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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.6 「独りぼっちが、一番だよな?」
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紅茶飲みながら本気でヒロインを人間社会とは決して相容れない怪物にするにはどうすればいいかと考えていたら、こうなりました。

「んぐぐぐぐ……」


 ウォルターズ・ストレンジハウスのリビングでドロシーはスコット達の帰りを待ち侘びていた。


「ドリー落ち着いて、もうすぐ帰ってくるから」

「そうそうー、もうすぐ帰ってくるからさー」

「むぐぐぐぐ!」


 スコットが戦闘で負傷してまる一日寝込んでいた事を知らされなかったドロシーは顔を膨らませる。

 あまりにもいじらしい彼女の仕草にルナとアルマはほっこりした笑顔になった。


「……折角、スコッツ君のベッドで待っててあげたのに……!!」

「よっぽど相手が手強かったのでしょうね」

「色仕掛けでもされたのかもしれねーなー。アイツ、女に弱そうだし」

「色仕掛け……!?」


 萎びていたドロシーのアンテナは怒髪天をブチ抜く勢いでビビーンと立ち上がり、彼女は迫真すぎるにも程がある表情でアルマをガン見した。


「アルマ?」

「あー……はい、例えだよ? 場所が場所だしー」

「スコッツ君は色仕掛けに屈するような軟な男じゃないわ。冗談でもそういうのやめて?」

「あ、うん。ごめんねドリーちゃん……」


 ドロシーに本気で叱られてアルマは黒い耳をシュンと下げる。

 ルナは隣でしょんぼりするアルマの背中を優しく撫でた。


「それにしても……何だろうね、この気持ち。ムカムカするというか、ウズウズするというか」

「それが恋よ、ドリー」

「恋って……こんなのだっけ?」

「そうよ。何も気持ちが高鳴るだけが恋ではないの。時には胸を締め付けられるような痛みを感じる事もあるのよ」

「む、むむ……っ」

「ふふふ、本気で恋をしていなければそんなに苦しまないわ。ドリーは本当に彼が好きなのね」


 \ピンポーン/


 義母の深い一言でドロシーに電流が走ると同時にインターホンが鳴り響いた。


「さぁ、ドリー。出迎えてあげなさい」


 ドロシーはアンテナをピンと立てながら立ち上がり、スタタタタッと玄関まで向かった。


「……ドリーちゃんあんな顔するんだな」

「あの子も大人になっていくのよ」

「あたしも()()()の前だとあんな顔してたのかな」

「うふふ、気付いてなかったの?」



 玄関ドアを開けてスコットが帰還する。


 ウォルターズ・ストレンジハウスと書かれた看板がカラカラと音を立て、まるで彼の帰りを歓んでいるかのような小気味良い音にスコットの気分は滅入る。


「……ただいま帰りました、社長」

「おかえりなさい、スコット君」


 ドロシーは依頼を達成したスコットを見て何かを察した。


「ちゃんと仕事を終わらせてきたわね、流石はスコット君」


 興奮する気持ちを全力で抑え、いつもどおりの笑顔で彼を迎える。


「……何とかね。ははっ、ボロボロですけど」


 ドロシーの笑顔を直視しないようにわざと視点をぼやかしながらスコットは愛想笑いをする。


「その傷は名誉の負傷だよ。むしろ誇っていいんじゃない?」

「……そうですかね」

「痛みを知らずに仕事だけを淡々と熟す人間になったらオシマイよ」

「……はっは、勘弁してくださいよ。家に居た社長に何がわかるんですか」


 知った風な口を利くドロシーにスコットは突っかかる。


「ん? わかって欲しいの? それじゃあ聞かせて貰おうかしら」


 そんなスコットにドロシーは腕を組みながら返した。


「……えっ?」

「あのね、スコット君? そんな姿で帰ってきた君が、辛い苦しい思いをしてないと考えるほど僕は馬鹿じゃないの。僕がどうしてこの街の皆に本気で嫌われてるか知りたい??」

「え、ええと……」


 予想外の返答にたじろぐスコットにドロシーは素足のまま近づく。


「他人の気持ちが嫌ってほどわかるからよ」

「……!!」

「その子が何を隠しているのか、自分をどう思っているのか。どうやって本心を隠しながらその場を誤魔化そうとしているのか、どれだけ 世界で一番不幸なヒーロー・ヒロイン っていう特別な存在のままでいたいと思っているのか」

「……お、俺は」

「僕は目を見れば解るのよ? スコット・オーランド」


 ドロシーはスコットが家に入った瞬間に彼の気持ちを察していた。


 だからこそ抱き着きたい程に興奮していた気持ちを抑え、あくまでも社長として彼に接しているのだ。


「もしかして冗談だと思っていたの?」

「……思ってました」

「それじゃあ、僕が君に何を聞きたいか言わなくても解るよね?」

「……」

「隠しても良いけど今の君に耐えられるの? かなり苦しそうだけど??」

「……すみません、実は俺……依頼人の友人を守れずに死なせてしまいました」

「それと?」

「……依頼人と寝ました。それに、お酒を飲みすぎて依頼人のお友達と……その」


 スコットの正直な告白を笑って受け止めてドロシーは家に上がる。


「ふふふっ、いいんじゃない? 仲良くなれたみたいで嬉しいよ」

「よ、良くないですよ! 俺は……!!」

「ああいう店の子を貶して優越感に浸る人よりは素直に抱いて仲良くなれる人の方が好きよ」

「ううっ……!?」

「それもお相手次第だけどね、少なくともあの店の子は良い子ばっかりだから安心していいよー」

「そ、そんなにアッサリと受け入れちゃうんですか!? ちょっとは俺を叱るとか、軽蔑するとか……! 人間らしい反応してくださいよぉ!!」


 抱えていた苦悩を余裕で笑い飛ばされてスコットはドロシーに掴みかかる。

 しかし彼女はニコニコと笑いながらこう返した。


「あれ、ひょっとして君は僕に叱られたかったのー? スコッ()君はそういうのが好きなの? 叱られて貶されてネガティブな快感に浸りたかったのかしら??」

「うぐっ!?」

「ダメよー、スコッツ君。僕はそういう人とは付き合えないのー、生理的に無理だから」

「そういう意味じゃなくてですねっ!!」

「あはは、依頼人との()()()()はどうだったのー?」

「社長ォォォォ────ッ!!?」


 スコットは顔を真赤にしながらドロシーに突っかかる。

 

 先程までひたすら重苦しかった彼の表情は不思議と生き生きとしており、いつもの調子を取り戻した彼をドロシーは嬉しそうに見つめていた。


傷心する主人公を励ますヒロインの鑑。

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