6
最近、ホットコーラにもハマりだしました。中々良いですね、アレ。
ギリギリギリィィ……
重剣士は鎧を軋ませながら剣を構える。
「ところで、何だアイツは? 頭は何処いった?」
頭のない騎士を見てもタクロウは全く動じずに頭部の所在を聞く。
「頭は此処です、ほら……」
「はじめまして、私はニック。あの化け物の頭だったものだ」
「あ、これがアイツの頭か! へー、中々にイケメンだな」
「はっはっ、ありがとう! 涙が止まらないよ!!」
スコットはニックをタクロウに手渡す。
自己紹介するヘルメットのデザインが気に入った彼は屈託のない笑顔で褒めるが、その何気ない一言がニックの精神に更なるダメージを与えた。
「え、喋れるんですか!? 頭だけなのに……!!」
だがここでアトリから真っ当な人間らしいリアクションを頂けたので少しだけ救われた。
「ところで……どうしてこうなったんだ?」
「いや、異界門に飲み込まれてこの街に来たらしいんですが……」
重剣士は呑気に会話するスコット達に大剣で斬りかかる。
「気がついたら頭が切り落とされてー」
「ありゃりゃ、災難だったなー」
「怪しい変態に買われてこんな姿になったそうです」
だが悪魔の腕が繰り出したアームハンマーで叩き潰され、続いてタクロウが追い打ちで放ったキックを胴体に受けてゴロゴロと転がりまわる。
「……」
「酷い目にあったんだな、可哀想に。俺で良ければ話を聞くぞ?」
「ははは、ありがとう。君も優しいな……」
「ひゃあっ、タクロウさん! また首のない人が来ますよ!!」
「ん? ああ、大丈夫だよマイハニー!」
タクロウは心配する妻の愛らしい心配顔にほっこりしながら突撃してくる重剣士を裏拳でノックアウトした。
「パッと見た感じ大した奴じゃないから。余所見してても多分負けないよ」
「ははっ、はっはっは!」
「ど、どうしたんですか? ニックさん」
スコットとの交戦で大幅に戦闘力を上げているというのに歯が立たない。タクロウの底の知れない実力にニックはもう笑うしかなかった。
「これが笑わずにいられるか! まるで相手にならないじゃないか! 何が勇者だ、馬鹿馬鹿しい!!」
「え、お前勇者だったの?」
「元勇者さ! 今はもう唯のニックだよ!!」
だが重剣士はどれだけ攻撃を受けてもすぐに立ち上がる。
女神の祝福を受けた鎧は未だに傷一つ着いておらず、ギギギと不気味な音を立てている。
「……しかしタフだな、結構その気で殴ってるんだが」
「わ、私、怖いです……何だかあの鎧から嫌な気配がします……」
アトリはあの【勇者の鎧】から感じる得体の知れない力に怯えていた。
彼女には不思議な能力は無いが、それでも頭のない重剣士が発する異質な存在感を鋭敏に察知してタクロウに強く抱き着く。
「ジャック! 聞こえるか!!」
「えっ、あっ! 俺ぇ!?」
「アトリさんや皆を連れて裏口から逃げろ!!」
妻の怯えぶりから相手の危険性を察したタクロウは三馬鹿筆頭のジャックにアトリと常連達の避難を任せる。
「た、タクロウさん……」
「大丈夫、すぐにやっつけるからね」
「じゃ、じゃあ……店長も気をつけてな。何かアイツ……ヤバそうだし」
「お前も気をつけろよ? 嫁さんに手を出したら殺すからな??」
「そ、そんなことしねぇよ!」
ジャックはアトリの手を取り、他の常連達と一緒に裏口から外に出る。
「……さて、スコット。当然、お前は」
「はい、残りますよ。このままアイツを放っておけないんで」
「はっはっ、だよな」
タクロウは拳と掌を合わせて気合を入れる。
青い悪魔もそれに感化されたのか、彼と同様に手を合わせてパァン!と大きな音を立てた。
「ッ!」
その音を合図に剣を構えた重剣士が二人に襲いかかる。
始めに攻勢に出たのは重剣士。構えた大剣をタクロウ目掛けて振り下ろす。
「おらあっ!」
タクロウは刀身を右手で払い、空いた左手でカウンターを放つが剣士は左手で素速く受け止める。すかさずスコットが動きの止まった剣士に向かって悪魔の拳を放った。
「……ギッ!」
重剣士はタクロウの左拳を掴んだまま地面を蹴って跳躍し、悪魔の攻撃を回避する。
「なっ!?」
「!!」
硬い鉄靴がスコットの顔面に叩き込まれる。
続いて掴んだタクロウの左拳ごと上腕を捻り、落下の勢いと己の体重を利用してそのまま折ろうとした。
「ちぃっ!!」
間一髪折られる前に剣士の胴体を蹴り上げ、タクロウは強引に拳を引き抜く。
蹴り上げられた剣士の体は天井にめり込み、そこに体勢を整えたスコットが放つ悪魔の右アッパーを叩き込まれてそのまま天井を突き抜けて打ち上げられた。
「がはっ……! くっそ!!」
「大丈夫か!?」
「……急にアイツの動きが変わったな。何だ、アレは?」
「……先程の打ち合いで君の攻撃パターンと力を学習したんだ。恐らく、次から更に素速く鋭い攻撃を繰り出してくるだろう」
タクロウは左腕の具合を確認する。
骨折はしていないが今の一瞬で拳に青痣が出来、手首も捻挫してしまっている。スコットも顔面に強烈な蹴りを食らって鼻血塗れという有様だった。
「いってぇ……鼻折れたかな」
「正攻法では奴は倒せない! 今のうちに距離を取れ!!」
「そう言われてもな、あんなのを放っておく訳にもいかないだろ……」
「君と戦えば戦うほど奴は強くなるんだ! 君がどんなに強くても……いや、強ければ強いほどに奴は更に力をつけていく!!」
ズシンッ。
ぶち破った天井からそのまま重剣士が落下してくる。
「こんな力があるのに何で首を落とされたんだ?」
「……油断していれば、どんなに力があっても無意味だろう」
「……そうだな、すまん。後でお詫びのオムレツをご馳走してやるから今のナシにしてくれ……」
「いいや、気にしないでくれ。それに……」
「ニックさんの首を落とした奴がもっととんでもない化け物だった……それだけの話だと思います」
スコットは鼻血を拭って恐ろしい事をサラリと口走った。
「はっはっ! そうだよな、ここはそういう街だからなぁ!!」
「その通りだ。正直に言ってくれてありがとう……」
「……すみません、でも」
ギギギギギギッ……!
頭のない重剣士は鎧を軋ませて耳障りな音を立てて起き上がる。
先程までとはまるで異なる突き刺すような殺気とプレッシャーをスコット達にぶつけるが……
「俺……そんな化け物よりもおっかない女に、毎朝ベッドに忍び込まれてるんですよ」
スコットは殺意全開の重剣士を前にしても、不敵に笑いながら軽口を叩いて見せた。