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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.6 「独りぼっちが、一番だよな?」
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「あら、おかえりなさいませ」


 昼休憩から戻ったスコット達をマリアは笑顔で迎える。


「ど、どうも。えーと……」

「収穫はありましたか? マリアさん」

「うふふ、まずまずですわ。そちらは?」

「ええ、こちらもまずまずです」


 相変わらず笑顔なのに何処か険悪な雰囲気の二人にスコットはたじろぐ。


「犯人の目星はつきましたかな?」

「いいえ、全く。ここはもう犯人が動くまで待つしかありませんわねぇ」

「そうですか、困りましたな」

「ええ、困りましたわ」

「お、俺は店の中で話を聞いてきますね」


 ピリピリしたムードに耐えかねたスコットが店に入ると、店内では不満気な表情のレンが彼を待っていた。


「ど、どうも」

「アンタさ、本当に大丈夫なのよね?」

「だ、大丈夫だと思います」

「やっぱり駄目じゃないの!!」


 顔を青くして走り去ったスコットの姿に不信感を懐きつつあったレンだが、彼の自信なさげな反応が決定打となり不満を爆発させた。


「あのさ! アンタ本当にあのウォルターズ・ストレンジハウスの一員なの!? 全ッッ然、凄そうに見えないんだけど!!」

「えーと……それはその」


 実はあの会社を辞めたいんですと正直に言うわけにもいかない状況にスコットは黙り込む。

 そんな彼の態度が更にレンを苛立たせた。


「あーもー! チェンジ! もうチェンジよ、別の人呼んできて!!」

「そ、そんなこと言わずに少しは俺のこと信用してくださいよ!」

「どう信用しろっていうの!?」

「いやその……あれです! いざとなれば俺が貴女を守ります!!」

「いや無理でしょ!? アンタ、凄い弱そうだもん!!」


 レンはスコットの発言をバッサリと切り捨てる。

 何も知らない彼女からすれば当たり前の反応だが、その冷たい一言がスコットをカチンとさせた。


「いやいや、これでも腕っぷしには自信あるんですよ!?」

「本当でしょうね!? じゃあ、ここで証拠見せてみなさいよ!!」

「わかりました! ちょっと店がぶっ壊れるけどいいですね!? 俺は弁償しませんよ!!?」

「はぁ!? アンタの弱そうなパンチでこの店が壊れるわけないじゃない! 言っておくけど、この店はねー!!」

「あーあー、店の中で喧嘩はやめておくれ。寝不足の子もいるんだよ?」


 ヴァネッサは本気で店の壁を殴ろうとしたスコットの肩をポンと叩いて動きを止めた。


「あっ、ママ……ッ!」

「す、すみません……」

「スコットだっけ? ごめんねぇ、依頼人がこんな生意気な娘で」

「だ、だってさー!」

「まぁ、この娘はアンタみたいな自信がなくて弱そうな優男が一番嫌いだからねー。我慢しておくれ」

「うぐっ!?」


 ヴァネッサにも 弱そうな優男 と断じられてスコットのハートは深く傷ついた。


「ほらー、ママもそう思うでしょ!? こいつやっぱり」

「でも気をつけな、レン。コイツは見てくれは優男だけど……()()は凄いよ?」

「えっ?」

「ほら、この腕を見てみなよ」


 コートの裾を捲ってレンにスコットの左腕を見せる。


 意外にも筋肉質で逞しい腕には痛々しい傷が刻まれており、手首には大きな手術痕も残っていた。


「……!」

「ね? 普通の優男じゃこんな腕にはならないよ」

「ちょ、ちょっとヴァネッサさん! いきなり何するんですか!?」

「いい腕をしていたからちょっとね? 私はこういう逞しい腕に抱かれるのが好きなんだよ」

「ええっ!? ちょっ、待って!!?」

「アンタは身体の方も傷だらけなんだろう? それなのにこんな性格のままなのはちょっと合点がいかないねぇ……」

「そいつが弱いから虐められてそんな身体になっただけでしょ!? ちょっと今日のママは何処か変よ!!」

「ふふふ、そんなことはないさ。ママの目はいつだって確かだよ、アンタもすぐにわかるさ」

「……!?」


 ヴァネッサはコートの袖を戻し、くすくすと笑いながらレンの耳元で囁く。


「……それでも気になるなら、自分で確かめてみな」


 そう言い残して彼女は店を出ていく。レンはヴァネッサを見送った後、呆気にとられるスコットに目をやった。


「……」

「な、何ですか?」

「アンタ、お酒は飲める?」

「え?」

「女を相手にしたことは?」

「え、あの……レンさん?」

「……普通ならチップを貰うところだけど。今日は特別よ」


 レンはスコットの手を引いて足早に歩き出す。


「レ、レンさん! 何処行くんですか!?」

「いいから黙ってついて来なさい。あんまりうるさいと黙らせるわよ?」

「ちょっ……!」

「あ、レンじゃない。どうしたのー?」

「何でもないー、気にしないで」

「あら、まだ店は空いてないよ? それに初めて見る顔だけど……初めての客からはチップ貰ってもプレイしちゃいけないんじゃ」

「勘違いしないで、お客さんじゃないわよ。少し確かめたいことがあるだけ」

「あ、お姉ちゃん! どうしたの? その人ー」

「何でもないわ、メイ。でも奥の部屋は覗いちゃ駄目よー」


 声をかけてくるホステスを適当にあしらいながら、レンは突き当たりにある部屋にスコットを連れ込む。


「ちょ、ちょっとレンさん!? 何を……」

「……」

「レンさん!?」


 動揺するスコットはレンに声をかけるが、彼女は無言で部屋に鍵をかけた。


「え、あの」

「アンタ、腕と身体に自信はあるのよね?」

「……まぁ、はい。少しは」

「じゃあ、ちょっと確かめさせてよ」


 レンは胸元のボタンに手をかけ、ゆっくりと外していく……


「ホアッ!?」

「何よ、その顔……アンタ此処が()()()()()()知ってるでしょ?」

「ナ、ナイトクラブですよね!? ええと、会員制の酒場みたいな感じの店で! 女の人が客とお酒飲んだり、おしゃべりしたり……!!」

「馬鹿ね、それだけの訳ないでしょ?」


 ボタンを半分ほど外して胸元をチラリと覗かせ、ホットパンツのベルトも緩めて挑発的な姿になる。


「……今日はそんな気分じゃないし、アンタは好みでも何でもないけど」

「ちょ、ちょっと待って! 俺は」

「うるさいわね。アンタから金を取ろうとしてるわけじゃないからいいでしょ? それとも……」

「……ッ!」

「アンタ、女と遊んだことないの?」


 レンはヴァネッサの言葉の真偽を自分で確かめるべくスコットに詰め寄った。


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