表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/52

ハロルドのお茶会

お読みくださりありがとうございます。

おかしな点は、ブラックホールに投げ込んでください。



「ごきげんよう、リナ。」

マリ姉が話し掛けてきた。


 ここは、シュゼイン公爵邸の庭園で開かれているお茶会会場である。


 令嬢はそれなりの人数が集まっていて、こんなにも婚約者のいない令嬢が居たのかと、人数を確認した時は、まだまだ私も大丈夫なのではないかと、ホッとしていた。


 それから、会場を見回し、どこに座ろうかと確認して歩いていると、お喋り令嬢達がワチャワチャと騒いでいた。


 その話が聞こえてしまったのだが、どうやら、このお茶会が、アーハイム公爵子息の為に開かれるのだと、何処からか聞きつけた婚約者がいるにもかかわらず、彼との婚約を望む令嬢や野心家の親族のいる令嬢が、ぜひ縁を結びたいと数多く集まってしまっているのだと言う。


 本来の婚約者のいない令嬢は、どれくらいなのだろうか、もしかして多くないのかもしれないという不安を、リナは抱いた。

 婚約者がいるのに、参加する強者が多くいるのかと好奇心を持ちながら、とりあえず、自分は本日の主役様の婚約者の座強奪戦には関わらないので、食い気を優先しようと切り替える。


 流石、公爵家、社交界のドンの開くお茶会である。

 目移りする。

 美味しそうなケーキとサンドウィッチに狙いをつけつつ、まず庭園の隅にある目立たないテーブルを確保して、腰を落ち着かせようと考えた。


 庭園は広いが、令嬢の人数が多いので、セルフで好きな食べ物を取れるようになっていた。

沢山の4~5人掛けのテーブルセットが、庭園の彼方此方に用意してある。


 リナはアルムの言いつけ通り、知り合いの令嬢と情報交換し、主催の公爵夫人へ挨拶と少し談笑を終えてから、食べ物をお皿に取り、目立たない席に一人で座り、お菓子をつまみ始めた。


 そこにマリアがやってきた。

 まだ本日の主役が会場入りしていないので、今はお役目がないらしい。


 一緒に談笑しながら、ケーキや軽食を頬張った。


シュゼイン家のメイドがマリアにそろそろですと、声を掛けてきたので、マリアは立ち上がり、では行ってきますと、公爵夫人の方へ向かっていった。


 しばらくして、一瞬、きゃぁっと黄色い歓声が沸き上がるのが聞こえたので、アーハイム公爵のご子息が来たのだろうと考え、リナはのっそりと席を立った。


 リナは誰もいないセルフの菓子テーブルをゆっくり回り、吟味し皿に取り、テーブルに戻ってお茶の続きを味わった。

 お菓子も十分に堪能し終えたので、そろそろお暇しようかしら?と思い始めていると、マリアが戻ってきた。


 一通りご令嬢のテーブルを回り終えたらしい。

 そこにカイルも合流する。


「はあ、疲れた。俺はこういう女の多い集まりに慣れていないから、きっつい。」

 そう言いながら服の匂いをかぎ、うへぇと言い、顔をゆがませた後、服を払い、メイドが淹れた紅茶を一気に飲みほした。


 その隣で、マリアも紅茶を飲み終えていた。

 お茶を催促しているので、その間、私は、みんなの分のお菓子と軽食を取りに行き、席に急いで戻った。

 かなり、しゃべったのかな?疲れているみたい、甘いものが必要ね。


 席に戻り、お喋りを再開してから程なく、先程よりひときわ大きな歓声が沸き起こった。


 例の子息が婚約者でも決めたのかな?なんて考えながら、マリア達とお茶を楽しんでいると、


「こんな隅にいたのか。」

 と、誰かが声を掛け近寄ってきた。


「ハロルド?」

 カイルが言った。


 視線を来た人物に向けると、そこには背が高く、肩まであるアッシュブラウンの髪をなびかせ、整った顔立ちの好青年がいた。

 おや?っとした表情で、私を見た青年は、私に話し掛けてきた。


「はじめまして、まだこの会場で挨拶していない、こんなに可愛らしいご令嬢がいらっしゃったのですね。私は、アーハイム公爵家子息 ハロルドと申します。 あなたのお名前をお聞きしても?」


「はじめまして、アーハイム様。ハートフィル侯爵子女 リナと申します。」

 そう挨拶を交わすと、彼は相席の了解を取り、リナのテーブルに腰を下ろした。


「どうしてハロルドがここに来たの?気に入った令嬢と自由に話してこいって言ったよな。」

 カイルが面倒そう言うと、


「そうしようとしたのだけれど、思わぬ客人が来てね、居場所を奪われてしまったのさ。それで、こっちに逃げてきた。それより、リナ嬢は二人と親しいのかい?」

「あぁ、リナの家とは昔から家族ぐるみで仲良くて、小さい頃からよく行き来しているんだ。今もよく会ってるし。それにリナの兄は、マリアの婚約者だ。」

「そうなのか、カイルもマリアも気に入っているようだし、あなたは良いご令嬢なのだろう。そうだ、私は彼らの従兄だし、私とも仲良くしてくれないか?リナ嬢。」

 ハロルドは、色気のある声で、不快感がないように自然に許可をくる。

 嫌ですとは言いづらい。


「もちろんです。カイルとマリ姉から仲良しの従兄だと聞いておりますわ。こちらこそ、よろしくお願いします。」

 と、ハロルドに向かってリナは貴族の笑みを返す。


 すると背後から

「何をよろしくなんだ?」

 声がした。


 そう言った人物の方へ眼をやると、そこには、エドワード殿下と兄さんが、令嬢達をバックに引き連れて、堂々と立っていた。


 え?何?何でこの二人がここにいるの?

王城勤務は?

 カイルは来ること聞いていたのかしらと、カイルを横目に見ると、溜息をついていた。


 その瞬間、マリアが

「アル!」

 と言って、勢いよく席を立ち、兄さんに駆け寄り、飛びついた。


 座っていた椅子がひっくり返り、メイドが直している。

 兄さんも両手を広げ受け止め、ギューギューと抱きしめあっている。

 周りの令嬢たちが頬を染め、キャピキャピ言っている。

 はあ~、2人の通常運転だ。


「わお、熱烈だね!」

 とハロルドが言うと、

「いつもの事だ。」

 と、カイルが遠い目をして言うので、私は横で、うんうんと大きく頷いた。


 影がテーブルに陰る。


 何か、忘れているような?


「おい、私の問いに答えろ、リナ嬢、何をよろしくしたのだ?」

 あっ、殿下、そういえば居たわ。


 ん?さっきの質問って、兄さんじゃなくて殿下がしたの?


「……ええっと、ですね。」

 私がまごついていると、


「アーハイム殿、リナ嬢を婚約者に決めたのか?」

 殿下は私を指さして、いきなりハロルドに聞いたのだ。


 私は、なんだって!?と、殿下を驚きの表情で見つめる。

「なっ、ちがっ」

 即座に否定しようと私が言いかけると、


「それもいいかもしれないな~。」

 ハロルドが呑気に言いだしたので、殿下の後ろにいる令嬢たちがザワついた。


 え~、こいつら、何てこと言っちゃってんの……私が頭を抱えていると。


「ちょっとさ、君達、何を勝手な事を言っているのかな?」

 兄さんが1ミリも笑っていない目で貼り付けた笑みを浮かべ、割って入ってきた。


 兄さんが人前で笑顔である…。

 あの兄さんがこんなに大勢の前で…。


 笑顔の奥底に気づきもしない令嬢が頬を染めて兄を見ている。

 その表情を見て悟った数人が生唾を飲み込んだ。

 マリ姉は、ブフッっと笑いが出るのを必死で手で押さえ隠してる。


「うちの妹は、今日、マリアの付き添いで来ただけだから、婚約とか全く関係ないから、適当なこと言って、変な噂を広めないでくれるかな。公爵家や王族でも、妹を陥れる奴を僕は容赦しないよ。」


 季節外れの冷気が、自分達の周辺を横切って行った。


 そう、2人に告げた後、隣のマリアの手を掴み、バッと、私の方を見て、


「リナ、帰るよ!」

と、デカデカと言い切る。


「はい、兄さん。」

 条件反射で席を立ち、私は答える。


「マリアも。」

 兄さんが呟くと

「もう、アルったら。」

 と、マリアは微笑ましいものを見る目で兄を見て、彼に手を引かれていった。


 そして三人は、公爵夫人に帰る意思を伝え、颯爽と会場を後にした。


 そんな私たちの後ろ姿を呆然と見続けていた殿下に、

「とりあえず座ったらどうですか?」

 と、カイルが声を掛けて、着席を促した。


 殿下は大人しく席に座ると、カイルとハロルドと3人で、しばし無言でお茶を飲むのであった。



次回は、エドワード視点です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ