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今日のビックリドッキリSAN値チェックはこちらになります。
三階のヴァネッサの部屋を出たスコット達は一階に降りる。
「あの、何処に行くんですか?」
「うふふ、下ですわ」
「? いえ、もう一階ですけど」
「いえいえ、もっと下です」
マリアは一階の廊下に飾られた肖像画の前で立ち止まり、コツコツを足を鳴らした。
ズズズズズズ……
すると肖像画の飾られた壁が開き、下へと続く階段が現れる。
「……」
「さぁ、行きますわよ」
「……何でもありですか、この街は」
「今頃気付いたの? うふふ、鈍い人ねぇ」
階段を降りた先には大きな部屋があった。
綺麗に整頓された大理石の床が映える大部屋に布を被せられた被害者達が眠っている。
その数は十人……体を覆う布のサイズや形からいくつか足りない部位がある娘も見られた。
「こんなに……」
「あらあら、中々の数ですわね。これは骨が折れそうですわ」
マリアは目についた一人の布をめくる。
銀髪のセミロングヘアと白い肌が特徴の彼女は首が胴から切り離され、肩口からばっさりと身体を裂かれていた。
「あら……綺麗な子。残念ね、大きくなったら凄く素敵な女性になったでしょうに」
「ちょ、ちょっと……マリアさん!?」
彼女の首を拾いあげて膝の上に乗せる。
そして自分の指を噛み切り、人差し指を自らの血で染めた。
「ふふふ、貴方は少しビックリするかも知れませんね」
「……?」
ドスッ。
マリアは生首の頭部に指を突き刺す。
「はぁっ!? な、何して……」
「いたっ、痛い痛い痛い痛い! やめて、痛いって! やだ、死ぬ、死んじゃう! 死んじゃうからーっ!!」
「……!?」
指を突き刺された生首がカッと目を見開いて喋りだし、スコットは驚いて尻もちをついた。
「死ぬ、死ぬーっ……てあれ? ここ何処? ここが天国??」
「うふふ、お眠りのところ申し訳ございませんわ」
「えっ、何! 何!? あなた誰よ!?」
「私の名前はマリア、少しの間ですが貴女とお話がしたくて来ましたの」
マリアは彼女の首の向きを変えて優しく笑いかける。
「……あー、わたしの身体って今どうなってるの?」
「うふふ、大変なことになっておりますわ」
彼女の首の向きを再び変え、今の自分の状態を彼女自身に確認させる。
「ああもう最悪! バッサリやられてるじゃない!!」
「ええ、可哀想ですがこの傷は駄目ですわね」
「あー、あーっ! やだー! この間に17の誕生日迎えたばっかりなのにー! 畜生ー、あの化け物めぇー!!」
生首状態になっても元気に喚き散らす銀髪の娘にスコットは目眩を覚える。
衝撃のあまり言葉も出ず、只々愚痴る生首と会話するマリアの姿を見守るしかできなかった。
「うううっ! この身体じゃもう……!!」
「その化け物について聞きたいのですが、貴女が殺された日について何か覚えてますか? 例えば相手の顔や特徴など」
「……覚えてないよ。声をかけられたから振り向いたらもういきなりズバァッ! とやられたのよ! 右腕が切り落とされて痛い痛いーって思ってたら目の前が真っ暗になったわ! 何があったのかわたしが知りたい!!」
「あらら、それは困りますわね。その怪物について知りたいのに」
「そいつの正体がわかったらわたしにも教えて! 脳天にナイフ突き刺して……いや、まずは右腕を切り落としてやるわ! すっごい痛かったんだから! 脳天に突き刺すのはトドメの一撃よー!!」
首だけになったのに特に混乱した様子も見せず、クワッとした迫真の表情で恨み言を吐く銀髪の娘。儚げで清楚そうな顔立ちに反してかなり逞しい女性のようだ。
「うふふ、正体を知っても教えられませんわ。貴女はまた天国に戻ってしまうんだから」
「……あ」
マリアの言葉を聞き、彼女は自分が死んでいる事を改めて実感した。
「……そうね、わたし死んでたんだわ」
「ええ、貴女はもう死にました。今はほんの少しだけお話が出来るようになっただけ……私がある言葉を呟くと貴女はまた眠ってしまいます」
「ううー……っ!」
悔しさに顔をしかめる彼女を見てマリアは小さく笑い、こんな事を言いだした。
「もしもまたあの身体で動き回れるとしたら、どうしますか?」
「えっ!?」
「元通りとはいきませんが、もう一度あの身体で男の人と抱き合えるとしたら……どうします?」
「い、生き返れるの!?」
「いいえ、生き返りません。死体のまま動けるようになるだけですわ」
マリアの言葉に銀髪の娘は一瞬笑顔になったが、すぐにその顔から笑顔は消えた。
「し、死体のまま……?」
「ええ、心臓は動きませんし体温もありません。身体の感覚も……」
「そ、そうなんだ……」
「それでももう一度貴女は動き回れます。怪我をしてもすぐに治るようになりますし、バラバラになっても大丈夫。お腹も空きませんし痛みも感じませんわ」
「それはちょっといいかも……!」
「それに歳も取りませんわ。ずーっと綺麗な若い姿のままでいられます」
「……」
まるで銀髪の娘を誘惑しているようにマリアは語りかける。
スコットはその異様な光景を黙って見続けるしか出来ず、激しくなる動悸と息切れを必死に堪えるしかなかった。
「歳を取らないのは……ちょっとやだな。わたし、ママみたいな大人になりたいから」
少し迷った後、マリアの誘いを銀髪の娘は断った。
「ふふふ、そうですか」
「それに、感覚ないと……ねぇ? 男に抱かれても寂しいし」
「でしょうね」
「うん、ありがとう。やっぱりこのまま眠らせて……」
「わかりました。それでは最後に……貴女のお名前を聞かせてもらえるかしら?」
「エマよ。わたしはエマ……それしかないの」
銀髪の娘はエマと名乗った。彼女の名前を聞いたマリアは優しく微笑んで頭を撫でる。
「うふふ、いい名前ね。それでは……おやすみなさい、エマ」
エマはここでようやくスコットの存在に気付く。
驚く彼をジッと見つめて最後にニコリと笑った後、彼女はもう二度と覚めない眠りに就いた。
「……!!」
「ふふふ、驚かせちゃったかしら?」
「い、今のは……今のは何ですか!? 何なんですか!!?」
「ちょっとした手品ですわ。じゃあ次はあの娘ね……」
「!? ま、まだ続けるんですか!!?」
「エマちゃんからは何も聞き出せませんでしたもの。それにまだ九人いらっしゃいますからね……」
マリアはエマの首を彼女の身体の傍に置き、すぐ隣で眠る被害者の布をめくった。
「……ッ!」
「ああ、そうそう。ちょっとアーサー君の様子を見てきてくれますか? 車の見張りをサボっているかもしれませんから」
「……お、俺は……!」
「何ならお昼休憩を取ってもいいわよ? そろそろお腹が空いたでしょうしね」
彼女が笑顔で言い放った言葉が発破になったのか、スコットは思わず頭を下げてその場を離れた。
「……ッ! ……ッ!!」
スコットは耳を塞ぎながら階段を駆け上がる。
下る時は特に何も感じなかった赤い階段が、今は不自然に長く感じられた。