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寒い日ははちみつジンジャーティーがとても効果的です。お試しあれ。
『な、なんとぉぉ────っ!!』
ハーキュリーM3自慢の拳を縦にバッサリと切り裂かれて発明家は絶叫する。
「うおっ!」
「おわわっ!?」
だが切断面からはジェル状の駆動液が吹き出してブリジットの身体を真っ白に染め上げた。
「あーっはっはっは、汚えぇぇーっ! それくらい躱せよ、バーカ!!」
「こ、これくらいで騒ぐな……真の騎士は、白く染まった程度で狼狽えない……」
「はいはい、騎士はすげーな……って臭っ! うわぁ、油くせぇえっ!!」
「く、臭いとは何だ! 傷つくじゃないか! おのれ、よくもこんな辱めを……!!」
ポキンッ
「あっ」
ブリジットの魂とも言える細身の剣は、先程の大技の負荷に絶えきれずにポッキリと折れてしまった。
「……ぁぁぁぁぁあぁああああああああああああああ!!!」
そしてブリジットの心もポッキリと折れた。
「あーっ! 剣がーっ!!」
「わ、わわわわ私の! 私の剣が、剣がぁあああぁぁぁあああああああ!!」
『うぉおおおおおおー! 貴様らぁ! よくも、よくもワレのハーキュリーM3の腕をぉおおお────ッ!!』
「しょうがねえなー! おい、乳女! その折れた剣をよこせ! あたしがイカス武器に生まれ変わらせてやる!!」
「な、何をする貴様ぁぁぁー! やめろぉぉー! 私の剣に触れるなぁぁぁぁぁ!!」
『許さぁぁぁぁぁぁ────ん! 二人共この右腕に宿りしΩガトリングで蜂の巣に』
……キュドドドドドドドドォォォォォン!!
『あおおおおおおおおおおおお────ッ!!!』
戦闘中なのに仲間同士で取っ組み合う二人に襲いかかろうとしたハーキュリーM3は、ドロシーの魔法を受けて無惨に爆散した……
「はいはーい、大人しく収容車に乗ってー」
「こらそこー、男同士でイチャイチャしないー」
観念した脱獄囚達は手錠をかけられて新しい刑務所に移送されていく。
「え、この子が問題のマッドな発明家さん?」
「……ああ、コイツが俺達の追っていた発明家で天才科学者でもあるDr.ペティオだ」
10番街区と1番街区の境目で暴れていた旧型のハーキュリー軍団との戦闘で来るのが遅れたジェイムスは疲れ果てた顔で言った。
「くっ、殺せぇ!!」
ジェイムスが指差すのは泥だらけになった大柄のハムスター。
つぶらな瞳に丸メガネを掛け、小さな白衣を身にまとったキュートな姿にドロシーは目を丸くする。
「やだ、可愛い。持って帰っていい?」
「駄目だよ!? こいつはこのサイズであんな鋼鉄の化け物と武器を生み出す知能と技術力を持ってるヤバい奴だぞ! 確保だ、確保ぉ!!」
「やだ、可愛い」
「やめないか!」
「くそぉ、こんな屈辱耐えられるかぁ! 殺せぇ、一思いにワレを殺せぇぇー!!」
泣きべそをかきながら殺せと宣うペティオにドロシーは頬を染める。
動物好きな彼女にはこの天才ハムスターは好みどストライクであるらしい。
「あいあい、とりあえずお前は暫くこの籠の中で反省するんだな」
「この子、いくらで売ってくれる?」
「身体で解決するならあたし頑張るぞ?」
「君たちマジかよ」
ドロシーとアルマは二人揃って同じような顔でジェイムスにせがむが、ジェイムスはそんな二人に心からの軽蔑の目を向けた。
ペティオは三人の注意が自分から逸れたのを確認し……
「はっはっはぁー! 馬鹿共めぇえー!!」
小さな手に嵌めた腕輪を操作する。
スクラップになっていたハーキュリーM3の中から小型サイズのハーキュリーが出現し、ドロシー達に重機関銃を向けた。
「うおおっ!?」
「あ、何か出てきた」
「このチビが頑張って作ったんだと思うとあのデザインも愛らしく見えるなー」
「舐めるな、小娘ェ! ワレの秘密兵器ハーキュリーM4で蜂の巣にしてくれるぁぁぁー! やれぇ! ハーキュリーM4ォォォー!!」
ハーキュリーM4はスクラップになった筈のM3の大腕に呆気なく叩き潰された。
「……ちょあっ?」
「危なかったですね、社長ー! ギリギリセーフ!!」
戦闘が収まるまで物陰に隠れていたデイジーがひょこっと現れる。
ハーキュリーM3の残骸は彼の異能に操られ、息子とも言えるM4のボディを完膚なきまでに粉砕した。
「……」
「ナイスタイミングよ、デイジーちゃん」
「おーっす、デイジー! ちゃんと隠れてたなー、偉いぞー!!」
「……まぁ、悪いのはお前だからな。同情はしないぞ」
放心状態のペティオを特別透明合金性の籠に放り込み、ジェイムスは一息ついた。
「これで解決かな?」
「そうだな、助かったよ」
「このー、美味しいところだけ持って行きやがってー。おらおらー」
「ひゃああ! や、やめてください姐さん……人前ですよ!?」
「後は掃除を手伝ってくれたら文句なしなんだが」
「ルナが僕たちの帰りを待ってるから後はお願いねー」
ドロシーはそう言って手を振りながらその場を後にする。
ジェイムスは散らかすだけ散らかして後始末を丸投げする魔女を恨めしそうに見つめていたが……
「この近くにホテルがあるからさ、汚れを落とすついでにちょっと休んでいこうか!」
「い、いいですよ! オレは別に汚れてないし!」
「そう言うなよー、もっと綺麗にしてあげるからー」
「……おい、彼女も連れていけよ。一番汚れてるのはこの人だろ」
デイジーを連れてホテルに向かおうとするアルマを呼び止め、折れた剣を見つめながらぷるぷるしているブリジットを指差す。
「うわぁ、ブリジットさん!? そんなところにいたんですか!??」
「いいよー、そいつはそこに置いとく。臭いし」
「ヒデェ!」
「……あぅ、あう、あう」
「それじゃあ、またなー!」
「えっ、ちょっ……! ブリジットさんは……!?」
「おい待て、黒うさ! コイツも連れてけよ! 置いてかれても困るって!!」
「あーもー、しょうがねーなー!」
アルマは心底嫌そうな顔で放心状態のブリジットの背中を掴み、ずるずると引き摺っていった。
「……」
「先輩ー! 大丈夫でしたか!?」
「……おぅ、ロイドか」
「ど、どうしたんですか? 凄い切なそうな顔してますけど」
「あぁ、うん……気にするな。大したことじゃないんだ」
「……そ、そうなんですか? あとあの人達は」
「奴らのことは忘れるんだ。ほら、さっさと作業を始めるぞ……」
心配してくれる後輩のロイドの肩を叩き、ジェイムスは後始末に取り掛かった。
添え物は勿論、ビッグサンダーチョコをどうぞ。