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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.7 「憎い憎いも好きのうち」
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8

「うおおおおおおっ!」


 スコットは思い切り青い拳を振るう。


 首のない重剣士は大剣で悪魔の拳を防御。床を大きく削りながらも踏みとどまり、素速く大剣を持ち替えてスコットに斬りかかろうとする。


「オラァッ!!」


 そうはさせまいとタクロウの右ストレートが打ち込まれる。

 流石にガードなしでは踏ん張りが効かず、重剣士の体は大きく後退る。剣士が体勢を整える前にスコットとタクロウは拳を振りかぶり……


「おああああっ!」

「どりゃあああああっ!!」


 二人同時に強烈な拳を叩き込んだ。唸る鉄拳を2発同時に受けた重剣士の体は壁を突き破って場外に吹き飛ぶ。


「ぜぇ……ぜぇ……っ!」

「無理をするな! これ以上は危険だ!!」

「はぁ……確かにキツイなこりゃ」


 疲労が蓄積したスコットは膝をつく。


 顔面への蹴りに続いて更に数発の重い打撃を叩き込まれ、既に息が上がってしまっている。

 一方でタクロウにはまだ余裕があり、何度か攻撃を受けたが目立ったダメージは受けていない。


「本当に、タクロウさん強いんですね……」

「いやぁ、スコットも中々だよ。若いのに大したもんだ」


 タクロウはスコットに手を貸して立ち上がらせる。


「だがアレだな。スコットは力任せに相手を殴る喧嘩しかやったことないな? それも一方的に勝つ感じの」

「……ええ、まぁ」

「それじゃあ、駄目だ。ただ強い力だけに頼ってたら」


 ガラガラガラ……ッ


()()()()()と喧嘩になった時に泣きを見る」


 殴り飛ばされた重剣士が大剣を引きずりながら再び現れる。


「……でも、俺はこんな力なんて要らないんですよ。本当は」

「まぁ、今の御時世に喧嘩が強くなっても良いことなんて殆どないからな」

「……」

「それでも」


 重剣士が再び二人に攻撃を仕掛ける。


 スコットの肩をポンと叩いてタクロウは前に出て大剣を受け流し、横腹にパンチを打ち込んで剣士を迎撃した。


「嫁さんや皆の前で格好つけられるよな、俺が君を守るってさぁ!」


 剣士は大きく吹き飛ぶが、大剣を地面に突き刺して堪える。


 だがタクロウが間髪入れずに放った追撃のドロップキックまでは耐えられず、突き刺した大剣ごと勢いよく壁に叩きつけられた。


「ふー……要は力に頼るんじゃなくて、その力とどう付き合っていくかだ」

「……どう付き合うか、ですか」

「力との付き合い方がわかれば自然と喧嘩の仕方も変わる。何処でどう力を使うべきかもわかる筈だ」


 タクロウは右の拳をギュッと握り締めてスコットに言った。


「それ以上の説明は無理! 俺は頭が悪いからな! とにかく力はぶん殴る為だけに使うなって事だ!!」

「タクロウさん、俺は」

「会話が盛り上がっているところで申し訳ないんだが! いい加減にこれ以上の戦闘は無意味だと気付いてくれないかな!!」


 ニックはひたすら自分の身体を殴り続ける二人に苦言を呈する。


「どんなに殴っても、奴は絶対に倒せないと言っているだろう!」

「いや、殴り続けたらいけるかもしれないじゃん?」

「無理だよ! 無理無理! それで倒せるならここまでしつこく逃げろとは言わない!!」


 ニックの言う通りあれだけ二人の攻撃を受けても首のない剣士がダメージを負った様子はない。問題の鎧も泥で汚れてしまっているだけで全くの無傷だ。


「じゃあ倒すのを諦めて逃げたとして、どうやってアイツを止めるんだ?」

「ちゃんと作戦があるんだ! だが、二人は敵として認識されているのでもう意味がない! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」


 ニックの話に気を取られていた二人に重剣士が剣を振るう。振るわれた剣が一瞬青く発光し……


「! まずい! 受けるな、避けろ!!」

「おわぁっ!?」

「ぬおっ!」



 ────ズバァンッ!!



 振り抜かれた剣先から発生した虚空の斬撃がビッグバードを両断した。


「うおおおおっ! 俺の店がぁーっ!!」

「光を纏わせた剣からは防御不能の斬撃【ジャッジメント・ブレイド】が放たれる! 刀身が青く輝いたらすぐに回避してくれ!!」

「今頃、説明するんですか!? もう少し早く言ってくださいよ!」

「だから逃げろと言ってるんだよ!? 防御不能の斬撃を放つ上に、戦うほど強さを増す不死身の敵を相手に真面目に戦う君達がおかしいんだ!!」

「いやでも、何か頑張ったら勝てそうだし……」

「勝てないから!!」


 ニックは半泣きで喚く。


 自分の身体が目の前でボコボコにされるのもかなり堪えるが、真面目な訴えを全く聞いて貰えないのが何よりもショックだった。


「でもさ、逃げてる間に他の人が襲われたらどうするんだ?」

「そんなことはしない! あの身体は敵と判断した相手しか襲わない! 絶対に!!」

「え、アイツの攻撃で何人か死んでた気が……」

「距離を取れば追い掛けてくるだけで奴は攻撃をしないんだ! だから君たちはひたすら距離を取っていればいいんだよ!!」


 ギギギギギギッ


 首のない剣士は鎧を軋ませながら剣を構える。


「それじゃ、お前の作戦とやら聞こうか。戦わずに逃げてどうやってアイツを倒す?」

「……敵として認識されていない誰かにあの鎧を脱がせてもらう。そうすれば奴は止まる筈だ」

「……確証はないんですね」

「鎧を脱がせた後は……君達に任せるよ」

「いいのか?」

「鎧さえ無ければ()()()()()()さ。もう勇者を名乗る資格も……とっくに失っているからね」


 ニックは首のない剣士を見つめながらそう言った。


「ところで前から聞きたかったんですけど、首が無いのに何で動いてるんですか?」

「鎧に籠められた女神の祝福のお陰だよ。もし志半ばで斃れても、体だけで戦い続けられるように……」

「それってもう呪いじゃないですかね……」

「ははは、今になっては私もそう思うよ。斃されても仲間の蘇生魔法を受ければすぐに生き返ったけどね……」


 ニックの脳裏に熾烈な魔王軍との戦いの記憶が蘇る。


 魔王から世界を救うべく、剣を振るって幾千もの魔物を討滅した日々を。

 だがこうして追われる側に立ち、頭を失って尚も剣を構える勇者(じぶん)の姿を目の当たりにして心底ウンザリする。


 これでは人の世を脅かす魔物と何も変わらないではないか……と。


魔王軍(やつら)にとっては、死すら畏れぬこの私こそが本物の化け物に見えただろうな」


 憂鬱げなニックの呟きにスコットとタクロウは苦笑いした。


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