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「えっ……ど、どなた様ですか!?」
「な、何だ! 彼女は一体……!?」
スコットはバイクに跨る金髪の少女に言う。
フリルワンピースがふわりと風に揺られ、純白のちょっぴり大胆なレース下着を間近で見てしまった彼は顔を赤くしながら目を逸らす。
「ええっ、ヒドーイ! スコッツ君までそんな意地悪なこと言うの!?」
「へっ!?」
「君が心配でずっと探してたのに! 君にとって私はその程度の女なのー!?」
だが、見覚えのある少女の笑顔とどこか挑発気味な言い回しでその正体に気付いた。
「社長!?」
期待通りの反応を見せるスコットにドロシーは満足げに笑った。
「あはは、正解ー。どう? 似合う?」
「な、何でそんな格好」
「何しに来やがった、魔女ィ! 今は取り込み中だ、帰れぇ!!」
「何だその格好は! ふざけてんのか!? それで変装のつもりかコラァアアー!!?」
彼女がドロシーだと気付いた途端にアレックス警部とタクロウは少女を罵倒する。
(バカな、コイツがお洒落をしているだと! どういう風の吹き回しだ!? ああ、畜生! 可愛いって思っちゃったよ! クソッタレェ!!)
(あっぶねぇー! マジで一瞬、誰だかわからなかった! 俺としたことが! 俺としたことがぁー!!)
「さっさと帰れぇ! お前が居ると状況が悪化するだろ! 善良な皆さんの精神的安定の為にもGo HOMEだ! Go Go HOMEゥ!!」
「そのムカつく笑顔をやめろぉ! ぶっ殺すぞ、オアアー!? いい歳してそんな格好して恥ずかしくないのかコラァアー!!」
この可憐な美少女の正体がドロシーだと気づけずに一瞬見惚れてしまった二人は、まるで彼女に八つ当たりをするように罵詈雑言を投げかける。
しかしその顔は若干赤らんでいた。
「き、君達酷くないか!? こんな可憐な少女相手になんて酷いことを言うんだ!!」
そこに何も知らないニックが物申す。
「ニックさん! 仕方ないんです! 彼女は」
「そうそうー、皆は私が可愛くて仕方ないの。素直になれない子たちでしょー?」
「「「違うから!!」」」
「いいよいいよ、口に出さなくても。私にはわかってるからー」
ニコニコと笑いながらそんな台詞を吐くドロシーにスコット達は苛立つ。
どんなに見た目が良くても中身がアレではマイナスポイントでしかないと言う揺るぎない真理を痛感し、さっさといなくなってくれないかと切に願った。
「……で、後ろのアイツが問題の化け物ね」
ここでドロシーは四人を追いかけてくる首のない重剣士について触れる。
「そ、そうです! 俺達はアイツに追われて……ッ!!」
「わかった。じゃあ、後は私に任せなさい」
「えっ?」
その時、スコットは寒気を覚えた。
ドロシーの表情がいつもの愛くるしい笑顔から、狂気を孕んだ魔女の微笑みに変わる瞬間を目の当たりにしたからだ。
「それじゃあ、また後でねー」
「ちょっ、待ってください! 社長ーッ!!」
ドロシーは空中でブレーキしながら方向転換し、首のない重剣士に何処からか取り出した魔法杖を向けた。
「な、何をする気だ!?」
「あの人、魔法であの化け物を吹っ飛ばすつもりです!」
「な、何ぃ!? 止めさせろ! 奴に攻撃は通じない! 下手に攻撃を加えれば彼女まで……!!」
だがここでスコット達は同時に同じことを閃いた……
『彼女にキスをしてもらおう』
またとない絶好のチャンス。ドロシーは機動力に優れた空飛ぶ魔法のバイクを持っているので首のない剣士に近づくのも容易い。
タクロウとスコットが剣士の動きを止め、その隙に背中のクロスに口づけをさせて無力化するのだ。
「お願いします、社長ーッ! 派手にぶっ飛ばしてやってくださいー!!」
「何を言ってるんだ、君は!?」
「見せつけてやれクソ魔女! お前の力をなぁー!!」
「やっちまえ、コラァー! 手加減すんなよ! 殺す気でいけーっ!!」
「き、君達ィ! わかっているのか!? アイツを攻撃すれば彼女まで狙われるんだぞ!!?」
願ったり叶ったりだ。
もしドロシーが狙われたとしても都合がいい。
彼女は空を飛んでいるので剣士を撹乱出来るし、チクチクと魔法を放つだけでも十分な足止めが期待できる。
彼女が頑張ってくれている間に体力を回復させて一気に勝負をつけてしまえば良いのだ。
「ファイトです、社長ーッ!!」
傍から見れば泥だらけ傷だらけの男共が麗しい少女に危険な化け物を擦り付けるという筆舌に尽くしがたい光景なのだが……
(ふふふっ、頼りにされてるのねー。よーし、みんなの為に頑張らなきゃ! バシッと決めてやるわよー!!)
当のドロシーは彼らの薄汚い声援に本気で喜んでいた。
「おい、君ーッ! 奴を攻撃するなぁーっ! 鎧を着ている限り奴に攻撃は通じない! 奴から鎧を脱がせないと……ッ!!」
「余計な事は言わないでください! あの人は大丈夫ですから!!」
「むぐぉっ……!?」
「これも世界、そして俺達の為だ! 堪えるんだ!!」
「これで良いんだよ! これがベストなんだよ!!」
ドロシーを止めようとしたニックの口と思しき部分を三人は全力で塞ぐ。
「さーて、アイツには魔法に耐性が付いてるって言ってたわね」
ガシャガシャと音を立てて迫りくる首のない重剣士に狙いを定め、ドロシーは不敵に笑う。
「ちょっと確かめてみよっと」
────パァンッ
ドロシーは剣士に向けて一発の魔法を放つ。
放たれた薄紫色の弾丸が剣士に命中すると、身体に紫色の紋章をボヤッと浮かび上がり……
泥だらけになった鎧は一瞬で武装解除された。
「えっ?」
「あっ?」
「はっ?」
「へっ?」
驚くほどに呆気なく、あまりにも容易く。
今までの彼らの苦労を一笑に付すかのごとく、ドロシーの魔法がアッサリと鎧を脱がせる光景にスコット達は目を疑った。
「ふむふむ、耐性が付くのは魔法による攻撃ダメージだけのようね。魔法そのものに耐性が付く訳じゃないと……」
ドロシーはバイクから降り、鎧を失って糸の切れた人形のように倒れ伏すニックの身体に近づく。
動かなくなった体を靴先でぺしぺしと蹴り、完全に無力化されたのを確認してふふんと鼻を鳴らした。
「それじゃ、スコッツ君達のご希望通りに……」
そして杖先をニックの体に向ける。
「派手にブッ飛びなさい」
パスンと軽やかな発砲音を立てた後にドロシーはバイクに跨り、ふわりと優雅に発進させる。
────チュドォオオオオオオーン!!
鳴り響く爆発音。立ち昇る爆炎を背に金色のツインテールを煌めかせながら、ドロシーは誇らしげに笑った。