15
砂糖なしのストレートティーを飲んだらこの話が生まれました。
「レ、レンさん……!?」
目前に迫る艶姿のレンにスコットは息を呑む。
サイズこそ控えめだが柔らかそうなバストにしなやかな肢体、特にスラリと伸びる眩しい美脚は控えめなバストを補って余りある魅力となっていた。
「ふん、何よ。やっぱり貴方、童貞でしょ?」
「い、いえ……その。童貞じゃないです」
「そうは思えないわね」
レンはスコットの頬に軽くキスをする。
「……な、何をッ!?」
「景気付けよ。少しは緊張が解けた?」
「……いえ、その……ええと」
「あはは、駄目そうね。いいよ、アンタはそのままじっとしてて……」
突然のキスで完全に主導権を握られたスコットは成されるがままに服を脱がされる。
慣れた手付きでボタンを外され、インナーシャツを少しずつ捲られていく。
「……わぁ」
スコットの身体を見てレンは目の色を変える。
適度に鍛えられた筋肉、そして刻まれた痛々しい傷の数々。
まるで彼の人生を物語っているかのような荒々しい様相に思わず溜息が漏れる。
「……本当に凄い身体してるのね」
「あ、あんまり見ないでくれませんかね。見ていて気分の良いものでもないですよ」
「そう?」
レンは一際目立つ脇腹の切り傷にそっと触れる。
「ふおっ!? ちょっ、待って! そこを触られると……!!」
「あたしはこういう身体……嫌いじゃないな」
「えっ?」
「ちょっと、アンタの見方が変わったかも」
先程まで乗り気で無かった彼女はスコットの身体を見て薄っすらと頬を緩めた。
「……あたしね、まだママみたいに顔見ただけでどんな相手か解るほど賢くないけどさ。それでも身体を見たら大体解るよ」
「そ、そうですか……」
「これは虐められて出来た傷じゃないよね?」
「……」
「アンタ、本当はどんな奴なの?」
スコットは思わずレンから目を逸らす。
「レンさんの言った通り、俺は弱い男ですよ」
「……」
「……何ですか?」
「良いよ、アンタが言いたくないならそれでいいわ」
レンはスコットをドンと突き飛ばす。後ろの大きなソファーベッドに倒れ込んだ彼に猫のように躙り寄りながら彼女は妖しく微笑んだ。
「直接、身体に聞くから」
「ちょっ、ちょっと待って! 俺は仕事で此処に来ただけで……!!」
「何よ、あたしもこれが仕事よ? 馴染みの客にはこうしてお金を貰ってるの、今日は貰う気ないけどね」
「ええと、ええと……!!」
「もー、調子狂うわね。せっかくこっちはその気になってるのに」
興が削がれたレンはスコットから離れ、部屋に用意されている酒瓶とグラスを手に取る。
「じゃあ、お酒くらいは大丈夫よね?」
「じ、実は酒もあんまり……」
「童貞な上にお酒も駄目なの?」
「だから童貞じゃないですよ! あんまり強くないだけで、お酒だって飲めます!!」
「ふーん? じゃあ、ちょっとお酒を交えて……あたしとお話しましょうか?」
レン達が入ったお遊び部屋のドアに耳を当てて中の様子を窺うホステス達。
「……」
『……ッ! ゴホッ! オホッ!!』
『あーあー、そのお酒はそうやって飲むんじゃないってば! ちょっと大丈夫ー?!』
『い、いけますよ。このくらい……美味いです!』
『そう? もう顔が赤いけどー……』
「やだ、レンったら結構ノリ気じゃない?」
「珍しいわね、あの子って好みの相手じゃないと滅茶苦茶素っ気ないのに」
「ひょっとしてお姉ちゃん……あの男の人がタイプだったのかな」
「えー? あたしらが見た時は全然そんな調子じゃなかったのに! ていうか、レンの好みって確か」
『うごふぅっ!!』
『あははっ、だからそうやって飲むんじゃなくてー! もー、貸しなさい! あたしが手本を見せるから!!』
「……アイツらそこそこ盛り上がってるわよ?」
ドア越しに聞こえてくる会話とレンの反応に彼女達は興味を抱く。
「ど、どうする? アタシらも混ぜてもらう??」
「いいんじゃない? どうせまだお店は開いてないしー」
「わ、わたしも……」
「うーん、メイはまだ駄目ね……」
「何してんだい、アンタ達」
「げっ、ママ!?」
聞き耳を立てる困った娘達を前にヴァネッサは目を細める。
ホステス達は一斉にドアから離れ、そわそわしながら目を泳がせたり下手な口笛を吹いて誤魔化す。
「まぁ、アンタ達の気持ちはわかるけどねえ。盗み聞きは感心しないよ」
「べ、別にー?」
「そうそう、別にあんなのタイプじゃないしー?」
「そ、そうだよママ! わたしもプレイされるならもっと強そうな人がいいし……!!」
「そーそー、メイの言う通りだよ! でもメイはまだ早いわよ!?」
「はっはっ、安心しな。あの男とマリアは今晩、この店で泊まっていくらしいよ」
「「「「!!!!」」」」
「やりすぎは良くないけど、気晴らしの相手くらいはお願いしていいんじゃないかい?」
ヴァネッサが軽い気持ちで発した何気ない一言が、彼女達に火を点けた。