなかった?」
「聞いてませんよ!?」
「ほらー、君が初めて私の家に来た時に話したじゃない。来るはずだった新人のスマイリー君がニューテムズ川で冷たくなってたって」
「えっ」
「その子のフルネームはニック・スマイリー。異世界から来た勇者さんよ」
スコットは今の今まで忘れていたあの日の会話をここで思い出す……
『僕はお昼に新人君が来ると思っていたの。リョーコちゃんが紹介してくれたスマイリー君ね』
『きっと神様がスマイリー君よりもスコッツ君を選んだほうが素敵なことになるから手伝ってくれたの』
『ニューテムズ川で冷たくなってたらしいよ』
そのスマイリー君の成れの果てがこの喋るヘルメットなのだ。
「マジで!?」
「私もビックリよー! 運命ってあるのねー!!」
「むおおーっ!」
「あ、ごめん。苦しかった?」
「い、いきなり何をするんだ!? ビックリするじゃないか!!」
柔らかな生意気バストから解放されたニックは顔を赤くしながら言う。
「こ、こんな大胆な挨拶は感心しないぞ! 君のような可愛いお嬢さんがこんな……! はしたない!!」
「ごめんねー、新しいファミリーに会えたのが嬉しくて」
「ファ、ファミリー?」
「そう、ファミリー」
ドロシーはニコニコ笑いながらニックに顔を近づける。
「……おう、スコット。俺はそろそろ店に戻るよ、お疲れさん」
「あ、ど、どうも……お疲れさまです」
「俺もちょっと気分が悪いからコイツと一緒に病院に行ってくる。ああ、管理局にはもう連絡したから安心してくれ……それじゃあな」
「あ、警部さんもお疲れ様です……」
アレックス警部とタクロウはスコットだけに挨拶して立ち去ろうとするが……
「こらこら、二人共ー? 助けたあげたんだからお礼と別れの挨拶くらいはしなさいー??」
「……ああ、くそぅ! ありがとう、助かったよぉ!!」
「そ、それじゃあな! 気が向いたらスコット一人で店に来てくれよー!!」
しっかりと二人の動向を確認していたドロシーに声をかけられ、警部達は不器用な謝辞を残して走り去った。
「相変わらず素直じゃない子達ねー」
「き、君は一体、何者なんだ?」
「ああ、ごめんね。私の名前はドロシー、ドロシー・バーキンスよ」
「ど、ドロシー?」
「覚えてないの? 君の知り合いにそっくりのリョーコちゃんから教えてもらったでしょう??」
「……あ」
「ふふふー、思い出した? そのウォルターズ・ストレンジハウスの社長が僕だよ」
ニックは丸い双眸を大きく見開く。
感動的とは口が裂けても言えない巡り合わせに言葉が出ず、只々ドロシーの宝石のような瞳を見つめながら固まっていた。
「あー、えーと……その」
「帰ろっか、スコッツ君。ルナも君を心配してるよ」
「社長……あの鎧はどうしましょうか」
スコットはまっ黒焦げになったスマイリーの体付近で散乱する【勇者の鎧】を指差す。
「放っておいてもいいんじゃない? 僕、鎧に興味ないし」
「いやいや、駄目でしょう! あれは滅茶苦茶ヤバい代物なんですよ!?」
「それじゃあ拾ってきてくれる?」
「えっ」
「放っておけないなら拾ってきなさい。放っておきたいならあのままにしなさい。子供じゃないんだから自分で決められるでしょ?」
「うっ……!!」
ドロシーの小馬鹿にしているような発言にスコットは顔を赤くし、そんな彼の顔を見て彼女はくすくすと微笑んだ。