12
紅茶を美味しく飲んでいると定期的に賑やかなシーンを入れずにはいられなくなります。
場所は変わりリンボ・シティ10番街区のバイトンスヴェル刑務所前。
「おらぁあああああああっ!」
「ぼぎゃぁぁぁぁぁぁー!!」
アルマは天高く跳躍し、5mを越える巨漢の脱獄囚の脳天に黒刀を突き刺す。
事の発端は午後12時前、異常管理局に危険因子として追われていたマッドな発明家がバイトンスヴェル刑務所の地下通路から内部に侵入。
武装した看守を一瞬で殺害し、囚人達に自作の超兵器を渡して彼らを扇動したのだ。
「くそっ、数はこっちが圧倒してんだ! 押し潰せぇー!!」
獲物を与えられた囚人達は喜び勇んで脱獄。街中で超兵器を乱射しながら大暴れし、偶然その場に居合わせてしまった警部がドロシー達に連絡して現在に至る。
「何だ、あのチビ……ぶぐぉっ!?」
「誰がチビだコラァ! 死ねぇー!!」
「怯むな、クズ共ォ! 相手は警官と生意気なガキ二人じゃねーか! さっさと捻り潰」
チュドーン!!
「ほぁぶぁっ!!」
「誰が生意気なガキよ、クソガキめ。こっちは君たちより長生きしてるのよ」
「あーっ! スジョーンが殺られた!!」
「クソがぁ! よくもスジョー……アブゥァァァッ!!」
チュドーン、チュドーン!!
「はいはい、君たちもさっさとスジョーンの所に行きなさい」
囚人のリーダー格である懲役2000年のスジョーンとその取り巻きを魔法で爆殺し、ドロシーは杖をリロードする。
「うーん、数が多いなあ。面倒くさいなー、刑務所ごと吹き飛ばそうかなー」
「おい、やめろ! 魔女! 建物の中にはまだ逃げ遅れた所員が残ってるんだぞ!?」
「あはは、冗談だよー。本気にしないで、アレックスちゃーん」
「冗談に聞こえないから言ってるんだよ!?」
すぐ近くでパトカーをバリケード代わりにしながら応戦するアレックス警部は、取り残された所員ごと刑務所を爆破しようとするドロシーを必死に制止した。
「ううっ……俺はもう駄目です警部……! 後はお願いします……!!」
「足を撃たれたぐらいで諦めるな! ほら、マシンガンだ! 使え!!」
「うううっ……! そろそろゆっくり休ませてくださいよぉー!!」
足を撃たれて身動きが取れないリュークを警部は叱咤する。
諦めたくても諦めさせてくれない意地悪な上司に泣き言を言いながらリュークはマシンガンを連射した。
「でも問題のイカレた天才発明家さんは中に居るんでしょ? そいつを叩かないと武装した悪ガキが刑務所からドンドン出てくるよー?」
「でもなぁ……っておい! 後ろぉ!!」
「ヒャッハー! お嬢ちゃん、俺と遊ぼうぜァー!!」
「嫌よ」
「アバッ!」
「あっはっはー! ドンドン来いよ、オラーッ! アルマさんが遊んでやるよぉーっ!!」
「アイヤーッ!」
「アァン!」
「オォン!!」
「グボアッ……や、やるじゃない……!!」
強力な武器で武装した囚人達はドロシー達に蹴散らされていく。
彼らは世間一般的には凶悪犯罪者で悪魔染みた犯罪歴を持つ危険人物なのだが、真の悪魔たる彼女達に敵うはずもなく……まるで人の形をしたゴミのように呆気なく倒されていった。
「……うーん、キリがないわね。どうしようかな」
『くくくく、バカ共めぇー! ワレにこの究極最強MEGA魔導兵器【ハーキュリーM3】を起動させる時間を与えたことを後悔するがぃいいぃいい───ッ!!』
耳障りな甲高い声と駆動音を轟かせ、巨大な魔導鎧が歴史ある刑務所を破壊しながら現れる。
バケツを逆さまに被せたような特徴的な頭部に屈強な手足、そして寸胴なボディに赤いペンキでM3とマーキングされたインパクト抜群な姿に警官達は唖然とする。
「うわぁぁぁー! 刑務所がぁぁー!!」
「わー、ひどーい。建物の中にはまだ人が残ってるのにー、ゆるせなーい」
「畜生! 外の奴らは時間稼ぎの為の囮だったのか……!!」
「あっはっは、何だぁアレは! だっせぇえー!!」
『ダサいだとぉ!? このセンスのわからんとは馬鹿な小娘が! 踏み潰してくれるわァァァァア────ッ!!』
「はぁぁぁぁーん!? 上等だ、コラァァー!!」
「待たせたな、お前たちぃぃー!」
甲高い声で挑発してくる問題の発明家にアルマが憤慨した時、聞き覚えのある凛々しい声が木霊する。
「……チッ、あの乳女! 今頃、来やがったのか!!」
いつぞやの二人組が運転する車の屋根にしがみつきながらセクシーなメイド服姿のブリジットが参上した。
「我が名はブリジット! ブリジット・エルル・アグラリエル! アグラリエルの名において……」
「その名乗り毎回言わなきゃ駄目なんですか!?」
「えぇい、邪魔をするな! 戦う前に名乗るのは騎士の礼儀だ! それを蔑ろにすることは……」
『何だァァ、貴様はァァァァー!?』
「あぁぁぁぁー! 何かデカいのが来たぁぁー!!」
名乗り口上を邪魔されて運転手に突っかかるブリジットを踏み潰そうと魔導鎧の巨大な足が迫る。
「……仕方ないッ! 穿ち貫け────」
ブリジットは迫りくる鋼鉄の足裏に剣先を向けて素速く円を切るが、
「あ、あのぉ! もうこの辺で帰ってもいいですかねぇぇー!?」
「返事はいいですから! 俺らはここで帰りますねぇぇぇー!!」
技を発動させる前に運転手は素速くハンドルを切り、ブリジットを屋根から振り落とす。
「きゃああっ!?」
ブリジットは勢いよく空中に放り投げられる。
巨大な足は轟音を立てながら地面を踏みしめ、間一髪踏み潰されずに済んだ運転手は窓から手を出し、中指を立てながら猛スピードで離脱した。
「くっ、アイツらめ……!」
空中で一回転し、ブリジットは華麗に着地する。
「全く、この程度の相手に恐れをなして逃げ出すとは……」
「来るのがおせーんだよ、牛女! あと邪魔だからどっか行ってろ! デカブツはあたしが殺る!!」
アルマは耳をピンと立て、駆けつけたばかりのブリジットを早速罵倒する。
「邪魔とは何だ、邪魔とは! 第一、お前の小振りな剣があの巨大な鎧に通用するとは思えないぞ! お前こそそこを退け!!」
「はぁぁぁぁぁぁん!? おまっ、おま……! 誰が小振りだテメェエエエー!!」
『チェェェェーイ! 目障りだ、纏めて潰してくれるゥゥゥゥウウ────ッ!!』
流れるように口喧嘩する二人に向かって、ハーキュリーM3は巨大なハンマーと一体化した左腕を振り下ろす。
「邪魔だ、子うさぎ! 下がっていろ!!」
「誰が子うさぎだぁ! ブチ殺すぞ、コラァァー!?」
「……天上より、裁け────」
「かぁぁぁっ! 本当にムカつく女だなぁ、もぉーっ!!」
ブリジットが天高く剣を掲げるのを見て、アルマは不本意ながら後退る。
煌めく剣先からは天に向かって伸びる青く巨大な光の刃が形成され……
「────夢幻剣・天斬!!!」
ハーキュリーM3の巨大な鉄腕を一太刀で両断した。