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リンボ・シティ1番街区 異常管理局セフィロト総本部。
街の誕生以前から活動していた【魔導協会】と呼ばれる組織を母体とし『世界の存続』、『異世界の脅威の排除もしくは沈静化』、『異世界が関連する技術及び物品の管理』、『異世界人と現世界人との共存共栄』を活動理念とする異常管理局の本部にしてリンボ・シティのシンボルだ。
「なるほど、7番街区の交通事故は貴方が原因と……」
その建物内にある薄暗い取調室でスコットは尋問を受けていた。
「……ええと、その……はい。そうなります」
「今までにもこのような経験が?」
「はい、沢山……」
ジェイムスの魔法で10分ほど拘束され、新たに用意された白塗りの高級車でこの部屋まで強制連行された彼は苛立ちを抑えながら職員の問いかけに応じる。
(おい、悪魔。ふざけんなよ、いきなり車の中で出てきやがって……しかもそれっきりで終わりかよ! 一体何なんだ! お前は何がしたかったんだ!?)
スコットは心の中で内に眠る悪魔に毒突くも返事は返ってこない。今まで悪魔が彼の言葉に答えた事は殆ど無かったが、それでも言わざるを得なかった。
(……クソッ!)
悪魔の力でも解けない程にジェイムスの魔法は強力だったと強引に納得し、とりあえずスコットは気を落ち着かせる。
「沢山ですか。それは大変ですね」
「……あの、一つだけ良いですか! 貴女もしかして扉の前で受付をしていた人の」
「異能力の説明以外の個人的な質問は受け付けておりません」
「アッハイ、すみません……」
「……では続けます。こちらとしてもあまり時間はかけたくないので」
額に角の生えた女性職員は感情の籠もらない事務的な声で淡々と話を続ける。
「その力の制御は可能ですか!」
「……アイツが、悪魔が目を覚まさなければ」
「では、どのような時に悪魔は目を覚ますのですか!」
「……過度のストレスが溜まったり、俺の身に危険が及んだ時です」
「では、そのような事態にならなければ制御は可能。そういうことでよろしいですね?」
職員の言葉にスコットは返答に悩んだ。数秒間沈黙を貫いた後、自信なさげな声で彼は答える。
「……一応は」
その言葉に確証はない。だが、少なくとも気分が良い時にあの悪魔が暴れ出すような事は一度もなかった。
「わかりました。力の制御は可能と言うことなので貴方は引き続きBクラス特異能力者として扱わせていただきます。しかし貴方は一桁区で事故を引き起こしてしまったので、脅威レベルを【2】に上昇させます」
「脅威レベルっていうのは?」
「そのままの意味で、貴方個人の危険度です。レベルが上がるごとにコチラから相応のペナルティを貴方に与えます」
「……わー」
「Bクラス特異能力者の脅威レベル2ペナルティは一桁区への居住禁止、一桁区の2日以上の滞在を禁止、一部店舗への入店制限、週に一度住民カードを担当の監視役に提出……」
リンボ・シティに来て早々ペナルティを与えられ、スコットの気分は消沈する。
「これが貴方の身分証明書、住民カードになります。お受取り下さい」
女性はスコットに一枚のカードを差し出す。薄い透明なガラスのようなもので出来たカードには彼の個人情報が表示され、連行された時についでで撮影された顔写真が不機嫌そうにこちらを見つめていた。
「貴方の審査は以上です。お疲れ様でした」
「ええと……あの、俺が起こした事故で死傷者なんてのは……それに損害賠償とか」
「安心して下さい。もし死者が出ていたなら貴方を開放するような真似はしません。賠償に関する心配も無用です。今回に限りこちらが負担致します」
「……そうすか」
「ドアの向こうに貴方の監視役を待たせています。それでは良い一日を」
スコットは事務的にも程がある職員の反応に微妙な心境を抱えながら部屋を出た。
「おめでとう、これで君も晴れてこの街の住人だ」
ドアの向こうで待っていたジェイムスがスコットに声をかける。
「あの、監視役って……」
「うん、俺のことだ。よろしく頼むよ」
ジェイムスはハハハと明るい笑顔で握手を求める。スコットは渋々握手に応じ、とりあえず愛想笑いをした。
「監視役ってことは、俺はこれからずっとあなたに見張られるってことになるんですか?」
「いやいや、そこまで君のプライバシーを侵害するような事はしないよ。週に一度、君の住民カードをチェックさせて貰うだけだ。あの部屋で渡されただろ?」
「……これですか」
女性職員に渡されたカードをポケットから取り出す。
「丁度いい機会だ。今からチェックさせてもらうよ」
ジェイムスはスコットからカードを受け取り、胸ポケットにしまっていた手のひらサイズの機械に通してから返却した。
「はい、これで今週のチェックは終了だ」
「ど、どうも」
「そのカードは君の行動を記録する。君が隠れて悪さをしても、何処かで暴れても、全部そのカードを通してわかるようになっている」
「俺が悪事を働くこと前提ですか……」
「それだけ君の力はそこそこ危険なのさ。何、悪さをしなければ何も問題ないよ。来月までトラブルを起こさずに暮らしていればペナルティを取り消されて監視役からも開放されるさ」
スコットはここで気になっていた事をジェイムスに聞いた。
「あの、特異能力者っていうのが……俺みたいな能力を持ってる奴らのことですよね?」
「ああ、そうだ。俺たちはそう呼んでいる。その能力の強さと危険度、そして制御の難しさに応じていくつかの階級に分けられていて、君の階級は上から三番目だね」
「……上が居るんですか?」
「そう、上には上がいる……君のようにある程度でも力を制御出来る異能力者はまだまだ可愛い方さ」
ジェイムスがうんざりするような表情で発した言葉に、スコットは全身が総毛立つ感覚に襲われた。
「ところで、君には行く宛はあるのか?」
「……一応は」
「仕事は?」
「……明日の午後から面接があります」
「なら良かった。そうだ、これから昼飯にしないか? 代金は俺が持つよ」
「いえ、結構です。暫く一人で居させて下さい」
「そうか……じゃあ、また来週にな」
ジェイムスに頭を下げてスコットは歩き出す。
彼の目に映るのはジェイムスと同じような黒コートに身を包んだ管理局の職員達。新生活の第一歩を初っ端から台無しにされかけた為、彼の異常管理局に対する印象は最悪なものとなった。
「ああ、そうだ。おい、スコット君! 13番街区にだけは行くなよ!? 絶対に行くな!!」
ジェイムスが後ろで何か叫んでいたが、スコットの耳には殆ど届かなかった。
おにぎりにも紅茶は合いますよ。ツナマヨにぎりとストレート紅茶は素晴らしい組み合わせです。